表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/115

42 352-07 建国祭 群衆の取扱い方(1843)

 火災の現場上空から、お屋敷に向けて飛行する。町には、ナスターシアの帰投先を見届けんとする人達が、全力で追いかけてきていたが、月が出ていないから、すぐに見失うだろう。


 お屋敷が見えたとき、玄関の前には黒いキャソック(神父服)を着たマルセルが立って空を見上げていた。


 お屋敷にむけて高度を下げ、速度を落としていくと、人が群がってきた。追いついてきた人もいるが、どこから出てくるのか増えている!


 今さら行き先を変更してたどり着ける自信もない。


 ナスターシアは、マルセルにむかって徐々に近づいていく……。


(あっ……ダメ……)


 あと2メートルほどというところで、意識が飛んでしまった。翼は雲散霧消し、その体は自由落下を始める。


「うわぁああ! っと!」


 バサッ


 マルセルは、上手く受け止めたが尻餅をついてひっくり返ってしまう。

 すぐさま人が駆け寄ってくる。


「両替商のお嬢様が天使だったのか?」


「たしか、ナスターシア様とか言ったか……」


「シャルル王子の恋人だ」


 吟遊詩人の妄想も加わって、もうめちゃくちゃである。





 マルセルは、騒ぎを静めるため、そっと唱える。

「……ウォーム」


 彼の周囲半径200メートルほどの範囲にいた人々が、幸福感に満たされることになった。


(建国祭の日に天使に会えるなんて、なんという幸せだろうか!? 嗚呼、もうどうなってもいい。ずっとこの幸せの余韻に浸りたい……)


 マルセルの神力は、彼を中心に放射状に効果を発揮する。その強度は、マルセルからの距離の2乗に反比例する。当然、近くにいる人は影響が強く、恍惚(こうこつ)名状(めいじょう)し難き甘美なる快感に(いざな)われ、力が抜け、意識を失い、その場に倒れ込んだ。


 騒然としていたお屋敷の周りが、一瞬にして静まり返る。


「おやすみなさい」





 マルセルが神力を放った後、なぜかリュシスがドアから出てきた。

 抱き合って、ひっくり返っているマルセル達を見て慌てる。


「早く中へ」


「うん、ちょっと手伝ってくれる?」


 二人はナスターシアをお屋敷に運び入れ、そして照明の下でナスターシアを見て驚いた。


 顔から服から煤だらけで真っ黒だった。酷い有様である。とりあえず清拭(せいしき)してやりたい。


「リュシス……着替えと清拭頼めるかな?」


「いやー……、どうでしょう? 私がしたと知ったら嫌がられると思いますけど」



 しかたない、弟でも妹でも一緒だ。


 二人は、ベッドのある部屋までナスターシアを運び、マルセルはそのまま服を脱がせて下着姿にして、顔や手をぬれタオルで拭いてやった。









 翌朝。


 ナスターシアは、なんだかわからないが超スッキリしていた。


(むふふふふ……。昨日はなんだかすんごく幸せな夢を見たぞ~。今日の夜も続きを見よう!!)


 外は既に明るいようで、鎧戸からは光が漏れている。


 そして、ふと気づくと下着姿だった……。


(うおっ! 服がないっ!! でも、コルセットは締めっぱなし……。マルセル兄様かしら?)


 体中焦げ臭い……。


 風呂だっ! なにをおいても風呂だ。


 フェリアから持ってきた服を探す。


 あった!


 着替えを持って風呂に向かおう。




「ああ、ナスターシア。おはよう」


 マルセル兄様が湯浴みを終えて出てきたところだった。


「しっかり髪も洗ってね」



「ありがとう、お兄様。そうします」


 なぜだ、なぜか優しい。






 湯浴みを終え、髪をタオルドライしつつ、王都用男装スタイルで出てくると、リュシスが待ち構えていた。


「ヘロン様が応接室でお待ちです」


 そういえば、ドライヤーは出来たかな? とか、考えつつ応接室に向かう。



 部屋には、お爺様の他、マルセル、フェルナンドと他に知らない男性がいた。


「なんて格好しておる! あとで、これに着替えるように」


「へ?」


 渡されたのは純白の絹で出来たブリオーだった……。結婚式じゃあるまいし。



「こちらは、王からの使者じゃ。命令を持ってきなさった」


 使者は、大仰な仕草で羊皮紙の立派なスクロールを手にすると読み上げた。


「王からの命令です。読み上げます

『ナスターシア=アキナス。右の者、直ちに王宮に出頭すべし』以上」


「と、言うわけじゃ。支度せよ。と言っても、時間がかかるじゃろうからのんびり待つがの」


 ああ、よくご存じで……。


「あの……、お昼頃までかかりそうなんですが、なにか食べ物とか……」


「リュシス! 後でなにか運んでやれ。他は?」


「ないです……」


(ああ、お爺様といろいろ話したいけど、使者が邪魔なんだな~)


「支度を調えて参ります」






 とりあえずのスープと堅いパンで小腹を満たし、支度を調えたナスターシアは、用意された馬車で使者とともにヘロン、マルセルと伴い王宮へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ