15 352-03 神の恩寵(2196)
夕食後はイオス神様に祈りを捧げる時間だが、今日は昼間の復習の時間だ。マリウス兄さんは、お酒が回ってひっくり返っている。強がっていても、ロスティス事件を引きずっているのだろう。
「お兄様、ほら!」
ナセルは昼間川縁でしたときよりも、随分ときれいに薔薇を生成させられるようになっていた。
「触ってもいいよ」
ナセルはそういうと、生成した薔薇をマルセルに差し出した。
触った感じは、すこしぷにょんとして、花弁は本物よりだいぶ分厚かった。色はちょっと薄いかな? でも、かなりリアルになっている。
「おおっ! ナセル、上達が早いのぅ! じゃ、儂も……」
そういうと、お爺様はナセルに負けじと生成を始める。
にゅーっと、出てきたのは長ーい斧だった。
「これは、ハルバートと言うんじゃ。しかも綺麗じゃろ?」
それは、普通の長い槍の先に斧が合体しているような形をしていた。金色の柄に深い青色の剣先と斧で、刃の部分は白かった。青い通常は金属で出来ている部分には、金色で唐草模様が描かれていた。
とてもエレガントで、戦闘に使うようなものではなさそうな印象だ。どちらかというと儀式用かな?
「危ないから振り回さないでくださいね」
お爺様が手にした後、振り回したそうな顔をしていたので、マルセルが機先を制した。
「わかっとるわい! どうじゃ? ナセル」
ナセルは、ハルバートに近寄り手に取って触ってみて、じっくりと観察した後、マネをして見せた。
「フォーム、ハルバート」
そこで見ていた者全員を仰天させるような、お爺様のものとほぼ同じ見事なハルバートが生成された。
天才。それはまさにこういう人間のことをいうのだろう。
マルセルは、とても悔しかった。……悔しい。めちゃくちゃ悔しい! 兄としての立場がない。
「あのね、実はね……」
生成したハルバートを、しゅんっと消失させながらナセルは続けた。
「多分、知ってた」
「えっ? 今なんて?」
「土の神様の名前は知らなかったけど、前にちょっと出来たことがあるんだ。あとね、んと、これはあんまり言いたくないんだけど……美の神様の名前はアーレフトって言うんだよ。毎日お祈りしてるもん」
「なんだって!?」
だけど、どうやら一番衝撃を受けているのはお爺様のようだ。目を白黒させて、口が開きっぱなしだ。
「ナセル! すごいのぅ! 爺にも教えておくれ」
なんだか良くわからないが、とても凄いことであることだけは良く解った。
「そうじゃない! 何で美の神なんだ?!」
「内緒! ぷいっ」
「ぷいってなんだ! ぷいってっ! 口で言うなよっ!」
「お爺様も美の神様について聞いてどうするおつもりですか! まさか祈りを捧げられるつもりじゃないでしょうね?!」
「何を言う! 当然向学の為じゃ! 神については解き明かされておらんことが多いんじゃ! もういいから、リュシスのところにでも行ってやれ!」
マルセルは、神力の使い方について教えてもらおう思っていたのに、怒らせてしまって、がっかりしていた。
マルセルがリュシスのところに行ってみると、エレナが看てくれていた。
「すぐに寝息をたてて、寝てしまいました」
「そう。いつもありがとう、エレナさん」
「2、3日したら、動けるようになると思いますので、お任せ下さいませ」
「うん、わかった。頼んだよ」
マルセルがリュシスを見に行ってしまったあと、ナセルはお爺様と神力談義に花を咲かせていた。
「でもね、お爺様。やっぱり、神様の力で人を傷つけるのは本意じゃないって気がするの」
「そうじゃな。それがわかっておれば、フォームの神力も安定するじゃろう。神力というのはな、結局自分自身の心から湧き出るものなのじゃ」
「どういうことですか?」
「想いが形になったり、力になったりするという事じゃ。じゃから、想っていないことは出来ない。たとえ出来ても弱い。逆に強く願えば、ナセルのように神の方から力を与えられることもある」
「それが、向き不向きということですね」
「左様。ついでに今分かっている神を教えておこう」
「最高神はイオス様じゃ、力の根源じゃ。イオス様に祈らずに力を得ることは出来ない。
次に、5大神じゃ。
光、命、土、力、理の五つ神になる。
最初はエードラム様じゃな。光系の神力を司っておる。次に
命の神 セオル様 生命力系じゃ。ヒールや筋力強化が代表的じゃな。一番人気のある神様でもある。
土の神 マルラ様は成形系で、まあ生成しか見つかっておらん。
力の神 ターム様は物理力系じゃ。扱いの難しい神様じゃ。
最後に
理の神 スピラノーフ様 精神系じゃな。
まあ、知ったからといって力が得られるとは限らないがな」
「そうそう、筋力強化の神力を使うと一時的に力が強くなるだけでなく、本当に筋力がついていくぞ。うちの護衛達がむっきむきなのはその所為じゃ。ナセルがむっきむきに成りたいなら祈るといい」
「お爺様……意地悪ですね」
「まあ、自分の心としっかり向き合って祈るといい。それと、最近お前の体が女っぽくなっているのは、アーレフトと関係あるんじゃな?」
「だと思います」
「うむ。それは、伏せておいた方が良いじゃろうな。世の中には、男になりたい女も沢山おるし、その逆もある。効果も定まらんなかで、アーレフトに祈るのは危険じゃ」
「お爺様は、神力についてもっと世間に知らすべきと考えているのですか?」
「難しい質問じゃな。儂の中でもまだ結論が出ておらぬ。じゃが、戦力アップのためには、ある程度限定して教えようと思っておる」
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