19 352-03 フェリアでお買い物(1909)
四柱の神様に祈りを捧げるという、お祈り三昧の日々を送るナセルだったが、今日はアランとフェリアの武器屋でお買い物。ついでに鎧も見る。
綺麗な長い銀髪は、目立ってしまうので結い上げて帽子を被ってしまう。こうしておけば、少しは目立たなくなる、少しは……。
道すがら、ナセルが歩くと胸が服にこすれてへんな感じになってしまう。これには閉口した。しかも、歩く振動が胸に伝わるとほのかに痛い。ルカ時代にも経験したのでわかっているが、ここにはいい感じの下着がない。もちろん、男性用の服にそういう機能があるわけもない!
しかたなく、そっと手で押さえて歩く……。
下町のちょっと臭く薄汚れた、商店街に武器屋はあった。
「いらっしゃい! なんでもあるよ」
店主とおぼしき彫りの深い男性は、アランに声をかけた。そりゃまあ、ナセルが客には見えないだろう。
店内には、槍、ハルバート、両手剣、ブロードソード、クロスボウなどが、これ見よがしに並べられている。
「どれにします?」
アランがナセルに問うと、店主は意外そうな顔を隠せないでいた。
「うーん、先ずはダガーかな」
投擲用のラペルダガーは以前まとめ買いしたが、普通のダガーを持っていなかった。対アーマー戦などを考えても準備しておきたいアイテムだ。
「親父、ダガーを見せてくれ」
アランが頼んでくれる。
店主が奥から持ってきたのは、3種類だった。小さく細いタイプ、大きめのタイプ、持ち手が分かれて3つ又になっているタイプ。
ナセルは、小さくて細いタイプを手に取った。
逆手(小指側が刃)に握ってみる。刃渡りで12センチほどの細身のダガーである。
「これくらいかな。斬るのは考えてないし……」
ヘルムのアイスリットから、刺せればいいのだ。
「これ、いくらですか?」
「銀貨8枚」
「じゃあ、2本ください。あとは……」
振り回して邪魔にならないくらいの小さい剣が欲しい。生成武器を使うときに左手用にも使えるくらいの。
しばらく練習用に使って、そのあと左手用にしてもいい。
とにかく、生成武器では通常武器の攻撃が防げないのがネックなのだ。
「あっちの小さい剣とって」
「これかい?」
実にシンプルなショートソード……。レイピアというには身幅が太いし、普通の剣よりは細い。でもって肉厚になっている。
鎖帷子の上から突き刺す攻撃をメインに考えられているようだ。軽いし、取り回しやすいし、ナセルに丁度良い大きさというのもある。
「坊主、ちょっとかっこ悪くないか?」
「カッコで闘うわけじゃないからいいんだよ」
だいたいこのくらいの男の子なら、とにかく大きな得物に憧れてデカイ剣を選ぶものだ。だが、帰ってきたのは玄人っぽい意見……。
商売としては、高いものを売りたかったが仕方ない。
「いくらですか?」
「うーん、金貨3枚」
「高いよ、金貨1枚と銀貨5枚」
「はあ? 値切る気かよ」
「どう見ても金貨3枚の剣じゃないでしょ?」
「うーん、金貨2枚と銀貨5枚」
「金貨2枚」
「しょうがねぇ、金貨2枚と銀貨3枚」
「だね。最初からそう言ってよ」
値切り成功! というより、プチボッタ回避である。
「あとは、防具だけど……」
防具を見てみたが、どれも大きい。大人用のサイズしかない。女性用のものでも、わりと大きい。
「うーん、今日はやめとく……。いくらかな?」
店主は、石版で筆算する。
「金貨4枚と銀貨9枚だな」
「ちょっと、嘘じゃん!!」
ナセルが計算したそぶりもないのに、いきなり突っ込まれた店主は驚いた。顔が紅潮する。
二人には気づかれなかったが、アランも驚いていた。
「適当なこと言うな! 計算したんだ!」
「それくらいわかるよ!」
ナセルは、ダガーの値段と個数、剣の値段を確認し、間違いを指摘してやった。
店主はわかっていてわざと間違えたので、仕方なくナセルの指摘を受け入れる。
「なんで、わかるんだよ?」
「そんなの頭の中だけで十分よ」
「天才かよ!! 金持ちのお坊ちゃんは違うねぇ……」
おいおい、そんなことで驚かれても困る……。
「アランもわかったよね?」
「……。文字も書けないナセル様のことを、少々見くびっていました。書けないだけなのですね」
結局、ナセルが周りに大店の子供に似つかわしくない、「普通の子」であると思われていたようだ。
帰り道、うっかり佩剣用の金具とベルトを買うのを忘れたことに気づいた。後日、ギルロイ商店でかわいいのを買おう。
あれば……だけど。
「これで、剣術もしっかり鍛錬出来ますね」
「そうですね」
それどころではない。
手が塞がったので、胸を押さえられず、こすれるわ微妙に揺れるわで大変だった。幸いなことにアランには気づかれずに済んだようだが。
アランは、ナセルをどんなふうに鍛えるかを考えているようだった。