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その後、私たちふたりはとても忙しくなった。
何千人もの人たちを集めた盛大な披露宴も行なったし、ジョージの王子としての外交の仕事にもついていった。もちろん、オリバー国にもふたりで行った。
夫婦でオリバー国王に挨拶に行った時、私がオリバー民族の血筋を引いていることを知った国王はとても嬉しそうだった。けれど、そんな国王の高笑いによって私は、ああ、やっぱり自分は政略結婚の道具なんだと痛感して、複雑な気持ちになった。こういうことはその時だけではなくて、ジョージの仕事についていく先々で同じような思いをすることになった。毎回毎回、自分が政略結婚の道具だということを実感させられると、さすがにイヤになってくる。
そんな私の様子をみかねてか、ジョージは仕事が終わるたびに私を色んなところに連れて行ってくれた。色んな国の市場や、大きな教会、お城、綺麗な湖……。
最初の方はジョージも仕事が忙しい中でも、こういう風に私に気を遣ってくれていた。
けれど、ジョージは一国の主になる男。私にばっかりかまっていられるはずもなく、段々と仕事が忙しくなるにつれ、私への扱いが雑になってきているような気がした。
ある時、ジョージが仕事から帰って来た、遅い夜のことだった。
ジョージは疲れ切った様子で帰ってくるなり大きなため息をつき、テーブルに付属するふかふかのイスにどかっと腰を下ろした。
「あら、随分お疲れのようでございますわね。
すぐに食事の準備を始めますわ」
「え、まだ準備していないの?勘弁してくれよ〜 ……。まあいい、はやくしておくれよ」
「は、はい。申し訳ありませんわ」
この時点で、なんとなく険悪なムードは感じられた。私はおそるおそる食事の支度を始める。
幸い、下準備は済んでいたので、そんなに時間はかからなかった。
それなのに、ジョージはまだかまだかと言わんばかりに右手の人差し指でテーブルをトントンと軽く叩き続ける。相当イライラしているみたい。
私は大急ぎで準備して、やがて料理を差し出した。
「さあ、お召し上がりなって」
「いただくよ」
ジョージはイラついた様子で、それでもさすがは王子、行儀は絶対に崩さない。
ジョージが料理を食べている間、私は夢中になって食事をしているジョージの顔に見惚れていた。その時だった。ジョージはふと顔をあげ、
私にこう言い放った。
「トロミィ。塩からいよ。味がしつこい。
こんなもの、食べられないね」
「え……」
後頭部を金槌で打たれたような、そんな衝撃が、脳内に走った。
私が返事に困っていると、ジョージはナイフとフォークを置き、スタスタと自分の部屋に入ってしまった。
かなりショックな出来事だったし、ジョージのあんな冷たい態度は初めてのことだった。