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25 352-05 5月祭 ナスターシア(上)(1789)

 5月祭初日のお昼過ぎ。


 もう、祭りは三々五々始まってしまっている。

 だが、本番はもう少し遅くなので焦る必要はない。今は、飲んだくれたちが食事を楽しむ時間だ。


 そうは言っても、ナスターシアは派手に泣き散らかした所為でメイク直しを余儀なくされていた。いちからメイクするより、直す方が難しかったりするのだが……。


 変に我慢せずに、だばだば泣いたのが良かったのか、ファンデーションだけでなんとかなりそうだった。


(こりゃ、お直しセットが必要だな。とりあえず、あぶらとり紙が欲しいがハンカチでなんとかするか……)



 そうこうするうちに四の鐘(三時頃)が鳴った。



「ナスターシア様ぁ、お迎えの方がお見えになりましたぁ」


 玄関ホールに出てみると、お母様のお店の店子たちが迎えに来てくれていた。審問ちゃんとスイカップちゃん、M子ちゃんだ。


(なんて濃いメンツなんだ!! 何故か審問ちゃんがまともに見える……)


 審問ちゃんは、シンプルな茶色のブリオーに黒のロングコルセット、スイカップちゃんは刺繍の入った萌黄色のブリオーに胴衣、M子ちゃんは黒のブリオーに黒の帯? を締めていた。帯……なぜ。しかも、黒のヴェールを被ってる!


「こんにちは、みんな。今日からナスターシアと名乗ることになりました。以後よろしくお願いします」


「ナスターシア? まあ、いいけどね。あたしらん中じゃ、外見(そとみ)が変わっても、名前が変わっても、アンタはアンタだからさ」


 審問ちゃんこと、イーファは動じることもなく、応じた。


「ところでM子ちゃん、既婚者だったの!?」


「いえ、虫除けです。イーファ様がいてくれれば、それでいいです」


 こともなげに言い放つ。


「そんなことより! だ!」


 審問ちゃんがまじまじとナスターシアを見て、呆れた。

 スイカップちゃんも同調する。M子はどうでもいいらしい。


「なんなの、その美味しそうなお肉みたいな格好は?」

「騒ぎになりますね」

「…………」


「おにく?」


「狼の群れに投げ入れたら、どうなるのかしらね?」

「騒ぎになりますね」

「…………」


「えーっ! どうしよう?」


「どうしよう? じゃないわよ! 自分だけ可愛いつもりでしょ! 酷くないの? 折角一緒に楽しもうと思ったのに~」


 確かに、場違いというか、街のお祭りであって、貴族のお茶会ではないのだ。少なくとも、お母様の店の店子達とわいわい遊ぶ格好ではない。だが、貴族達と平民の数少ない接点でもあり、道ならぬ恋を育むイベントでもある。

 例年、僅かだが貴族と平民のカップルが誕生する。そして、少なからず諍いが起こり、場合によっては決闘も発生する訳だが……。


「しょうがない。貴族エリアまで護衛するしかないね」



「私たちもお供いたします」


 護衛には、ロジェさんとアランさんが同行してくれるようだ。心強い。戦場に行くわけではないので、二人とも軽装備。




 広場の教会前は、所謂一等地で、祭りのときは貴族エリアと化している。とくに決まりがあるわけでもないのだが、トラブルを避けるために自然とそうなったのだ。お貴族相手に喧嘩をふっかけたりしたら、大変なことになってしまう。お酒がはいっていることが多いので、気が大きくなって、たまに事故が起きるようだ。


「では、行ってきます。エレナさん、リュシス、お留守番よろしく」


 一行は、お屋敷の門を出て出発。


 お屋敷の前の道は、中央通りで街では一番広い道になっている。馬車が余裕ですれ違える程度の広さになっている。所謂目抜き通りである。


 屋敷付近はそうでもなかったものの、広場に近づくにつれて人が増えてくる。


 中央広場付近は、すでにごった返しており、楽士達の楽しげで賑やかな音楽も聞こえてくる。

 歌声や歓声も聞こえる。

 楽しそうだ。


 幸いなことに、貴族エリアは屋敷から見て広場の手前側にあったが、それでもナスターシア達は注目を集めているようだった。


「誰? あれ」

「だれだろう? きれいな子~」

「おっぱいデカッ!!」


 案の定、二人はイロモノ認定されている模様。


「俺あの茶色の人、誘おうかな? 格好いいよな~」

「えーっ、あの黒い子は結婚してるんだ~」


 敬遠されるイロモノ二人。あんまりにも綺麗だと、声かけづらくなるという、『あるある』だ。


 広場に近づくと、だんだん人が多くなる。ロジェとアランが前に立ち、少し道をあけてもらわなければ ならなくなる。


「これは、お嬢様。お綺麗ですね」

 聞き覚えのある声! ナスターシアは、背筋に冷たいものが走った。


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