表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/115

63 352-09 リューネ襲来(下)(1980)

「どうして、ナスターシア様までご一緒にお祈りされるのです?」


 昼間から、あやしい行為に耽った罰として、祈祷を命じたのはいいが、三人だけにしてしまうのは、場所が代わるただけになりそう。


 というわけで、ナスターシアは聖堂まで監視についてきたのだった。


「リューネ様を餌と一緒に放置したらダメなことに気づいたからです」


「餌……」


 餌の一人、クラリスが自分の立場を理解する。


「修室(修道女の自室)は禁域ですからね! 入っちゃダメですよ」


 ナスターシアは、しっかりとリューネに釘を刺しておく。




 聖堂には数人の修道女と修道士がいた。ここは、普段男女が会うことが出来る修道院唯一の場である。


 突然のナスターシアの訪問にざわつく。


「そうだ、ナスターシア様。わたくし、あなたの天使の姿を見たことがありませんの! 折角ここまで来たのですから、是非! ひと目見てみたいと!」


 リューネは、また突然勝手なことをいい出す。


「見世物ではありません! 嫌ですよ」


 誰かが扉から飛びだしていくが見えた。


「いいじゃない! 減るもんでもなし。それが見られたら、わたくし、安心して帰路につけます」


 リューネがニヤリとして、ナスターシアを見る。


「脅す気ですかっ!?」


(しかし、こんな災害のような淫魔は、早めに帰ってもらうに限る!)




 逡巡の後、ナスターシアは提案する。


「では、こうしましょう! 一時間、神に祈りを捧げることを条件に、翼をご覧に入れましょう」


「一時間?」


 なかなか、こってりと祈りを捧げられるのだな……と。


「そうですよ、シスター・クレール。きっと、祈りが足らないのです。神への信仰が足らないから、(よこしま)な考えが浮かんでしまうのでしょう」


(よこしま)だなんて……」


「肉体的快楽に溺れるなど、(よこしま)以外の何ものでもありません!」




 ドカドカと一人誰か入ってきた。

 誰か知らないが、関係ないので無視する。


「では、始めましょう」


 ナスターシアは、祈りを捧げの姿勢をとり、実際イオス神への祈りを捧げる。

 その体に、うっすらと光を(まとい)い始めると、翼を生成した。



 バサッ




 体の大きさに比して、翼はかなり大きい。たたんだ状態でも彼女の身長の倍以上ある。


 二枚の翼の間に、ステンドグラスから差し込む陽光が輝き、彩る。


 ゆっくり、ほんとうにゆっくりと、翼を広げ、上げていく……。


 ステンドグラスの光が、逆光となり、まぶしくそのシルエットを照らす。結い上げられた白銀の髪が、逆光でキラキラと輝く。


 祈りに夢中になってしまったナスターシアは、だんだん宙に浮いていることに気づかなかった。


 そんなナスターシアを、三人は下から見上げつつ、祈りを捧げ続ける。



 聖堂の後ろの席から、先ほど入室してきた男は、食い入るようにその様子を見ていた。髪の毛一筋さえ、見逃さぬという勢いで。


 しばらくすると、ナスターシアは宙に浮いていることに気づき、そっと降りると、翼を消失させた。


「あ、お祈りはそのまま続けて下さいね」


 急に現実に引き戻されるような声に、我に返る三人。


 と、聖堂にいた人達……。


「ありがたや~」


 リューネが茶化す。


「あなたという人は……、まったく……」


(そりゃあ、リューネ様のお父様もさぞお困りでしょうよ)


 リューネは、腰をかがめてナスターシアに耳打ちする。


「今度のトーナメント大会ですけど、大公国で開かれるんです。でも、聖女が現れたら騒動になりますから、ナセル様で来てくださいね」


「行かない方が無難ですね」


「いいえ、あなたはきっと。来るはずです」


 そういうと、懐から地図を出し、そっとナスターシアに渡した。


「えっ?」


(ただ奔放なだけに見えるけど、装っているだけなの?)


 リューネの正体に、底知れぬものを感じたナスターシアだった。


「じゃ、も少しお祈りしたら、帰りますわ」


 その言葉に、心底ホッとする。


「あっ……、くぅ……」


 突然、リューネがお腹を押さえて(うめ)き、しゃがみ込んでしまった。


「大丈夫ですか?! どうしました?」


「お腹が……」


 ナスターシアは、どうしたらいいかと慌てて覗き込む。


「お腹が痛むのですか?」


 リューネは、その瞬間!


「隙有り!」


 チュ!


 ナスターシアの唇を、そっと奪ったのだった。


「うぐっ……。またしても……」


 後ろからは、いくつもの悲鳴が上がる。

 修道士は、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。


「リューネ様っ!! 何てことを!」


 クラリスが珍しく抗議の声を上げる。


「あら、羨ましくて? おねだりすればいいのですよ」


 呵々と笑い声をあげながら、リューネは帰ろうとする。


「おーい、お祈り~」


 ナスターシアが、一応言ってみるが無駄だった。


「もう、目的を全て達しましたから……」




「なんでしょうね、クレール。結局彼女のいいようにあしらわれた気がするんですけど?」


「たまには、いいのではありませんか?」


 なんだか、晴れ晴れとした表情を浮かべている。


「はぁ……。なんだかとても疲れました」


 振り回されるばかりのナスターシアだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ