7年後
「「誕生日、おめでとう!」」
この世界に転生して、7年が経過した。
この世界にも誕生日会的なものはあるようで、いつもより少しは豪華なものが食べられる。
鳥の丸焼きや、柔らかい甘いパンなどだ。
ステータスの本を読んだ後、俺はもちろん他の本も読み尽くした。
この村や国の名前魔族やエルフがいることなど、様々なことが書いてあった。
この村はトロバ村というらしい。
まあ、それは必要になった時においおい伝えていこう。
そんなこんな考えながら、食事を終えると、父がおもむろに何かを取り出した。
「さて、ダイナ。お前ももう大人まで半分だ。お前にプレゼントをやろう。」
今までの誕生日ではこんなものはなかった。
今回は特別なのだろうか。
大人まで半分、ということは、今回は二分の一成人式みたいなものか。
父から手渡されたのは、長い棒状の箱だった。
「開けてみなさい。」
言われるままに、開けてみる。
…木刀だ!
「明日からお前の訓練をする。お前がどんな生き方をするのかはわからないが、自分の身、そして大切な人を守れるようになりなさい。」
明日から剣の訓練か。
俺の剣道で身につけた実力を見せてやる!
テンションが上がっていると、母から声をかけられた。
「パパは剣を教えるわ。そしてもし、教わりたいのであれば、私が魔法を教えるわ。昔だけど、習ったことがあるの。」
なんと!母は魔法が使えるのか。
「教えて!」
もちろん教わる。
「わかったわ。準備しておくわね。それと、私からもプレゼントよ。」
渡されたのは、本のようなものだ。
「その本に、その日起きたこと、楽しかったこと、頑張ったこと、辛かったこと、いろんなことを書きなさい。いつか、大人になったら役に立つはずよ。」
なるほど、日記帳か。これはありがたい。
この世界で知ったことをメモするのに最適じゃないか。
「パパ、ママ、ありがとう!」
「よし、明日は早くから訓練するぞ。もう寝なさい。」
「はーい」
二階へと上り、布団に入る。
だが、ワクワクして眠れない。こともなく、すんなりと寝てしまった。
★
翌日
朝の6時に目が醒める。
毎年起きるのが早くなっており、去年より1時間早く起きた。
父はもう起きてるようだ。
服を着替え玄関へと向かう。
「おっ、おはよう。早いじゃないか。」
父は庭の畑の手入れをしていた。
「だって昨日早くから訓練するぞって言ってたじゃん。」
「そうだな。まあ、そろそろ起こそうと思ってたとこだ。」
「それで、何するの?」
訓練するとは言ったが、何をするのか全く知らされていない。
「いいか、剣を振るには力が必要だ。だから最初の頃は剣は使わない。付いて来い。」
父について歩いていくと、アーマの家に着いた。
「おーい、来たぞー。」
父が叫ぶと、
「おう、準備はできてるぜ。」
クロンさんとアーマが出てきた。
2人とも動きやすそうな格好をしていた。
「おはようアーマ。」
「うん、おはよう。」
父とクロンさんが喋っているので、俺もアーマと喋ることにした。
朝焼けに染まる赤い髪が綺麗だ。
この7年でアーマも変わった。
少し細いつり目が気の強そうな感じを出しているが、全体的に中性的な印象がある。
ちなみにまだアーマは6歳だ。
「今日は何するのかな?」
「多分、走るんじゃないかな?」
剣を使わないトレーニングで、最初に始めることと言ったら、ランニングだろう。
しかし、あの父やクロンさんについていけるだろうか。
流石に手加減してくれないとついていけないと思うのだが。
「そっか、かけっこするんだ!」
朝早くから楽しそうだ。
まあそれは俺も同じだが。
前世ならめんどくさがっているはずだが、この世界の俺は子供の感性なのかもしれない。
「さて、ダイナ、アーマ、ついてきなさい。」
父たちの話は終わったようだ。
ついていくと、坂道に着いた。
かなり長く、数百メートルは続いているだろう。
だんだんと傾斜が急になっており、スタートはほぼ平らだが、最後の方はもはや崖じゃないか、というような角度だ。
上りきったところがどうなっているのか見えない。
「まずは見ていなさい。」
そういうと、父とクロンさんは坂を走り出した。
100メートル5秒くらいじゃないか。はっや。
傾斜がほとんど垂直になっても止まらない。
そして40秒くらいで、坂を登りきってしまった。
「さて、修行内容だが、ここを登りきれ。」
おいおい、あんた子供になんてことさせようとしてんねん。
流石に無理だろ。
「ここは、昔俺たちが修行してた場所だ。数年かかっても登れない奴はいる。俺たちは20人ぐらいで使ってたが、登れたのは半分もいない。ちなみに俺たちは1年かかった。」
無理やん。
めっちゃハードやん。
ちなみに俺の関西弁はえせやん。
「もしお前たちがそうだったら、俺たちは剣を教えない。そんな奴に守れるもんはない。」
…かっちーん。
あそう。
そういうこと言う。
度肝抜いてやる。
「じゃあ俺は半年で登ってやる!」
見てろよ。
絶対にやってやる!
「ああ、期待してる。」
…なんだ、もっと煽ってくるかと思った。
まあいい。
早速やってやる!
「いくぞアーマ!」
「うん!」
俺の伝説は、ここから始まるんだ!
★
結論。
無理。
なんであの人たち登れんの?
てか、そこまでいくのにもダッシュしないといけないんだけど、それが無理。
開始100メートルでもうきつい。
なんとか150くらいまでは走るけど、そっからはもうダッシュじゃないスピードだし。
アーマも同じぐらいのところでダウンした。
「まあ、1日じゃ無理だよな。」
そう言いながら、父たちはおりてきた。
「朝昼晩、好きな時間に挑戦しな。1人でも、アーマとでも、好きな時に挑戦するといい。許可は取らなくていいからな。道は覚えただろ?」
あの過保護が、随分緩くなったものだ。
とにかく、父を驚かせるんだ。
今日から毎日チャレンジしてやる。
「さて、そろそろ仕事の時間だ。ちゃんと帰って飯食えよ。じゃ。」
そう言い残して父は去っていった。
「それじゃ、アーマは帰るか。」
クロンさんはまだ子離れ出来てないようだ。
「…まだ、ここに居たい。」
お、アーマ、やる気だな。
「…わかった。頑張れよ。」
クロンさんも帰っていった。
「よし、もう一回、頑張るぞ!」
「あー!」
(登れなくても、アーマより一歩でも進んでやる!)
俺たちは、坂を登り始めたのだった。
この、果てしない土の坂を。
★
「た、だ、い、ま、」
がくっ。
家に着いた瞬間に膝から崩れ落ちた。
あの後、10回ほど挑戦したのだが、150メートル、100メートル、80メートル、と言うふうに、回数を重ねるごとに記録が落ちていった。
これ以上やってもしかたがないので、登れた最高地点に印をつけて帰った。
印はモチベーションの維持に必要だと思う。
150メートル、傾斜十五度のところだ。
「おかえりなさい。」
母が出迎えてくれる。
「まったく、あの人はいきなり厳しいわね。ご飯できてるわよ。」
俺もそう思う。
いきなり子供にやらせるレベルじゃねぇ。
それにしても腹が減った。
なんとか体を這いずって、リビングへ向かう。
筋肉痛がもうきた。
若い。
★
食事を終えると、母から提案があった。
「魔法は、今から教えてもいいかしら?」
イエス、俺はうなずいた。
「それじゃ、準備ができたら庭に来てね。」
剣の方は地獄だが、魔法なら大丈夫だろう。
期待に胸を膨らませ、俺は庭へと出ていくのだった。
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目標
父を超える
坂を登りきる NEW!
ヨシオに会う