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102 353-01 神聖騎士団の準備と神様のつじつま合わせ(2274)

 静謐な空気の中、朝から聖堂ではナスターシアの帰還が報告されていた。


 以前は、小さいながらも溌溂(はつらつ)とした雰囲気を纏っていたが、今はうってかわって儚げな美しさをたたえる。

 そんな姿のナスターシアが、姿をあらわすとため息ともつかぬ感嘆の声が湧き上がる。


「申し訳ありませんが、祝福をすることが叶わなくなってしまいました。ですが、皆さんの幸せを願う心に変わりはありません。どうか、ともにカイル様にかわらぬ信仰を捧げましょう」


 その声に、以前のような力強さはない。だが、弱々しくも、より神聖な雰囲気が漂う。


 修道士、修道女達は、安堵の声と再びナスターシアが帰ってきてくれたことに、ひたすら歓喜していた。




 会の最後に、クレールが昨日の出来事について口を開く。その瞳は、決意と怒りに燃えいていた。


「昨日のことです。聖女ナスターシア様のお召し物に触れ、あまつさえ辱めるという事件が発生しました。これは、修道院としてゆゆしき事態です。今後、ご本人の許可なく触れた場合は、厳罰に処しますので、ゆめゆめお忘れなきよう願います」


 怒りの感じられる言葉だった。


 ちなみに、あのあと現場に駆けつけたジョエルが、ピエールと殴り合いの喧嘩を始めてしまい、収拾にはアランの登場を待たなければならなかった……。

 本来なら処罰されるのだが、ナスターシアが「アランに勝てたら赦します」というので、必死に修練に励むこととなったのだった。




 午後からは、騎士の叙任である。


 新たに結成された神聖騎士団は、約二百名の騎士によって構成され、五名の大隊長、二十名の中隊長を含んでいる。軽装歩兵、重装歩兵、弓兵、騎兵、工兵で構成される。


 数多くの応募から、人選に人選を重ね、信頼のおける人間に絞った結果、この人数になったのだった。


 中でも、中隊長以上を務める騎士達は、精鋭中の精鋭と呼べた。


 有事の際は、これら騎士が隊長クラスとなり募兵をまとめて万単位の軍隊となる。それらは、主に周辺の農夫や、シェボルの市民であった。


 軽装歩兵の兵種長としてピエール。

 重装歩兵の兵種長としてアランが任命されていた。


 ジョエルは王都での活躍から、既に騎士としての叙任を受け、見習いから正騎士になっていたが、隊長には選ばれなかった。統率力という意味では、まだまだとの判断だろう。




 聖堂で、二十五名の騎士を改めて叙任する。


 ナスターシアは、当人から剣を受け取り、左肩、右肩と剣を添える。


「これより、カイル神への信仰を護る者として、王国と私に忠誠を誓い、その命を捧げ、全力を尽くすことをここに認めます」


 剣をひっくり返して返す。


「ありがたき幸せでございます。身命を賭して、使命を果たすことを誓います」




 延々と二十五人、儀式をするのだ。


 儀式そのものは退屈だが、意味するところは背筋が伸びる思いだった。




 叙任のあとは、特別訓練。


 今日からは彼等二十五名に神力を使えるようにする訓練が始まる。実際には、適性を見て彼等の他に修道士と修道女を数名加えていた。治癒要員である。


 そのまま、聖堂での講義となる。


「細かい話は、アランから後ほど説明があります。私からは概要を」


 ナスターシアが直々に教えるとあって、質実剛健の強者も若干緊張気味。


「まず、通常語られることはありませんが、カイル様には、彼を護るべく守護神がおられます。このこと自体が、極秘事項となっています。今から話すことはすべて同様に、死んでも守るべき秘密として下さい」


 ごくりと喉の鳴る音がする。


「カイル様の守護神達は、カイル様の一部であり、権現したものとも言えます。守護筆頭として……イ……」


 イオスの名を口にしようとしたときだった。急に顔面蒼白となって、手で顔を覆ってしまうナスターシア。それほどまでに、いまだ恐怖があった。


 アランが気を利かせて、さっと交代する。

 ナスターシアが部屋を出たことを確認して続ける。


「守護筆頭としてイオス様がある。先ずは、このイオス様に祈りを捧げることから始める。イオス様に想いが通じることによって、はじめて神の力を受け取る資格を得ると考えてよい。その先は、個人の適性次第となる」


「質問があります」


「なんだね?」


「誰でも同じように、使えるようになるのでしょうか? その、例えば生成武器などを……」


「そうだな、武器生成は高難度の部類に入る。適性のある者しか使えるようにはならない。どんな力を授かるかは、自分次第だ。自分がどういう人間か? ということを知るところから始まる」


「ありがとうございます」


「他には?」


「あの。ナスターシア様は、この力をとても怖がっておられるようですが、実際恐ろしいものなのでしょうか?」


「恐ろしくない、と言えば嘘になる。だが、彼女の領域へは恐らくだが、どんなに頑張っても到達せんだろう……。国王陛下をお護りするために、無理をされたと聞いている。そこまでしなければ、大丈夫だ。それに、先ずは第一歩が出来てから心配してくれ」


 アランは、他に質問がないことを確認して、具体的な説明に入っていった。

 日々の礼拝のしかたなどである。




 ナスターシアは、聖堂から出ると、少し安心した。神の御名を思い出すこと自体が恐怖なので、なるべく考えないようにしていたのだ。

 名前を口にするぐらいは大丈夫かと思ったが、全くそんなことはなく、怖いと感じてしまった。


 心配事は、他にもある。


(カイル様の守護神だなんて……怒られそう。なんだか本地(ほんじ)垂迹(すいじゃく)説っぽいし……。とはいえ、本当のことは言えないもんね)


 まるで、イオス神がカイル様の下位に位置するかのような教え方して、果たして上手くいくのか。こちらも、心配なナスターシアだった。

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