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11 352-03 罪と罰(上)(2097)

 リュシスは、襲撃の後教会に引き渡され、牢獄に入れられていた。


 通常は、裁判が終わるまで時間がかかるのだが、リュシスの場合は事情聴取がすんなり終わったことと罪状がはっきりしているため、一週間程度で刑が決まった。


 斬首刑である。


「リュシス、今日、刑の執行されるみたい。お兄様は見に行くの?」

 ナセルは少しずつ、落ち着きを取り戻してきた。一時は完全に自分を見失っているようだったが、ここ二、三日は落ち着いて現状を受け入れられるようになってきたようである。


「ナセルは落ち着いているな……。仲良かったように見えたけど」


 ナセルは正直、いまさら顔を合わせたくもない気もした。


「そうだね。でも、最初からおかしかったでしょ?」


「気づいていたなら何故!」


「変だとは思ったけど、何か出来ると思わなかったから……」


 それを言えば身も蓋もないのである。


「それより私は……、お父様との約束……」


 ナセルは、なるべく考えないようにしていた。思い出すと心が壊れそうなのだ。心のシャッターを閉めて、感情を押し殺す。


「……果たせなかった」


 自分自身の不甲斐なさを責めていた。少々技や経験があっても、腕力でまったく歯が立たなかった。






「おう、マルセルではないか。もうすぐ始まるぞ。行かずとも良いのか? 最期に罵倒してやりたいのではなかったのか?」


 帰還する馬車の中では確かにそんなことを言ったような気がした。

 だがマルセルは知っていた。お爺様もまた、葬儀の後も密かに涙していたのを、自ら手に掛けたいほど悪んでいたことを。


「因みに、儂は彼奴が死んでくれた方がいいと思っておる。信用とは、そういうものだでの。まあ、事情は一応聞いてはいるが」


 お爺様が言う事情とは、リュシスは捨て子ではなく、帝国の没落貴族の子で、人買いに売られたのだと。そして、我が子を売って手にしたお金さえすぐに浪費し、今度は不正を為し、事が明るみに出た後結局は家族全員死刑になってしまったということだ。どこまで本当かはわからない部分もある。


 だがリュシスの言葉遣いや態度が、ちゃんとしていたのはそんな背景からだった。年齢的な理由で、売春宿などに売られずに済んだのか、それともせめてもの慈悲だったのか。父上を殺めれば、家族を助けてやると持ちかけられたという。どちらかというと、早くしないと殺すと脅されていたという方が正確だろう。


「ええ。わかりました。見届けて参ります」

「私は行きません。とても、そんな気分になれません……」

 ナセルは拒んだ。



 処刑台に着くと、そこには既にリュシスが断頭台に縛られていた。教会から派遣された処刑人と神父が付き添い、神父が罪状を述べ、神に祈りを捧げている。


 マルセルは、前に行かなければ! と、見物人達を押しのけて、一番前に陣取る。


「おや、マルセル殿ではありませんか。父上の敵です。さぞや憎いことでしょう」


 神父は、断頭台の上に持ち上げられた刃を固定している縄を指さした。

「ご自分で、この縄を切ってみてはいかがでしょう?」


「自ら手を下せと?」


「いえ、無理にとは申しません。罪人はなにか最期に言いたいことはありますか?」


「マルセル様、ごめんなさい」


 元貴族の娘らしく、死を目前にしても気丈に言葉を発した。





 マルセルは、一瞬なにか考え、身を翻して処刑台に上り、そして神父に問うた。


「神父様。父上はその命に代えて彼女を守り、また私に頼むとおっしゃいました」


 その言葉が予想外だったのだろう、集まった見物人達にどよめきが走った。


「はて?」


「ですから父上の遺志を尊重し、死刑でなく鞭打ちの刑に減刑してはいただけませんでしょうか?」


「おやおや! この期に及んでそのようなことを言われるのですか? なんともおかしな話ですね。しかし、これは既に決定されたことなのです。それに私が今決められることではないのです」


「でも!」


「神父よ。そやつのいい分も一理あるじゃろう?」


「お爺様!」


「ここは儂に免じて刑を減ずるが良いぞ。サイモンは今やロスティスの英雄! その英雄が護れと遺したのが、其奴じゃ。それに、刑を決定したのは他ならぬおぬしの筈。触れ書きにもそう書いてあったぞ」


 神父は、面倒事を回避しようと咄嗟についた嘘まで暴かれてしまった。神父が面倒くさそうに合図をすると、執行官はさっさと終わらせてしまおうとばかりに縄に斧を振り下ろそうと振りかぶった。


 が、さっきまで群衆の中にいたお爺様が、まるでずっとそこにいたかのように、執行官の後ろからその斧を掴んで押さえた。


「気の早いヤツじゃのう」


 一体、どんな技をつかったのか。そのまま、斧を取り上げてしまった。


「マルセル、外し方はわかるか?」


「やってみます」


 とにかく、何故かお爺様が加勢してくれているうちに、なんとかしなければ……。頸と手首を固定している治具は、金具で引っかけられていたが、どちらかというとその重さでマルセルは苦労した。上に引きあげて斜めにすれば、外すことができた。力の無い彼には、なかなかに重労働だった。


「マルセル様……」


 不自然な姿勢で頸を固定されていたリュシスは、安堵とともに疑問を投げかけた。


「どうして?」


「話は後でしよう。後でもできそうだから……」


ご覧頂き、ありがとうございます。

継続して読んで頂いている方には、特にお礼申し上げます。

長すぎたので割っています。

重い展開もあと一話。懲りずにお付き合い頂ければ幸いです。

よろしくお願いします。

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