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私とジョージはふたり並んで市場に出かけた。
私たちの大きな住居から歩いて5分くらいのところに市場はあるらしかった。
少し歩くと、段々人気が多くなってくる。
道行く人たちは、私たちふたりに気がつく度に驚いた様子で道を開ける。
身分が高いと、人はこんなにも気を遣ってくれるんだ。
なんだか、新鮮な感じがした。
新鮮な気分のまま、私たちは市場に到着した。
「さあ、トロミィ。着いたよ!」
ジョージは爽やかに言う。
私たちふたりは、とりあえず食材売り場に向かった。食材売り場には、私の世界にもありそうな肉や野菜、魚などもあり、私の世界では見たこともないような不思議なものまである。
とても気になるので、思い切ってジョージに聞いてみることにした。
「ジョ、ジョージさまぁ?こ、これはなんですの?」
「ああ、これはイモだよ。食べてみるかい?」
ジョージは私のぎこちないお嬢様言葉も寛大に受け入れてくれて、そのイモと呼ばれるものを買ってくれた。
イモを買って、私たちは広場の中心にある大きな噴水の周りのベンチに、並んで腰かけた。
市場の人たちはみんな、私たちのことを知っているようで、私たちふたりをにこやかに見守ってくれているみたいだ。
「さあ、お食べ」
「はい、いただきますわ」
ジョージに勧められ、私はイモを手にした。
このイモは、たしかに形はサツマイモみたいだけれど、緑色でゴツゴツしていて、あまり美味しくなさそうだった。
けれどせっかくジョージが買ってくれたんだ、
食べるしかない、と、思い切ってかじりついてみた。
ガブッ!!!
「え、うま!ちょーうま.....!あ、い、いや、
美味しゅうございますわ!」
あまりの美味しさに、思わず素が出てしまった。が、すぐさまお嬢様言葉で言い直した。
変に思われていないだろうか。
「そう、良かった!」
私の心配は無用だったようで、ジョージは嬉しそうに、満面の笑みで微笑んだ。それをみて私もなんだか嬉しくなり、ジョージを喜ばそうとこれみよがしに美味しそうにイモをたいらげた。
「はははっ!トロミィ、美味しそうに食べるね。気に入ってくれてよかったよ」
「ええ、ありがとうございますわ!」
私とジョージはそう言って笑いあった。
この時、私はとても幸せな気持ちで心が満たされていた。それは、私の好きなアイドル、JOJIに似ている人と一緒に過ごせているからではない。
私はこの人を"ジョージ"として見るようになり、好意を抱いていた。ジョージが笑顔になる度に、私の心は満たされる。
心の底から恋に落ちてしまったみたい。
もう元の世界に戻れない。戻りなくない。
自分が政略結婚の道具であることも忘れ、私はジョージとの休日を満喫していた。