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30 352-05 寝るなっ!!(2077)

 お爺様は王宮からなかなか帰ってこなかった。

 夜になって(ようや)く帰ってきたが、難しい顔をしてあまり話してくれない。

 王都からフェリアに戻ると、散らかした事情の後片付けが必要だった。



「それで、王子から何を貰ったの?」


 マルセル兄様が、お屋敷のロビーの椅子に腰掛けながら聞いた。


「ジャーンッ、薔薇のパルファムゥ!」


 ナスターシアが大事そうに持っていたのは、小さなガラスの瓶だった。ガラスは貴重なので、さらに外箱に入れられていた。もちろん、中身も超貴重な薔薇のエッセンスであった。


「あっそれ、メチャクチャ高いヤツですね」


 リュシスは羨ましそうに見つめた。マルセル兄様から贈られることはないだろうし、自分ではとてもじゃないが買えない。


「すっごくいい匂いなんだけど、ちょっとしかないのよね……。お爺様に聞いたんだけど、とんでもなく沢山の薔薇からほんのちょっぴりしか採れないらしいよ。嬉しいけど、ジョエル様に会うときに付けるのはちょっと……ね」


「ふふ、それは王子に恨まれますね」


「おい、ナスターシア!! お前がいない間、大変だったんだからな!! 俺はもう知らんぞ」


 マリウス兄様が来た。


「なにかあったんですか?」


「あったもなにも……」


 どうやら本当に大変だったらしい。


 祭りの最終日、屋敷にはひっきりなしにナスターシアへのお誘いがかかり、その度に侍女達が説明してまわった。会場では、待ちわびる男衆が他の女を誘うわけにもいかず、イライラと焦燥を募らせ、しびれを切らして誘われた女達の不興を買った。


 近年まれに見るカップル成立数の低さだったそうだ。


 これから建国祭もあるし、来年の五月祭も考えると頭の痛い結果ではある。


 因みにジョエル様は、現れなかった。


 一方、ジュネバーの売り上げは凄まじく、用意した在庫がなくなってしまう程だったという。いろいろ、思惑と宣伝が奏功したということだろう。女性陣は、初日のナスターシアからしっかりと教訓を得ていたようで、男性の思惑は外れたと言えるかもしれないが。


「と、いうわけで。全部ナスターシアの所為(せい)ね。お詫びに酒場に付き合えよ?」


「だから、子供を誘うでないっ!!!」


 いつからいたのか、お爺様が立っていた。


「それより、ナスターシア。王子からの求婚は受けたのか?」


「そんなわけ……。少なくとも即答はしてません」


「期待させてしまったんだな……」


「それは……否定出来ませんけど」


 お爺様は、ナスターシアを手招きして耳打ちする。


「王子からの求婚は、のらりくらり(かわ)すのじゃぞ。絶対受けてはならん」


「どうして?」


「今、王宮は後継問題を抱えているのじゃ。儂と王がつるんでおるのが、諸侯の連中にはとても目障りらしくての。第二王子を祭り上げようと企んでおる。クーデターの噂もある。何かあれば、ナスターシアの首だけでは済まぬ。だから、絶対受けるな」


「わかりますけど、そんなこと言われると余計盛り上がっちゃうもんですよ? お爺様は道ならぬ恋の恐ろしさを知らないんです」


 こそばゆい耳打ち終わり。




「あと、北に修道院を建設中なのは知っておるだろうが、あれがそろそろ完成するそうじゃ」


「私が行くことになるのでしょうか?」


 心配しているのは、マルセルである。あからさまに嫌そうだ。


「それはわからん。わからんが、修道院というより要塞に近い役割になろうな。いずれ騎士団を創設する運びとなっておる。修道騎士達だから、金もそれほどかからんじゃろう」


「王国には別の問題もあってな」


「あんまり難しい話はわからないです」


 ナスターシアは、そう言ってふくれてみせる。が、お爺様は意に介すことなく、そのまま続けた。


「王国がフェリアを中心に急速に発展しているのは知っておるな? それはいいのじゃが、経済の発展に伴ってお金が足らなくなってきておるのじゃ。我が商会は、穀物商品の価格安定を目指して市場調査をしておる。その中で、他の品目も調査しておるのじゃが、最近価格が上がらんのじゃ。それで、皆の給金も上がっておらん。手形じゃなんじゃとごまかしてはいるが、実質で謂うと金と銀の不足が原因じゃった」


「そこでじゃ、王と儂は今の通貨の改鋳を狙っておるのじゃ。つまり、金の含有量を減らそうという事じゃ。改悪とか粗悪通貨とか(くさ)(やから)もおるじゃろうが、これは金融緩和の一環なのじゃ」


 お爺様の王国経済の解説は、その後も延々と続いた。


「で、改鋳した貨幣を『増し部』して旧貨幣と交換……。ん? おい、聞いておるか?」




 全滅……。ロビーの椅子に座っていた全員が、すーすーと寝息を立てていた。




「寝るな!!! 聞け!!!」


 誰も起きない。


「ぬうう、もうよいっ!!!」


 ビクッ


「あっ、お爺様!! 寝てましぇんよ!! 寝てましぇん!!」

 唯一、寝ぼけ眼をごまかしながら、ナスターシアが反応する。


「嘘つけ!!! よだれ垂らしとるやないかっ!! 儂が書いた本でも読んどけ!!」


 ダンダンダンダンダン……バタン


 お爺様は怒って自室に帰ってしまわれた……。


(うん、王子と結婚するなって事は、しっかりわかったから大丈夫の筈。それにしても、お爺様のラリホーマの効き目半端ないね。部屋に帰って寝よう……)

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