21 352-04 お馬に乗ろう!(1717)
「ほれっ!! もっと腰を入れて!!」
護衛剣士二位、アランである。ロジェも強いが、人に教えるのは苦手だった。
「はい!」
「じゃあ、そのまま素振り千回!!」
ナセルは、先月からアランに木剣で剣術を教えてもらっていたが、なんだかとっても既視感を感じていた……。
(この感じ……、腕立て伏せとか腹筋とか、走り込みとか行軍とか言い出さないよね……?)
「馬を連れてくるから、そのまま続けて!」
「はひー」
ナセルは、訓練の時はボロボロのシャツと貫頭衣を着ていた。汚れてもいいように……である。今日もすでに汗でぐっしょりとなっていた。 髪は面倒なので束ね、胸には所謂サラシを着けているので、透けたり痛くなったりはしない。
訓練はまだ中庭でしていたが、本格的になったら街の外にある教練所にいくらしい。
とりあえず、てきとーに剣を振るナセル。
腕がだるい……。
(剣道ならやってたから、そこまでしなくても……。でも、お父様が違うから気をつけろって仰っていたな)
そんなことを考えながらも、ダラダラやっていた……。とにかく体力がないのだった。
「騎士を目指すなら、馬に乗れねばな!」
馬を連れてアランが戻ってくる。
アランは馬も得意であった。今は止められているため出られないが、ジョスト(馬上槍試合)大会でも活躍していた。
「元来、騎士とは馬に乗った戦士のことを言うのだ。それに、馬なしの騎士は貧乏騎士と相場が決まっている。だから、馬は騎士の必須教科なのだ」
ひーんっ
馬の鳴き声ではない。ナセルの心の叫びだった。
ぶふぉっ。と馬が鼻をならす。
アランは、テオドールからもらった一番扱いやすい馬を連れて来た。
「先ずは、乗る前から。やさしく声をかけてやるんだ」
「どうどうどう……。今日はよろしくね」
ナセルが馬の前に立ち、馬の顔をなでてやると、馬はナセルの服に鼻水をなすりつけた……。
べちょー……
「うえぇーっ! ちょっ! なにするの、もうっ!」
手で拭くわけにもいかず……。
「次は、馬の横から騎乗する」
「はいっ、あ、痛てっ!!」
ナセルが馬の横に回り込んで、腹をなでてやろうとすると、馬はナセルの銀髪を噛んだ……。
「いたたたたっ! 痛いなぁ!! 髪の毛は食べ物じゃないっ!」
ブフルルル…………。 なんだか、笑ってる気がする。
まだ一人で乗れないので、アランに手伝ってもらい馬に乗せて貰う。
「乗ったら、手綱を持って、馬の腹を一回蹴る。引いたら止まるからな」
トンッ
動かない。
トンッ
動かない。
「もっと強く!」
ドンッ
動かない。
ドンッ
動かない。
「ちょっと! 歩け、こらっ!!」
ドンッ
パカ……パカ……。
(めっちゃ、やる気ないし……。絶対馬鹿にしてるよね?)
馬は人を見て、どういう人か判断し、たいしたことないと思われるとからかわれたりするのだ、馬にもよるが。
「よし、じゃあ、そこからフォックストロットだ! 脇を二回蹴るんだ! リズムに合わせてヒザを使うんだぞ」
「了解!」
ドンドンッ
パカパカパカパカ……。
「痛、痛、痛、痛、痛、……」
「ちゃんとリズム! 裏打ってるから!! ヒザ!!!!」
「痛、痛、痛、痛、痛、って、痛ーい、もうっ!!」
「どうどうどう……」
アランが見かねて馬を止める。
「大丈夫ですか? ナセル様」
「股が……股が……」
ナセルの股間死亡(二回目)
ナセルはどういう訳かリズムの裏を打って、完全にタイミングが逆になっていた。
だから、馬の背が上がるタイミングで腰が下りてしまい、強打するのだ。
これが、めっぽう痛い!
「降ろしますから、見ててください。私が手本を見せます」
そういうとアランは、ほいっとナセルを馬から降ろし、颯爽と馬に乗り、フォックストロットをしてみせた。
「いち、にー、いち、にー……こうです、馬の動きに合わせてヒザで調節してください。リズムが大事です。いち、にー、いち、にー……」
アランがナセルを見ると、恐怖でおびえたナセルがいた。
「はい、じゃあ、もう一回!!」
「鬼ーっ!!」
その後、なんどか挑戦するも、ついぞナセルは馬に乗ることが出来なかった……。
リズム感がない訳ではないのだが、なぜかやっぱりリズムの裏を打ってしまうのだ。
あとには、擦れて皮膚が赤くなった股のナセルが出来上がる。湯浴みの時、超絶しみたことは言うまでもない。