33 352-06 恋の作戦会議(1793)
初夏の夜。
ナスターシアの自室でリュシスと作戦会議である。
議題はもちろん、恋愛成就。
声をひそめてのコソコソ話だ。
「マルセル兄様は?」
「大丈夫です、お休みになりました」
「今日は手紙の勉強はお休みね」
リュシスは寝衣に着替えている。ナスターシアは、コルセットにドロワーズ姿である。男性陣には見せられない。
「ナスターシア様……なんだか胸が大きくなりましたか?」
「ふっふーんっ、ちょっとずつだけどね。育ってるよ。でもこれなしだと、歩くと痛いんだよね」
コルセットを指して言う。
普通のコルセットは、胸をぶっ潰してしまうタイプだが、ナスターシアが使っているのは胸を下から支えるタイプで、少し胸を強調する。
「腰もなんだか大きくふっくらしてきたような……」
「そ、そうかな?」
骨盤が広がり、お尻が大きくなったのは自分でも実感していた。
なんだか変な雰囲気になってしまう……。ナスターシアはあわてて本題に入る。
「じゃあ、始めましょう。先ずは、リュシスね」
「私は、いつでもマルセル様のおそばにいられますから……」
「マルセル兄様を甘く見てはダメ。絶対手出ししてこないから!」
「おそばにいられさえすれば……」
「……いや、でも、結婚……とか?」
「別にいいんです」
リュシスは、にっこり微笑んだ。
「えーっ! つまり、もう……十分ってこと?」
「まあ、そういうことかも?」
無欲の勝利か?!
「で、キスとかしたの?」
「えっ……そ、それは~、そのぅ~」
「したな……」
「…………」
リュシスは、頬を赤らめて俯いてしまう。
「どこで? いつ?」
「そんな! 言えません……」
「残念……」
これ以上、苛めるのはやめておこう。後でマルセル兄様を問い詰めればいいや。
「じゃあ、つぎはナスターシア様ですね」
「うん、お願いします……」
「ナスターシア様はですね」
「うんうん」
「もう、シャルル王子と結婚する未来しか見えません」
「えっ、えーっ!」
「嫌なんですか?!」
「うーん、そんなに嫌じゃないけど……子共とか要求されそうかな? と……」
「まあ、王子ですからね……うん」
「だよね……」
「出来そうですか?」
「そっ! それは聞かないでっ!」
「すいません、調子に乗りました」
「言わないけど、気にしてるのかな? みんな」
「どうでしょう? ところで何故ジョエル様が気になるんですか?」
「えっ? それは~その~。ジョエル様なら、まるっと私のこと受け入れてくれそうかなって、へへ」
「あんなにお堅い方なのに?」
「私を人として見てくれてるから……」
「(惚気全開ですね)でもお金は大事かも知れませんよ」
「それは経験から?」
「ま、まあそうですけども……」
「お金ねぇ……」
なんだか、リュシスがそう言うととっても現実感がある。
「どうしてもって言うことなら……」
「なら?」
「テオドール様から説得するしかないです」
「おじさんから?! なるほど! 将を射んと欲すればまず馬を射よってことか!!」
「何のことでしょう?」
「まあまあ……」
「要するに、です。好き嫌いは結婚と何の関係もないのです!」
「それは、まあそうよね」
「だから、とりあえず想いを伝えましょう!!」
「ええーっ! リュシスは言ったの?」
「そ、そんなこと! 私の口から言えるわけないです」
「なんでーっ! さっき言ったことと違うよ」
「私はいいんです!」
「ぐむむ」
「それとなくですよ、それとなく」
「会うことすら、殆どないのに?!」
「そうですねぇ……」
「手紙を書いてみようか?」
「それはいいかもしれませんね。頑張りましょう! 気品溢れるのを書きましょう!」
ハードルが高い……。
トントン
ドアをノックする音だ。
「ナスターシア?」
「マルセル様……」
(ちょっ、ちょっと恥ずかしい)
ナスターシアは、慌ててブランケットを体に巻き付けた。
カチャ
「あの……静かにして欲しいんですけど」
「すいません……。今日はここまでという事で」
リュシスが部屋の中にむかって残念そうに言うが、ナスターシアは何か思いつく。
「マルセル兄様、よいところへ。ちょっと入って下さい」
手招きして、中へ入れる。
マルセルは、弟の部屋だというのになんだかドギマギするのだった。匂いが完全に女の子の部屋になっている。
「お兄様、聞いたんですけどリュシスと……むぐ」
「ダメですって!」
リュシスは手でナスターシアの口を塞ぎ、思わず大声をだしてしまう。
「うるさいですよ!!」
夜更けに騒いだため、三人まとめてエレナに叱られてしまった……。