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「わ、わたくしは目撃してしまいました……」
「なにをですか?」
とても言いにくそうだ。このままではサンコンに申し訳ないので、私の方から探ってみることにした。
「もしかして、女の人と会っているってことかしら?」
私がおそるおそる核心をつくと、サンコンはとても気まずそうに頷いた。
最悪だ。私が今までジョージに見てきた自分に対する愛情は、偽りだったのだ。
今までの私の苦労は何だったんだろう。悔しい。本当に悔しい。
私は今までジョージの為に尽くしてきたっていうのに、本当にバカバカしくなってきた。
もうジョージなんか好きでも何でもない。
あんな奴は敵だ。あんな奴と一緒に暮らすくらいなら、豪華な住居や、豪華な食事、豪華な洋服なんかいらない。元通りの平凡な日常に戻りたい。そう思った。
よし、もうジョージに期待するのはやめよう。
ジョージの仕事に協力するのもやめよう。
私は私であって、政略結婚の道具なんかではない。
その日の夜、ジョージは家に帰ってくるなり、私に仕事を頼んできた。
「トロミィ、今度の外交交渉、同行してくれ」
「………ですわ…」
「ん?」
「いやですわ!」
「え?トロミィ、君は何を言ってるん…」
「サンコンから聞きましたのよ!最近、いつもいつも夜遅くまで帰って来ないのも、朝まで帰って来なかったりするのも、女の人と会ったりしているんですってね!私への愛情は偽りですの?そんな貴方にはもう協力したくありませんわ!」
私はついに、ジョージに対する憎しみの感情を思い切りぶつけてしまった。けれど、後悔はない。こうしていなくともいずれこうなる日は、いつかきっとくるはずだから。
私の思わぬ反応に一瞬ジョージはひるんで何も言えない状態だったけれど、頭を整理したのか、すぐに反論してきた。しかも凄く怒り、感情が高ぶっている様子だ。
「トロミィ!証拠もなしに何を言うか!だいたい、君がこんな贅沢な生活が出来るのも誰のおかげだと思っているんだ!ぼくのおかげじゃないか!いい加減にしろ!」
「えぇ………」
ジョージは、ついに絶対に言ってはいけないことを口にした。ジョージがあまりに興奮していたので、私の方はというと逆に冷静さを取り戻していた。
落ち着いてよく考えると、良い考えが浮かんだ。この最低な逆ギレ男に復讐したうえで婚約を破棄する方法を。
"婚約破棄"。いつもネット小説で読んでいたような内容を、まさか自分が実行する日が来るなんて、当たり前だけど思ってもみなかった。