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14 352-03 拾いもの(2340)

「お爺様! 人がいる!」


 ナセルはマルセルからは、姿が小さく見えるほど遠い。マルセルは、なんでそんなところまで行ったのか、といぶかしむ。護衛の剣士達は見張りに戻り、マルセルはお爺様と急いでナセルのところに向かった。

 河原の草の中に、なんだか汚いぼろ切れの(かたまり)みたいなのが転がっている……。ひと?


 お爺様は、何故かもの言いたげにマルセルを見ている。


「リュシス!!」


 マルセルは、最初ボロボロすぎて解らなかったが、それがリュシスであることを認識した。正視できないほど、酷い有様だ。あちこち傷だらけなのと、特に背中は服の外側にも赤黒い血が浸みだして、小さな虫がわいていた。死んでいるのか?


 マルセルは首に手を当てて、脈を診てみる。弱々しいが、脈はありそうだ。


「お爺様! なんとかしてください! お願いします!」


 とても不機嫌そうなお爺様だったが、もう頼れるのはこの人しかいない。このまま死なせたくない!


「マルセルよ……」


 なにか、滅茶苦茶なにか言いたげなのに、お爺様はそれ以上言わなかった。


「お願いします! なんとか、助けて下さい。お願いします! 可哀想じゃないですか! 死なせたくないんです。もう後悔もしたくないっ!」


 ふぅ……。 お爺様がため息をつく。


「しょうがないのぅ……。拾ったらちゃんと最期まで面倒みるんじゃぞ」


 まるで、犬か猫でも拾うかのように言うと、手をかざした。


「ヒール」


 しばらく手をかざし続け、見えている傷は、お爺様の手の先で塞がっていくのがわかった。


 すごいっ!


「奇蹟です。ありがとうございます、お爺様」


「まだじゃ、あとは魚と一緒に連れ帰ってからじゃ。

 こんなことが出来てしまうことが、どれだけ危険か解るか?

 神の奇跡を得る方法は、基本的にわしらの家族以外は秘密じゃ、よいな。護衛の者達は一部の者に限定して教えてあるが。()()()()()秘密じゃ」


「わかりました、絶対口外しません」


「使うのも気をつけるのじゃ、自分の身が危ないときだけ、使え。

 ナセルもな!」


「出来た!」


「えっ、えーっ!!」


 ナセルに完全に話の腰を折られ、マルセルとお爺様の驚嘆の声が響く。ナセルは、不格好だが赤い薔薇っぽい何かを手にしていた。お爺様が手当てしている間、マルセルが懇願(こんがん)している間、一体何をしていたのか?


「私もなにか出来るかな? って思って、一生懸命祈ったら出来たよ。リュシスが目を覚ましたらあげようと思って」


「びっくりじゃ、ナセル。マルラ様はお喜びじゃったか?」


「えっ? えっと、なんかそうかも?」


 マルセルにはさっぱり理解できなかった。


「マルセルは、焦るでないぞ。ナセルが普通じゃないだげじゃ。あと、相性もあるでの。リュシスは(わし)が抱いて、荷馬車まで運ぼう」


 お爺様がニヤリと不敵な笑みを浮かべてこちらに目を向ける。


「運び賃は高いぞ、マルセル。ふっふぉっふぉ」


(ええ、そうでしょうとも。王国で一番稼いでいる人を使ってしまった訳ですから……。今日も晩ご飯は、ないんだろうなぁ)



 荷馬車で運びながらも、リュシスの体が冷え切っていたので、お爺様は直接手をかざして神力で温めていた。火をつけるほど熱くも出来れば、温めることも出来るなんて、とにかく便利である。


 お屋敷に帰り、マルセルがリュシスを看ているとナセルから意外な事実が明かされるのだった。


 魚獲りに行ったら、何故か人が()れた!という話は、思ったより早く広まっていた。噂は得てして、斜め上の方向に変化していくのだ。

 噂話の広がる速度は光速を超えているかも知れない。


 屋敷に着くと、お爺様はリュシスを床に寝かせ、水を飲ませると意識が戻ったようだ。


 いきなり何か食べさせるわけにもいかず、エレナに指図(さしず)して残り物のスープを飲ませ、体を温めるとともに胃を落ち着かせてやった。


「もう、大丈夫みたいです」


「ありがとう、エレナさん」


 マルセルは、様子をうかがっていたお爺様にも向き直ると改めてお礼を言う。

「お爺様、本当にありがとうございました。恩に着ます」


「はっ! 何を言うか! お前からなにか(もら)おうという気などないわ」


 つっけんどんだが、怒ってはいない。


「マ、ルセ、ル様……」


 目に涙をいっぱい溜めて、うるうるさせながら声を絞り出すようにリュシスがつぶやく。


 よかった。本当に大丈夫そうだ。


 だが、顔から体から、また随分と汚れたものだ。それに、同乗してきたからか魚臭い! マルセルは、エレナ達に命じてリュシスの体を清拭(せいしき)させ、さっぱりさせてから、侍女室で寝かせてもらった。明日には少しずつでも回復してくるだろう。


 夕食の準備が整うと、ナセル達も食事にする。


 マルセルの夕食はちゃんと用意されていた。


 いや、もう用意されすぎぐらいに……。


「あの、なんか魚多すぎませんか?」


 テーブルの上には、白身の魚をソテーしてソースをかけたもの、グラバラックス的な酢で締めたもの、香草焼きが並べられていた。それに、パンとスープがつくが、スープの中にも魚が入っていた……。


「神に感謝の祈りを捧げて、頂きましょう。そうそう、たくさんたくさん魚を()ってきてくれた人達にも、ねっ!」


 今日は日曜だから母上がご一緒なのだが、随分とご機嫌斜めだった。基本的に皆あまり魚は好きではない。牛か豚、あるいは鳥がいいのだ。お爺様は例外的に魚好きだ。


「がんばって(さば)いたんですよ?」

 ナセルが主張する。


「ああそう、ありがとう」


 全然、思ってないですよね母上。


「まあ、いいんじゃねえか。ビールに合えば!」


「マリウス兄さんは、飲み過ぎちゃダメですよ」

 マルセルは生真面目である。


「何言ってんだ! これは水代わりじゃないか。でもこの酸っぱい魚も意外といいな!」


 マルセルは、日曜日は、いつもこんな感じで和気あいあいと食事できるから好きだ。王都のフェルナンド兄さんは、寂しくないのかな? と、ふと心配もした。

お読みいただき、ありがとうございます。

ポイントまで頂きまして、テンション上がりまくりのチワワ状態です。

どうぞ最後まで、よろしくお願いします。

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