23 352-05 5月祭 チョロすぎる取引(1395)
五月祭り前日。
ナセルは、自室でお爺様から届いていた秘密兵器達を整理していた。
(ふっふっふ。明日が楽しみ……)
コンコン
誰だろう?
「誰?」
「リュシスです」
リュシスが尋ねてくるなんて珍しい。
「どうぞ」
入ってきたリュシスは、なんだか少し緊張しているようだった。ちらっと秘密兵器達の方を見たが、何か解らないのか全く興味なさそうだ。
「あの、ナセル様」
「どうしたの?」
「ナセル様は、祭りで誰かと踊る予定があるのでしょうか?」
はは~ん。なんだ、恋バナか……。ん? それはつまり。
「リュシスはどうなの?」
急に話を振られて、真っ赤になって下を向いてしまうリュシス。わかりやすい! わかりやすすぎる!
「あの、私……」
「うぁっって!」
モジモジとしたかと思うと、急にリュシスがスカートを翻して回るもんだから、スカートの裾か顔に当たったのだ。リュシスの方がだいぶ背が高いというのと、こちらが椅子に座っている所為でもある。
頼むからここでやらかさないで!!
「あっ! ごめんなさい!」
ゴトン
薔薇化粧水の瓶が倒れて蓋がとれ、トクトクと流れていく。
(あ、ヤバ!)
転がりかける瓶を押さえて立て直すと、リュシスはまだあたふたしていた。
「止まって!! 拭かなくていいから!!」
いろいろ動こうとするリュシスを制止。これで大丈夫だろう。デフォルトで三連だが、二連までで抑えるのに成功した。
「落ち着いてね。落ち着いて、話してみて」
「あの、私。マルセル様と踊りたいのですが……」
「うん、はい、マルセル様とね……って、お兄様と!?」
ほほーぉ、これはいろいろ聞き出さねば。まあ、そんな気もしてたけどね。
「お兄様とは、いつからそうなの? ひょっとして、ここに来たときに既に!?」
「や、やめてください!」
少し落ち着いてきたのに、もう噴火しそうなほど顔を赤らめて抗議する。きっと、何か思い出したのだろう。
「マルセル様は、本当にお優しい方なのです。だから、私に同情してくださっていたんだと思います」
「そう……かもね」
(惚気全開だな、おい)
「ええ。だけど私、それが解っていても……」
「最初は確かに打算もあったんです。なんとか取り入ろう、と」
「でも、あるとき私が失敗して手を切ってしまったときに、マルセル様が私の指を……」
リュシスが、じっと自分の指を眺める。
「指をくわえて……舐めてくれたんです……。もう、そのとき私決めたんです。何があっても、この人を支えてあげたいって!」
(あー、もー。いーからマジで! なんだか腹が立ってくるんでけど?)
「マルセル兄様が成人するのは再来年だし、超絶に鈍い人だから、まだ大丈夫なんじゃ?」
「何言ってるんですか? 教会に取られたら終わりなんです! 修道院だったらもう最悪ですよ! だから、その前に!」
「なるほど、既成事実をつくってしまいたい……と?」
ナセルは、赤面するリュシスに手を取られた。
「だから、お願いします! 手伝ってもらえませんか?」
「えと、それで何をどうしたらいいの?」
「そういう話になったときは、私を推薦してくださいませんか?」
「あー、それならマリウス兄様に頼んだ方がいいんじゃないかな? 飲んだくれだけど、なんていうか親分肌なところがあるっていうか。きっと助けてくれるよ?」
「嫌ですよ、男の人に相談なんてできません!」
(嗚呼、リュシス。なんていい娘!)
「わかったわ! やってみる! 精一杯応援するよ!」
「ありがとうございます、ナセル様!」