表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/115

53 352-09 修道生活(下)(2458)

 修道院での孤児達の生活は単調だった。


 朝から体の清拭(せいしき)、着替えのある者は着替え、お祈り、洗濯、清掃、食事、お祈り、自由時間、学習、作業、自由時間、お祈り、就寝の繰り返し。


 基本は、できることを出来る人が一生懸命する。


(ああ、お風呂入りたいな~)


 しかし、ここにいる子達は、お風呂などという贅沢からはほど遠い生活をしているのだ。そんなこと、言っていられない。




 修道院生活二日目。


 今日の修道院は朝からなにやら騒がしい。


「ちょっと、聞いた?」


「ナスターシア様が行方不明だって!」


「えーっ!」


「セルヴィカでも拉致されそうになったみたいで、いま大騒ぎよ」


「大変!」


「捜索隊が編制されるらしいわ」


「早く見つかるといいわね」




 ナスターシアは、そんな噂話を聞くこともなく、ミネットと洗濯したり、文字を教えたりしていた。


 外は暑いけど、建物のなかはひんやりと涼しい。


 暑いね~などと、平和な会話をしていた……。




 修道院生活三日目。


 いよいよ、修道院中が騒がしくなる。なかには半狂乱の修道女もいた……。大変なことになっているのだった。




「シスター・クレール! お気を確かに!」


「大丈夫。必ず見つかりますよ」


「神は私たちをお見捨てになったりしません!」


「どうしましょう! お祈りが捧げ足らなかったのよ!」




 ナスターシアは、ミネットと遊んでいた。


「ほら、こちょこちょこちょ~!」


「きゃははははは! 止めて、止めて」




 修道院生活四日目。


 修道院全体がなんだか、暗く淀んだ雰囲気に包まれていた。


 すすり泣く修道女達……。




 そんななか、今日も、平和な修道生活を送るナスターシアだったが、朝から集合の命令が出た。


「全員、中庭に整列!!」


 修道院にいる全員が中庭に集められる。


 すごい人数だった。300人くらいだろうか。


 孤児達は、最後尾に並ばされたため、前の方でなにか言っているが良く聞こえなかった。


 ミネットは遊びたそうに、ナスターシアの腕にしがみついたり、まとわりついていた。


 良く見ると、お爺様が立って喋っている。なんだか、元気がなさそうだ。


(あとで、会いに行こう。あ、でもミネットが寂しがりそうだな~)




「森の中をしらみつぶしに探すそうよ」


「きっともう、カイル様のところにお戻りになられたのよ……」


(ん? 誰か探してるのかな?)


「誰を探すんですか?」


 ナスターシアは、近くにいた修道女に聞いてみた。


「今さら何言ってるの? 聖ナスターシア様よ! ずっと行方不明なのっ!」


「えっ……」


 なにやら、とてつもないやらかし感が……。


(だから、最初から私だって言ってるのに!)


「それ……、私です……」


「はぁ? ふざけないで! 貴方みたいなみすぼらしい孤児なわけないでしょ!!」


 怒られたよ……。

 まあ、確かにみすぼらしい……。でも、それとこれは関係ない気がする。


 先入観とは恐ろしい。


「アンネぇ……」


 ミネットは不安な声を出す。もっと一緒にいてあげたい……。


 でも……。




 思い切って、叫ぶ。


「お爺様!!! こーこでーす!!!」


 空気を読まない、すっとんきょうな叫びが響く!


「ちょっとアンネ!! すいません、すいません、頭が弱い子みたいで……」


 サラが慌てて周囲に釈明する。

 だが、お爺様には確実に声が届いたようだ。


 ざわめきが起こる中、人をかき分けてヘロンが近寄ってくる。


「申し訳ありません! 後でキツく言って聞かせますので!」


 顔面蒼白になり平身低頭して謝るサラの脇を素通りして、ナスターシアに近づく。




「ナスターシア様、心配しましたぞ」


 うっすらと涙を溜めて、ヘロンが覗き込む。


 周囲の孤児達、修道女達は目を剥いて驚く!

 マジでこいつ、いやこの人だったのか!?


 ミネットも呆然としている。なにが起きているのか理解できていない。

 あとでね、とナスターシアはミネットにつぶやく。


「お爺様……、ごめんなさい。こんなことになっているなんて知らなくて……」


 すぐに、涙はどこかに行き、むっとするヘロン。


「こちらへお越し下さい」


 へ? 言葉遣い変だよ、お爺様。


「失礼します」


 ヘロンは年老いた体のどこにそんな力があるのか、ナスターシアをひょいとお姫様だっこで抱えると、そのまま最前列へと向かう。




「皆に告げる! ここにナスターシア様を無事発見できたこと、皆と神に感謝申し上げる! 解散!!」


 言葉からは、怒りが感じられた。

 ひょっとして、ずっとこの中にいたんじゃないのか? などと、囁きあいつつ、解散する修道士……。

 ここにいる全員が思っただろう。




 どうしてこうなった?!!!




「先ずは、ナスターシア様のお部屋にご案内致します」


 お爺様が連れて行ってくれるらしい。

 というか、……説教かな。


 ナスターシアの部屋は聖堂と女子修道院の間の建物の二階にあった。

 お爺様が一通り案内してくれる。


 なんだか、やたらと広い。

 廊下から応接室へと通じ、その奥には執務室、更に奥に居間、寝室と続く。寝室には祈祷台が設けられ、隣には湯浴み場、つまり風呂がある。こんなの一人で使い切れるのだろうか?

 居間からは、隣の世話係の部屋に通じている。


 応接室は、それなりに豪華な造りになっていた。


 お風呂は、専用お風呂……なんて贅沢!

 ドライヤーは、新しくつくった物のようだったが、しっかり据えられていた。


 寝室のベッドは王子から送られたものが運び込まれていた……。




 ほぼ、お城のお姫様生活である。


「さて、ざっとこんなところじゃな」


 いよいよ、お説教の始まりか?


「さて、どうしてこうなった? ずっと心配しておったぞ」


「ああ、私は言ったんですよ。でも信じてもらえなくて……」


 お爺様は、ナスターシアをしたから上まで眺めて、ため息をひとつつく。




「もうよいわ……。風呂を沸かしてやるから、綺麗にするがよい」


 なんだかとても疲れているように見える。


「お爺様。私、ごめんなさい。ご心配おかけして……」


「みんな! みんな心配した!」


「わあ、もう、ごめんなさいってば! でも、みんなの生活も体験できたし、よかったこともあるんだよ?」


「そうかもしれんな。今日はもう、休め。わしも疲れた」


 まだ午前中だが。


 なんだか、このままぽっくり逝ってしまいそうだ。


「ありがとう、お爺様」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ