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この日、私は夫、ジョージの外交交渉に素直に同行した。これは泣き寝入りっていう訳では当然ない。ちゃんとした理由がある。
ちゃんとした理由とは、交渉先の国に行けば分かることだ。
「こんにちは。オリバー国王。今日もよろしくお願いします」
ジョージは私に対する態度とはうってかわって、オリバー国王の前ではネコをかぶる。
当然ジョージの裏の顔なんて知らないオリバー国王は、私の存在を確認し、嬉しそうに私たちを歓迎した。
そう、私が今回、ジョージの外交にのこのこと同行したのは、復讐のため。それにはオリバー国王の存在が丁度良いと思ったからだ。
せっかく私のことを仲間だと思ってくれて、歓迎してくれているのにもかかわらず利用するようで申し訳ないけれど、ジョージを倒すためならやむ得ないとしか言いようがなかった。
私とジョージは豪華な国王室に案内され、オリバー国王の奥様を交えて4人で対談を始まった。初めのうちは、ジョージ、オリバー国王、オリバー国王の奥様の3人が和気あいあいと話をしている。
私は自分に話が振られるのを、頭をフル回転させて整理しながら待っていた。すると、私の様子に異変を感じたのか、オリバー国王の奥様が心配そうに私に話を振ってくれた。
ナイスタイミング!
「あら、トロミィ奥様。顔色がお悪いようで、
大丈夫かしら?疲れているのかしらね」
「おやおや、大丈夫ですかな?日頃の外交同行疲れでストレスが溜まっているのではありませんかな?」
オリバー国王と奥様が私に振った話題は、まさかまさかの私の体調の心配だった。
それを聞いたジョージは、気のせいだよな、なんてトンチンカンなことを私に言ってきているが、オリバー夫妻は心配そうに私を見つめてくれている。びっくりした。
この世界にきて初めて、人の優しさに触れた気がした私は心の底から驚いてしまったのと、
あまりの気遣いに感激してしまった。
なんだか、今まで心の中に溜めてきたフラストレーションが、溢れ出してくるのが自分でも分かる。まるで、ダムが決壊するみたいに。
オリバー夫妻の優しさを噛み締めれば噛み締めるほど、自然と涙が出てきた。
それを見たオリバー夫妻は顔を見合わせ、まずは奥様が私の隣に座り、背中をさすってくれた。ジョージはというと、突然の私の涙に取り乱している。
そしてそれを、オリバー国王は見ていたみたい。
「奥様、落ち着いたら話してみなさい。涙の訳を」
大丈夫です大丈夫です、と慌てるジョージを制し、オリバー国王は私に促す。
オリバー国王に背中を押され、私はついに決心することができた。