プロジェクトWIZARD
蛍光灯が淡い光を放つその真っ白い大きな部屋には三〇人ほどの研究者たちが集まっていた。
その部屋の中心にあるのは高さ五メートルほどの円柱の機械、銀色に包まれているその機械を囲むように二〇個ほどの座椅子が背を向けて置かれている。機械から伸びている鉄線は先端のフルフェイスヘルメットに何かの信号を送り、受信したヘルメットのシールド部分がピコピコと様々な色を映し出す。そのヘルメットを被らされているのは椅子に座らされた子供たちだ。
彼らは薬で眠らされており、意識はない。その状態で椅子まで運ばれ、勝手にヘルメットを着けられる。二〇人の顔がスッポリとヘルメットの中に埋まったのを確認し、研究者の一人は合図を出した。部屋の上部の一部は鏡張りになっており、上の部屋からこの実験場が一望できるようになっている。上から眺めていた男は研究者が出したその動作を確認し、機械を動かした。大掛かりな機械にもかかわらず、動作音は殆どしない。
「被検体24、死亡。被検体25、死亡。被検体26、死亡」
白い白衣を纏った二〇代後半の男は計器を眺めながら冷静に状況を告げる。
「被検体27、死亡、被検体28死亡」
その様子を白けた目で見ているのは、このプロジェクトの統括管理者である國枝東吾だ。
「被検体40、死亡」
その言葉を最後に、機械は止まり、下で作業している研究者達は遺体を撤去し始める。新たに増えた二〇の遺体はこの後早急に焼却処分される予定だ。
「それにしても、四〇もやって全部外れかよ。嫌になるな」
「どうしますか局長? 残っている子供はまだ二〇〇人以上いますが?」
「続行に決まってんだろ。残したってしょうがねえんだからな」
その一声によって再び二〇人の子供が椅子に運ばれ、ヘルメットを装着される。
「被検体35、死亡。被検体36、死亡――」
國枝は延々と繰り返されるのではないかというような声を、つまらない顔をして聞いていた。大あくびをし、実験が終わるまで寝ようかとも考える。
(やっぱり、GENIUSのようにはいかないか……?)
一三〇人の子供を使い行われた、人工的に天才を作り出す実験。その当時にでたゴミは一二六。五年前に行われた実験では生き残った四人を調査し尽くし、出た結果が未知の物質だ。
未知の物に名前などはない。
オーラと仮付けされたその力は今の世界情勢を覆すに足るものだった。
四人を徹底的に研究し、量産することができれば、日本という国は革新的な進歩を遂げただろう。
だがその計画は突然に頓挫した。
ある研究者が彼らを逃がしてしまったのだ。
当初は、研究成果を独占するためだと思われたその行動は三日後に覆された。
脱走して三日後、GENIUSの四人は遺体として見つかった。
しかし、その場に裏切りの研究者の姿はなく、最終的な顛末は未だ不明なままである。
そして、五年の歳月を費やして、ゆっくりと進めたGENIUS二代目プロジェクト、プロジェクトネームWIZARDが今目の前で行われている。WIZARDと名付けたのは國枝だ。
初代は天才児を作る研究だからGENIUS。そして今回の目的は現代の科学兵器より数段上の猛威を振るうことができるであろう人間兵器を作るためだからWIZARDだ。
だがどうにも芳しくない。
何か手順を変えたほうがいいのだろうか、國枝がそんなことを考え出したとき、
「被検体67、せ、成功です。生きてます!」
計器を眺めていた研究者が声を震わせて叫んだ。國枝は頭を打たれたような強い衝撃に見舞われ、勢いよく立ち上がり、その計器を凝視する。
「や、やったぞ、成功だ‼ このまま続けろ‼」
他の研究者達も今までの苦労が報われた様子で破顔し、いっそう業務に集中を向ける。
どんなことであれ、自分が熱中してきたことが目に見える形で実現したら嬉しいものだろう。
たとえそれが法を破り、人を人とも思わない連中でもだ。
この日、二〇〇人以上の屍の上に立ったのは、ほんの数人だけだった。
それ以外の人間は全て捨てられた。
しかしそれでも研究者たちは祝杯を挙げたのだ。
『WIZARD計画第一段階成功記念』として。




