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100 383-01 子供の純朴さはときに凶器に変わるよね(2124)

 ナスターシアは、修道院へ帰る前に、商会の王都支店へ長兄フェルナンドを訪ねた。


 サラニアの新領主は、住民感情にも配慮してヘロンになりかけたが、高齢を理由に固辞されたため、フェルナンドにお鉢が回ってきたのだ。

 当初渋っていたフェルナンドだったが、マルセルが人材にあてがあるというので、受けることにしたのだった。

 あとでその人材の素性を知って、飛び上がるほど驚いたらしいが……。


 フェルナンドの部屋はすっきりと片付けられていた。


「お兄様、ごきげんよう」


「おお、ナスターシア様。だいぶお元気になられたようで、何よりです」


 フェルナンドは、祝賀会で会ったときよりも、少しふっくらしたかな? と安堵する。


「サラニアの領主就任、おめでとうございます。大変でしょうけど、よろしくお願いします」


「はぁ……。実を言うと、本当は受けたくなかったんです。私は経営者ですから、統治には向いていません。それでなくとも仕事が忙しいですし。ただ、最近は事務の方をリュシス君が手伝ってくれるので助かっているんです」


 後ろに控えた、妖艶な美しさをたたえた侍女も優雅に頷く。


「よかっですね。ところで、気になっているんですけど、お金を刷って王宮に収めていくのを続けて大丈夫なんでしょうか? 額面の一割が、修道院としての売値みたいですけど……」


「うーん、詳しくはリュシス君に聞いて欲しいんですが、供給力に問題なければ大丈夫だろうということです。つまり、お金を払っても手に入れられないようなものや、量を、王家が買おうとしなければ……ですね」


「でも、税金もとるんですよね?」


「あー、まぁ、詳しくはリュシス君に……」


「ご、ごめんなさい……」


「ただ……」


 フェルナンドは、声のトーンを落として続ける。


「止めどきが、一番難しい……だろうと、本人も言っていました」


(だよね。……私、しらなーい)




「ナスターシア……様?」


 振り向くと、ミネットが立っていた。最初に修道院に一緒に行った頃のような、みすぼらしい感じから、大人しい貴族のお嬢様といったふうな風貌に変わっている。


「ミネット! かわいいっ! 久しぶりね。覚えてくれてたんだ、うれしいっ!」


 とととっと、ミネットがスカートをひるがえして駆け寄る。


「お目にかかれて光栄です! ナスターシア様!」


 ナスターシアが腰を落とすと、がっぷりとハグされた。なんだか、言葉遣いと行動が合ってない気がする。きっと、教育の最中なんだろう。


「元気にしてた? お手伝い頑張ってる?」


「うんっ! もちろんっ! いっぱいお手伝いしてるよ! リュシスが失敗ばっかりするから、後片付けが忙しいの!」


 あははー、と苦笑いするしかない。


(うん、それわかる!)


「ああ、ミネットも頑張ってくれてるよ」


 フェルナンドも同意する。


「忙しくなるから、母親も引き取ろうと思っています。リュシスがあの調子なので、事務仕事に専念させたくてですね……」


 ものは言いようだね。


「ありがとう、ミネット。私も頑張るね」


「うんっ! 頑張ってね! 早く子供作るんだよっ!!」


「うん……。え?」


 フェルナンドも呆れるしかない。誰かがそんな話をしていたのだろう。


「こら、ミネット! 言葉が過ぎますよ」


「じゃ、じゃあ、私はこれで……」


 タジタジになって、修道院へと向かうナスターシアだった。




 さくっと飛行して移動できた頃は、本当に楽でよかった……。


 馬車に揺られながらナスターシアは、しみじみと思った。野営しながらの旅は、本当に大変なのだ。ヘロンが歳をとっても旅を続けられているのが、奇蹟のように思える。


「イーファ、王都はどうだった?」


「つまんない」


「会話が続かないよ!」


「疲れた」


「……おぇ」


 さっきから、気分が悪かったナスターシアは、会話して気を紛らわそうとしたが無理だった。馬車に酔ったのだ……。


 止めてもらい、外に出て、吐く。


「ナスターシア、大丈夫? ちょっと、休憩しよう」


「ありがとう、フラン」


 今回は、護衛を二十人ほどと修道士を十人ほど連れての移動だった。


 馬車を何台も連ねての、大がかりな移動になってしまっていた。それだけ、丁重に運ばれているとも言える。


 そんななかで、盛大に吐いてしまって恥ずかしい……。


 こんなに弱かったっけ? と、自分でも不思議なほど虚弱になっていた。

 まあ、儚げな風体からは容易に想像がつく感じではある。


「まだ、王都を出たばかりです。この調子じゃ、予定が狂っていまいます。我慢しますから、先を急ぎましょう……」


 革袋の水で、口をきれいにして、再び馬車に乗り込む。

 イーファは怪訝そうな顔で覗き込む。


「ねぇ、毛布敷いてあげるから、寝ていけば?」


「うん、ありがとう。そうする」


 とてもみっともないが、背に腹はかえられない。トマが、そっと寄り添ってくれる。ふかふかで癒される……。




 途中、復興を遂げ、大きく豊かになったロスティスの街で休憩し、修道院を目指す。ロスティスは宿場町として、しっかりと発展していた。

 大半は、修道院への巡礼者目当てであった。




 長い車列は、とても注意を引き、旅人達に話題を提供した。

 中にいるのが、ナスターシアとわかると、なけなしの食糧や硬貨を渡してくれる巡礼者もいた。

 ありがたいことである。


「う゛あ……。うぇ……」


 感謝を示すことは叶わなかったが……。

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