56 352-09 百合の華が咲き乱れる季節(1777)
ナスターシアが、自室に帰るとクレールが待ち構えていた。
「お帰りなさいませ」
「剣を拭く布をいただけますか?」
クレールは、ナスターシアの持つ、少し血のついた剣を見て卒倒しそうになった。
「まあっ!! 一体なにが起きたのでしょう! お怪我はございませんか?」
クラリスは、ことの顛末を詳しく説明して聞かせてやる。
「それでですね、シスター・クレール。ナスターシア様の格好いいことと言ったら……。もう、わたくし……」
「ダメですよ、シスター・クラリス。ナスターシア様に心を寄せるなど……。許される訳ありません」
「でもっ!」
「私というものがありながら……」
クラリスは、ボソリと呟いた。
そうそう、浮気はよくない……って、おいっ!!!
「あの。私は居間で休みますので、これを拭いて、鞘にお願いします」
「はいっ! これは失礼しました。仰せのままに」
(はあ。隣で二人きりの時は、ナニしてるんだろう? クレールが攻めで、クラリス受け、な訳か……? そもそも、百合に受けも攻めもないか?)
ナスターシアは、居間のソファでごろんとなりながら、二人の変な関係について想像する。
あんなことや、こんなことをしているんだろうか? いや、そもそも禁忌ではないのか? 禁忌だよね? 百合はそれほど意識されてないのかな? ま、いいや。
「!」
(いいこと思いついた!)
ナスターシアは、急に突拍子もないことを思いついた。なぜ、そんなことを思いついたのか? それはさておき、フォーム(生成)の神力で、ジョエルを作ってみることにした。
人型はかなり難しい。なるべく詳細に思い出してフォームする。
でろん……。
曖昧な部分が多すぎると、へんな目的のビニール人形みたいになってしまう……。
もっと、具体的に!!
なんども、生成と消失を繰り返すうちに、少しずつ、いい感じになってきた。
もっと、もっと具体的に!
服を着せるのが結構難しい。
よし、上半身は裸にしよう!
(むふふふふ……。なかなかの出来)
生成した等身大ジョエル人形は、床に立たせることが出来ない。貫通していってしまうからだ。フォース制御で浮かせばいいのだが、疲れるので抱っこする。
ほどよい重さが、圧迫されていい感じ。
「ぁあっ、ジョエル様……」
自分で作った人形を抱いて、ソファで寝そべる。
人間を意識して、生成しているので柔らかさはあるが、骨格までは意識してないのでやっぱり変だ。
傍から見れば、かなり怪しい……。
(キスしてみようかな……)
まだ完成度が若干足りないが、そこは想像力で……。
そっと、唇を重ねてみる。
(あっ! ダメ! 本物が欲しいっ!)
「ナスターシア様、失礼します」
(あっ!)
瞬間的に、ジョエル人形を消失させる!
「どうかされましたか?」
ナスターシアの焦る様子を見て、クレールが不思議そうにする。
「い、いえ。すこしウトウトしてました」
「お疲れのところ失礼しました。御食事をお持ちします」
危なかった……。いくらなんでもジョエル人形は変態過ぎる!
添い寝に使うだけにしよう。
その夜……。
むっふふふふ。
やっと夜だ。
天蓋付きのお姫様ベッドで、寝衣としてもらったネグリジェにドロワーズ姿になって横になる。
(さてさて……)
早速、ジョエル人形をフォームする。
(やた! しかも、暗いからリアリティアップ! いや、見えないだけか)
さみしい夜も今日で終わり……。
ジョエルを抱っこして寝てみる。
(う~ん。悶々として寝れんっ!! なんか、ぬいぐるみ的なものの方がマシかな……)
目が冴えてしまったナスターシアは、ジョエルを消失させると部屋を出てみた。
室外は、ひんやりとしていて、ますます目が冴えてしまう。
ん? なんだか人の気配がする……。
ほぼ真っ暗な廊下を通り、階段を降りてみる。
声がする……。
(誰か起きてるのかな?)
そっと階段を降りきったところで、ナスターシアが目にしたものは……。
「ん……。あ、ぅん……。あぁ……、ふぅ」
甘美な吐息が漏れ聞こえてくる。
修道女二人が抱き合っていた……。
「あっ……」
一人がナスターシアに気づく。
だが、もう一人にしっかと抱きしめられて、耳を攻められ甘い声を出して目を閉じる。気づかない振りを決め込むようだ。
(ああ……、帰ろ……)
部屋に帰っても、悶々としてなかなか寝付けない。
(風紀が乱れとるね……。別にいいけど……)
次の日から、修道女の間では、「ナスターシア様がみてる」が密かに合い言葉になった……。




