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47 352-08 夏だ!海だ!バカンスだ!酒場だ!(2249)

 港町セルヴィカ。クラピソン家が治めるセルヴィカ領の中心都市である。船による外国との交易も行われている。

 潮の香りのする町であるが、同時に海の荒くれ者の町でもあった。


 ナスターシア達は、町の入口の門で入市料を支払い、手形をもらう。一応身分の確認もあるのだが、ナスターシアと明かすわけにはいかないのでエレナと偽って入ることにした。


 ナスターシアは、わざとくたびれた服を着て、フード付きマントを羽織って顔を隠していた。

 一方、リュシスは普段の侍女の服から、ちょっとかわいい若草色のブリオーに着替えていて、印象が違って見えた。

 マルセルは相変わらずのキャソックである。

 ちょっとしたファンタジーRPGのパーティーっぽい。


 剣士三人、魔法使い、クレリック、子供一人……。




 馬と馬車を(うまや)に預け、宿に向かう。宿には、お風呂が無かった……。


「えーっ!! お風呂ないんですか?! もうずっと入ってないんですよ!」


 ナスターシアにとって、お風呂と洗髪はなにより大切な習慣の一つだった。


「あー、それ。普通ですから」


「川が近いから、川に行けばいいんじゃないか?」


 マルセル兄様とジョエル様が、常識というものを教えてくれる。


「公衆浴場ならありますけど、混浴ですよ?」


 宿屋の主人が、親切に教えてくれる。混浴とはつまり、割といかがわしい感じに発展してしまっている、ということである。暗に、ナスターシアやリュシスは、行かない方がいいと言ってくれているのだ。


「んなことより、飯にしよう!」


 ロジェは旅に疲れたようだ。


 宿屋の主人に聞いて、お勧めの酒場に来てみた。宿屋からほど近い、繁華街にある。まだ、少し時間が早いのか、空いている。


「ワイン3つと、あとなんか腹の膨らむヤツたのむわ。あー、水を3つよろしく」


 なぜかロジェが手慣れた感じだ。


「ロジェさん、来たことあるんですか?」


「ああ、マルセル様。俺はお宅に雇われたあと、ずっと荷馬車の警護任務ばっかでな。あちこちの町に行ったもんだよ」


「はいよ!」


 店子が飲み物を運んできた。


 ドカッ


 乱暴に置く。


「先ずは、お疲れさまってことで」


「乾杯!」



「がはーっ! うめーっ!」


「なんか、ずるいなー。リュシスが飲むなら、私もちょっと飲みたい」


「「ダメ!」」

 マルセルとジョエルでハモる。


「ワインおかわり!」


 ロジェとアランのペースが早い!




 料理が出てきた! チキン料理だった。海辺の町だから、てっきり魚だと思ったら、嬉しい誤算である。


「おっ、バニラ入りチキンだな!」


 さすが、ロジェ。詳しい。


 グリルしたチキンにこれでもかっとたっぷりのホワイトソース!

 しかも、大量!!


 見た目は美味しそうだが、何故か甘い匂いがする。


 ナスターシアは、一口食べてみた。


(ぬおおおおおおっ! どうしてこうなったっ!!! なぜ、美味しいもの二つから、不味いものを作り出せる!?)


 だが、背に腹はかえられない。お腹空いているので、頑張って食べる。

 慣れれば、大丈夫かもしれない……。




「おぅ、兄弟!! いい女連れてんじゃねぇか」


 酒場名物だが、さっそく変なのが絡んできた。

 スキンヘッドで筋肉質のガッチリした体格で、こんがり焼けた肌をしている。船にでも乗っているのだろうか?

 リュシスを見て、品定めしているふうだ。


「あれ? 久しぶり! ロジェじゃないかい!! ちょいとアンタ、やめときな、()されちまうよ!」


 割腹のいい……もとい、かっこいい感じの女性は、ロジェのことを知っているようだ。


「あー? 俺よりコイツの方が強えってのかよ?」


「腕相撲で勝負ってのはどうだ? 勝ったら、好きなの連れていきな」


 おいおい、負けることはないと思うけど、酷くない? ロジェさん。


「いいだろう! お前が勝ったら、俺の女をやるよ」


「それは、もらっても困るな。ここの払いを持ってくれよ」


「いいだろう!」



 酒場は、一気に盛り上がっていく。

 一人用の丸テーブルがひとつ用意され、回りを男達が取り囲む。

 本人達とは別に、賭けまで始まる始末。


「レディーッ! ファイッ!!」


 ロジェは、涼しい顔だが、相手は血管が弾け飛びそうなほど、必死の形相で腕に力を込める。

 ロジェの腕はピクリとも動かない。やがて、相手が疲れてきた頃にぐいぐいと力をいれて押し倒していく……。


「嘘だ! おおおおっ! 痛えっ!!!」


 ドン


 あっけなく、ロジェの勝ち。


「だから言ったじゃないかい!! 馬鹿だねぇ、まったく」


「仕方ねぇ、勝負は勝負だ……。俺が奢るから、好きに飲めや!」


 ほとんどチートのロジェに、一般人が勝てる訳がない。




「そういや、あんた達、フェリアから来たんだろう? なんか、王都の建国祭で天使が降臨したって噂聞いたんだけど、ホントなの?」


 ブフーーーッ!!


 ナスターシアが飲んでいた水を吹いた……。


 料理の方を向いていなくてよかったが、マルセル兄様が被害に遭ってしまった。謝りつつ、拭くナスターシア。


「さあな、俺は見てねぇから知らんな。もし本当なら……俺も見てみたいな」


 リュシスがナスターシアの背中をさすってやる。


「そんなのいるわけないよねぇ。アタシも嘘だとは思うんだけど……。でも、そのための馬鹿でかい修道院も作ってるらしいし……。ま、そのへんは、アンタのが詳しいだろ?」


「俺も詳しくは知らん」


「それよりあんた、今夜はうちに泊まらないかい? 積もる話も聞かせてくれよ」


 ロジェはアランを見遣る。

 アランはうん、と頷いた。


「そうだな、すまんが今夜はコイツのとこで世話になる。朝に宿で合流しよう」


 ロジェさんの昔の彼女なんだろうか? そんなことを考えながら、食事を済ませて宿に帰る。


(髪の毛洗いたい……)

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