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28 352-05 変わり者の王子(2534)

「リュシス、ごめん。祭りの最終日なのに……」


「いえ、マルセル様とお供できればいいんです」


「?」


 祭りの最終日早朝に、ナスターシア、リュシス、マルセルにお爺様と護衛をつけて、王都に出発。途中、野営を挟んで五日後の昼過ぎに王都クラウテンブルグに到着した。


 森を抜けるコースならギリギリ一日で行けるが、道が狭くて悪く、また野営も難しい。馬車では五日かけるしかないのだった。

 一方、早馬や早駆けは、森を突っ切るらしく数時間で到着する。


 王都では、兄フェルナンドが営む商会の王都支店兼両替商の屋敷を使うことになっていた。




「お久しぶりです、フェルナンド兄様」

「ご無沙汰しております、お兄様」


「おお、マルセルに……こっちはナセル?」


「今はナスターシアと名乗っております」

「可愛くなって……」


 複雑な表情を浮かべたフェルナンド兄様だった。


「明日の午後に、王宮から迎えの馬車が来ると連絡を受けている。それまで、ゆっくりくつろぐといい。ちょっと狭いけどね」






 翌日。

 王宮にお招き預かるので、ナスターシアは祭りの時と同じように入念に準備をしていくことにした。マルセルは、リュシスといちゃいちゃと楽しげに準備を整えている……。


(よし、サポート出来てる……かも?)


 軽く昼食をとったあと、迎えの馬車に乗り5人は王宮に向かった。


 目抜き通りに出て、そこから跳ね橋を下ろしてもらい、いよいよ王宮である。豪華な馬車は、乗り込むときから、やたらと目立っていた。


「やあ、ヘロン。久し振り」

「ご無沙汰しております、シャルル殿下」


 王子である。ヒゲを少したくわえ、背が高く、細身で、ブロンドに輝く波打つ髪が印象的な好青年である。王子らしく、白い、ものすごくしっかりとした生地と縫製の長めのジャケットに、ぴったりとした白のパンツを穿()き、レイピアとおぼしき剣を腰に()いていた。


「私は、王陛下と面会の約束が御座いまして。これにて失礼いたします。孫たちをよろしくお願いします」

「あいわかった」


「マルセル様とナスターシア様はこちらへ」


 背の高い、すらっとした侍従に案内されたのは、新緑も美しい中庭の大きなパーゴラだった。中には白いテーブルと椅子が置かれ、初夏の優しい木漏れ日の中でくつろげるようになっていた。


「余が、王国の第二王子、シャルルである」


「はじめまして、シャルル王子。ナスターシア=アキナスでございます」


「うむ、其方の噂は聞いておるぞ。フィーデス商会に其方のような秘蔵っ子がおったとは、意外であった。ずっと、女であることを隠しておったようだが、さぞ辛かったであろう」


(え? そんなの聞いてませんけど? まあいいか)


「いえ、これも神の与え給うた試練の一つかと……乗り越えられぬ試練などありません」


「!!! なんとっ!! 誠にそうであるな。余も胸に刻むとしよう」


(あれ? なんか変なこと言ったかな?)


「話には聞いておったが、確かにこれは筆舌に尽くしがたい美しさだな。もはや人の子とすら思えぬ」


「滅相も御座いません」

(そそそ、そんなに褒められても、嬉しくない、もんっ)


「余も其方と酒を飲んで踊り明かしたいものだ」

(いやー、やめてそこは触れないでおいて~)




「初めまして、シャルル殿下。マルセル=アキナスと申します」


「うむ、其方もなかなかの美形であるな。ちょっと余と遊んではみぬか?」


 よくまわりを見ると、王子の従者はみな美形揃いで、どことなく中性的な雰囲気の人物ばかりである。気が向けば、男も相手にするということか。


「えっ! あっ! いえ、その……」


「ふっ、無理にとは言わん」



 挨拶が済むと、侍従達に椅子を引いてもらい、席に着いた。

 白いテーブルクロスに木漏れ日があたり、独特の光の模様を作っている。


「失礼します。紅茶にございます」


 美麗な男性侍従がお茶を運んできた。カップもティーポットも真っ白で綺麗な装飾が施され、いかにも高級そうなものだった。

 注がれた紅茶は、こちらも香り高い逸品のようだ。


「いい匂いですね」


 マルセルは、なにげに博識だったりする。どんなものか、想像できているのだろう。


「これは、私のつてで大公国から仕入れた紅茶というものだ。味も香りもなかなかのものだと思うが、お気に召したかな?」


「ええ、とっても」




「失礼します。お菓子をお持ちしました」


 先ほどとは違い、胸の開きが大きな、ちょっと淫靡(いんび)な雰囲気の侍女が運んできた。マルセルは思わず二度見した。

 後ろからリュシスが小突く。


「あんな服もいいと思わないか? 客人によっては『ふしだら』などという者もおってな。私は好きなのだが……」


「上品……、とは謂えないかも知れませんね」


「おい、ナスターシア」


「よい、いつものことだ。人の常識など、その程度のものだ」


(およ? 実はちょっと深い考えがあるのかな?)


「私はただ、美しいものは美しくあるべきと思うだけだ。そして、収集癖もあってな……」


 王子はちらりとナスターシアに目線を送る。


(えっ?)


「パウンドケーキでございます。こちらは、ラズベリー入り、こちらはナッツが入っております。最後にこちらがプレーンなものとなっております」


「存分に楽しんでくれ」


(パウンドケーキ! 美味い! うーん、このラズベリー入りもいいけど、プレーンもいいね。バターたっぷりだ~。そして甘~い……ん、ちょっと甘すぎないかい?)


 しばらくは、やれ天気がどうとか、花がどうとか、とりとめの無い話が続く。




「ときにナスターシア」


「はい?」


「回りくどいいい方は嫌いなので、はっきり言おう。私の妻になれ」

「ごほっ!」


(吹かなくてよかったけど、むせたよ……)


「ただし、第3妃となる。第一、第二妃は、立場上外交が絡んでくるからな、第三妃といえども実質一番という事だ。どうだ?」


(なんたる言葉の破壊力! 急転直下、こんな展開アリなの?!)


「今すぐ、決めるのは……」


 顔を赤らめて、(うつむ)いてしまった。その様子がまた王子の心に火を付けてしまう。


「そうか、だが其方より美しい女などこの世に存在せん。故に私はお前を(めと)りたい。ゆっくり考えるといい」


(がはっ!! 吐血……。 いや~ん、もうこのまま墜ちてしまいそう。ジョエル様、助けに来るなら今ですよ~。今すぐ来てくれないと、私……ヤバイです)


 そんなことを考えていると、ツカツカと近づく影があった。


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