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98 383-01 新年の祝賀会でもおとなしく(2043)

 数日後、年が明け、新年の祝賀会が催された。

 あれだけの騒動の後ではあったが、それだけに祝勝ムードも手伝って大々的に開催されていた。

 祝賀会は、もう既に始められている。




 立って歩けるようになったナスターシアは、顔をだすだけという約束で会場を訪れた。


 ローディア王に祝福を与えたときと同じ、真っ白なブリオーに紺青色の肩掛けを合わせてハイヒールで、つとつとと歩く。腰まで伸びた白銀の髪が艶やかになびき、薔薇の芳香があとに残される。

 病的ではあったが、その透明感溢れる白い肌と細い手が、触れれば手折られてしまいそうな儚い百合を想起させた。

 実際には百合はかなり丈夫なのだが、線の細さがそうイメージさせる。


 会場に入ると、その神々しい美しさにどよめきが起こる。


 冬だというのに、色とりどりの服と床に敷かれた真っ赤な絨毯、壁の白に窓から差す陽光が鮮やかに彩る。


 真ん中に並べられた長く馬鹿でかいテーブルには、豪華な料理や酒、デザートなどが所狭しと並べられ、美味しそうな匂いをさせてた。

 貴族達はその周囲に艶やかな衣装で着飾って並ぶ。




 ナスターシアは緊張もしたが、それより(つまづ)かずに歩けるかどうかに気をとられていた。


 ごきげんようとばかりに、微笑みを振りまきながら王を挟んで王妃の反対側に用意された席につく。




 ナスターシアが席に着くやいなや、どっと人々が押し寄せる。一人づつ挨拶をするのが習わしだが、我先にと混乱して皆で口々に感謝を述べていく。


 厳しい戦いの最中、守護天使の姿を見てどれほど勇気づけられたか、劣勢の情勢をひっくり返すほどの武勇に見とれたことか……。


(聖徳太子じゃあるまいし、そんないっぺんに話されても……)


 だがまあ、内容は同じようなことなのでとくに問題はない。




 挨拶が一通り済むと、宴に戻っていった。楽師や踊り子たちが場を盛り上げ、酒が入り、戦の武勲を誇張して語り合い、大いに盛り上がった。

 以前のナスターシアなら、酒でも飲んで踊り出すところである。


 宴もたけなわのうち、王は輔弼に声をかけた。輔弼は、参加者一同に耳を貸すよう言う。


「これより王陛下直々に、ご列席の諸侯に伝えておきたいことがある。心して聞くように」


 その場の喧噪が、いっぺんに消し飛び、なんだなんだ? と耳を傾ける。


「では諸君。改めて余から今回の働きについて礼を申す。大儀であった! 新たなる年を迎えても、今後とも変わらぬ忠義を期待するものである」


「さて。今回王国では新たに紙幣を発行する運びとなった。これじゃ」


 王は、ナスターシア紙幣を取り出し、かかげた。


「これ一枚で、金貨一枚に相当する」


 どよめく会場。


「しばらくの間は、金貨九枚に対し、紙幣十枚で交換しよう。交換できるのは、王宮と両替商である」


 明らかに不安がる声が聞こえる。


「この紙幣に書かれているとおり、神に誓ってこの紙幣一枚と金貨一枚はいつでも交換できるものとする。今日はこの場に千枚用意した。興味がある者は、交換して帰るといい。以上だ」




 いきなり紙幣のお披露目がされた。馴染みがないので、いきなり受け入れられるのは難しいように思われたが、ここは祝勝会のようなものである。それに、紙幣には秀麗なナスターシアの姿が描かれており、人々の興味をくすぐった。


 持ち合わせのあった貴族達は、我先にと紙幣と金貨を交換した。この先、通貨として機能するかどうかは、今後の国民の受け取り方次第である。

 船出としては上々な感触ではあった。




「ナスターシア様」


 祝賀会には、兄のフェルナンドも来ていた。久しぶりに会う気がする。ビシッときまった姿は、流石としか言いようがない。

 ずいぶんと社交慣れしている。


 王、王妃と挨拶したあと、ナスターシアへと歩み寄ったのだ。


「お兄様。お久しゅうございます」


「負傷されたとのことでしたので、心配しておりました。フェリアに残された者も、たいそう心を痛めておりましたが、こうして元気なお姿を拝見して安心いたしました。私から、申し伝えておきます」


「ありがとうございます」


 フェルナンドは、挨拶をこなすと優雅な物腰で去って行った。今は貴族ではないが、遠からず爵位を授かることになるだろう。


「ナスターシア様、お酒は召し上がりますか?」


 宴が盛り上がるのにあわせて、酒を勧められる。

 なぜか、あまり気乗りしなかったが、折角なので一口くらい飲んでもいいだろう。小さめの杯を受け取った。


「ありがとうございます」


 一口飲んでみる。甘い果実酒だった。ナスターシアの好みの酒だったが、なんだかこれまでと感じが違う……。


 一気に上気し、強烈な頭痛に襲われた。


「い……た……」


(これは! 噂に聞く下戸の反応! お酒がこんなにまずく感じるなんて!)


 お酒が飲めない体質に変わっていた。


「ごめんなさい、ちょっと体調がまだ……」


 王は、横で心配そうにしていた。


「すまんの。もう休むがいい。みな、顔が見られて安心したようじゃ。感謝する」


 ナスターシアは、侍女に手を引かれ、そっと会場を中座した。


(やれやれ、お酒も飲めないなんて……。どうしちゃったんだろう?)

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