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20 352-04 母上のお店の三羽ガラス(2305)

 日曜日の昼下がり、ナセルは一人母の経営する店にやって来ていた。

 店は貴族街側にあり、屋敷からほど近かったため一人でふらっと行くことが出来た。

 

 ちょっとオシャレっぽい酒場のようだが、実際は背徳に塗り込められた淫靡(いんび)な店だった……。


 店内は、ほぼ真っ黒で、金と赤で装飾されていた。いつも暗く、松明(たいまつ)蝋燭(ろうそく)の明かりで赤く照らされていた。


 そんな中にあっても、ソファやテーブル、食器類は最高級のものが(そろ)えられ、お酒もまた高級酒が揃っていた。フィーデス商会からの仕入れが多くなっているのは偶然ではない。


 昼間は客もおらず、夕方から徐々に客が増える店だったので、客のいない時間を見計らって、よく遊びに行くのだ。


 店にはイーファ、ライラ、フィグネリアの三人の古参店子(たなこ)達が既にいた。開店準備と……遊びである。


 イーファはまとめ役のお姉様、ライラはやたらと大きな胸、フィグネリアは静かなタイプだった。ナセルはそれぞれ、審問ちゃん、スイカップちゃん、M子ちゃんとあだ名をつけて呼んでいる。


「イタタタタ……」


「はい、もうちょっと……、そこで止まって! 維持ね」



 ナセルは、店で体の柔軟性を上げるべく股を割られていた……。もう、180度以上の角度まで広げることが出来るようになった。指導役はイーファである。



「それが終わったら、背骨の柔軟ね」


「……はい」



 ナセルは、イーファの指導の下、舞踊の練習をさせられていた。

 去年の春からナセルが奇麗になりたいと言い出したことに端を発する。


「あああーっ!! 折れる、折れるよーっ!!」

「折れないから!」

 海老反りになったナセルは、傍目には確かに折れそうなほど反っていた。


 それまでは、遊びに来てもただ適当に遊んで貰っていただけだったが、去年の春からは急に厳しく訓練され始めたのだ。


「はい、じゃあ、アラベスクいってみよう!」


「はーい……」


 ナセルは、左足で立ち、手を広げて体を前に倒し、右足を上げていく。

「もっと腰を倒して上体を起こして!! 手足をもう少し上げてみて……もっと、もっと、もっと」


 なんだかんだで、ナセルの体幹が鍛えられているのは、この愛すべき変態さん達のおかげだったりする。


「はい、次! 回って! シェネ、シェネ、回れ~」


 なぜか鞭を取りに行く。鞭と言っても、本物ではなく、先端にぴろっと革の切れ端が付いた一本鞭、まあ……なんというか、それ用のものである。


「軸がブレとるわぁーっ!!」


「いたーっ!!」


 イーファの愛の鞭が飛ぶ……。





 そんなこんなで、みっちりと鍛えられる……。






「ナセル、騎士になるんだって?」

 へとへとになったナセルにイーファが声を掛ける。


「ええ、まあ、そのつもりですけど」

「じゃあなに? もう踊りはしないの?」


「いえ、そうではないんですが……」


「ジョエルはどうするの?」

 彼に話題が飛ぶと、すぐに顔を赤らめるナセルは、とても遊び甲斐のあるおもちゃと化していた。


「ジョ……」

「ジョエルをたぶらかさないと、いけないんでしょ?」


「たぶらかすだなんて……」


「こんなチッパイじゃあねぇ……」

 イーファは、ナセルの胸をポフポフと確かめる。


「やっぱり騎士に護って貰うのが憧れってものよねぇ」

「おっ、ライラ! いいこと言うじゃない!」


 超弩級の破壊力を持った大きな胸のライラが参戦する。

 ライラの胸を見ると大抵の男性は目が釘付けになる。それは、傍目にもはっきりわかり、とても興味深く面白い。


「この人を護りたい! って、思わせなきゃなのに、自分が強くなってどうすんの?」

「確かにな、アホだな、ナセルは」

 ライラの突っ込みにイーファが乗っかる。



「お姉様……あっ……ふーっ、あぁ……」

 一人静かだなと思ったら、縛られていた。シュミーズのみの下着姿で、縛られたフィグネリアは、信頼する『お姉様』に縛られピ----(自主規制)


「あ、ごめんごめん。ちょっと待って、緩めるから」


 フィグネリアは珍しい(つや)やかなストレートの黒髪を持つ少女で、西方から来たと言っていた。




 と、そんなことをしていると、客が来たようだ。

「こんにちは……」


 えっ? 神父様……?


「あらぁ! ご無沙汰だったじゃない? どうぞ……」


 どこからどう見ても神父だ。大丈夫なのか? いろんな意味で。


「何にします?」


「マリー様と(ピ----)がしたかったんだけど……」


「そう、じゃあ、もうちょっと待たないとね」

 イーファは、そういうとガラスのコップに試作品の『薬』を注いだ。


「これは、まだ何処の店でも出してない新作の薬です。アブサンって言うそうよ」


 神父は一口ふくんでみる。確かに薬のような味だ。いつまでも味が舌の上に残る。アルコール分は80%近い。


「じゃあ、懺悔(ざんげ)してみようか……」


 イーファが怪しい声色になる。


「そのあと、ちゃんとお仕置きしてあげるから」

 安全のため、神父をソファに寝そべらす。


「「懺悔(ざんげ)なさい」」

 イーファこと審問ちゃんは、強制懺悔の神力が使える。神力のない一般人に抗う術はない。隠し事など出来ないのだ。

 異端審問官になったら超怖いというわけで、ナセルに審問ちゃんと呼ばれるようになった。


 力を使われると、しばらく恍惚感が残るため、店ですることが多い。なぜか逆らえない姉御(あねご)なのだ。酒の所為なのか、雰囲気の所為なのか、特に本人が怪しまれたりはしなかった。


「教会に懺悔に来たご婦人と関係をもってしまいました……」


「あらあら、どうしようもないクズね。でも大丈夫。すべて許されます。これから、許されるためのお仕置きを受けるのですよ」


 ライラに目で「もう帰れ」と促され、ナセルは撤退する。

 こんなに怪しい店が貴族街にあるのに、摘発もされずむしろお堅い人が来店し遊蕩(ゆうとう)(ふけ)るのは、もういろいろズブズブなんだろうな……とナセルは思った。

微妙に修正しました。修正箇所は内緒です。R021030

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