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44 352-07 お届け物達(2298)

 王都から、王宮の馬車と商会の馬車を乗り継ぎ、偽装しつつフェリアに戻る。

 お屋敷の周りには領主の館から派遣された衛兵と商会の護衛が固めていたが、噂好きの人々がナスターシアを一目見ようと集まっていた。


 ナスターシア達は、人混みをかきわけ、馬車ごとお屋敷の敷地に入っていく。


「あーあ、なんだか大変なことになっちゃったなぁ……」


 新しい修道院は、早速『セント』ナスターシアとか名付けられている。

 聖女とか、とても重い……。そして、面倒である。

 通常は、功績のあった人の死後に認定されることが多いのだが、今回は異例の措置であった。


「私も疲れたよ」


 マルセルも疲れた様子だった。


 思えば、馬車で野営していたときの方が平和だった。

 本当に、もうここでは暮らせないかも知れない……。


「どうしてこうなったんでしょうね?」


「どうしても、こうしても……。やらかし散らしたからじゃないかな?」




 領主より資金的には余裕があるはずなのに、お屋敷は領主の館より遙かに質素でボロだった。ガラスの生産も始まっていたが、お屋敷には一枚も使われていない。鎧戸で、すきま風ピープーなため、冬は特に寒かった。


 だが、もう住めないかも知れないと思うと、一気に愛着があったことに気づかされた。


 お屋敷から出ると騒ぎになるので、ナスターシアはため息と一緒に引きこもり生活を始めざるを得なかった。







 二週間ほど過ぎた頃、リュシスが嬉しそうな声で呼びに来た。


「ナスターシア様! 何か大きいのが届きましたよ!」



 何事かと、見に行ってみると、ガタイのいい職人さん四人が荷物を運び込んでいた。


「ああ、御依頼いただいていたドライヤーが出来ましたんで、お届けに上がりやした」


「……おおっ! てか……デカっ!!!」


(これは、ドライヤーというより、きっと送風機……)


「ものすごく風が出るんで、鍛治屋仲間に見せたら注文が殺到しちまって……。まだまだ作らないといけないんすよ。また何か思いついたら言って下さい。あ、で、どこに置きやしょう?」


 二階以上に置いたら床が抜けないか心配だったが、二階のお風呂から出たところに組み立てて置いてもらった。




 ドライヤー……送風機……、いやここは敢えてドライヤーと呼ぼう。

 それは、大きなシロッコファンと、ギア、足こぎ部分で出来ていた。別に置いた椅子に座って足でペダルを漕ぐと、ファンが廻り、送風口から風が出る仕組みだ。


「ねぇ、リュシス。ちょっと漕いでみてよ」


「はい、畏まりました」


 漕ぎにくいので、はしたないがスカートをまくり上げて、器械をまたぐように座る。

 リュシスが漕ぐと、先細りになった送風口からものすごい風が吹き出す。


 試しに髪をかざしてみる。


 ぶおおおおっ!


「なんじゃ、こりゃあっ!!!」


 楽しいっ!


 めっちゃ風来るっ!


「交代しよっ、交代!」


「はい」


 リュシスと交代してみる。


「すごい風でしょ? 口に風を入れてみてよ」


「こうですか?」


 リュシスは、あんぐりと口を開けて送風口に近づける。

 ナスターシアは、ここぞとばかりに漕ぐ勢いを増して、爆風を送ってやる!


「ぅがーぉおおお」


 リュシスの口が風圧で広げられ、リスのようになる……。


 思わず、二人で馬鹿笑いしてしまった。


「あはははははははははは、あー可笑しい!」


 最近塞ぎがちだったナスターシアは、久しぶりに大笑いして、すっきり晴れやかな気分になった。


 騒いでいると、エレナ達もやって来た。


「エレナもする?」


「やめておきます。でも、これで長い時間髪を扇がなくて良さそうですね」


「まあ、それが目的だからね。あと、冬になったら暖かい風が出るように改造してもらおう!」


 冬になったら……。その言葉に、エレナはすこし寂しそうな顔をした。

「明日の朝から、これを使って髪を乾かそう!」


「そうですね、上手くいったら一週間に二度、洗髪してもいいですよ」


「やったー!」




 翌日。早速、朝の湯浴みで、洗髪して試してみる。


 誰か一人見つけて漕いでもらわないといけないが、扇ぐより効率よく、早く乾かせるようになった。

 漕ぎ始めが重いと言うので、変速ギアがあるとありがたいと思ったが、構造がわからないので諦めることにした。最初にちょっと、手でファンを回してやると、楽になることも発見した。


 その日の午後、また何か届いた。


「今度はなんだ?」


 今度は、品の良さそうな男達が運び入れてきた。


「シャルル王子から、ベッドが贈られております。ナスターシア様のお部屋はどちらでしょう?」


「えっ?」


 なぬ? ベッドだと?


 仕方なく、エレナに案内させる。


「古いものは、持って帰りますが?」


「あー、いえ。来客用に置いておいてください」


「はあ」


 どう見ても、ベッドが二つ並ぶと部屋がベッドでいっぱいいっぱいだ。

 だが、無理矢理入れさせる。




 組み上がったベッドは、天蓋付きのお姫様が使うようなベッドだった……。

 何を考えているのか、シャルル王子……。


「エレナ、寝てみていいよ。私こっち使うし……」


 古いくたびれたベッドを使うから要らんと主張するナスターシアを、エレナは呆れたように眺めた。


「そんな、失礼ですよ?」


「え? だって……嫌じゃない? まるで……抱かれて寝るみたいで」


 そりゃ、平民からの贈り物だったら誰かにあげるとか、処分してしまうとか出来るかもしれないが、相手が王子だから困るのだ。


「他の女性が聞いたら、呪い殺されますよ……」


 シャルル王子なら、一緒にドライヤーで遊んでくれるかも? とか、想像してみる。


「ぷっ……。わかりました。交互に使いましょう」




 昼食の後、どれどれ、と天蓋付きのお姫様ベッドに潜り込む。


 ふむふむ。これはやわらかで気持ちいい……。


 ナスターシアは眠気をもよおし、うっかり昼寝をしてしまったのだった……。

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