ニューゲーム
…白いような、暗いような。
…水中のような、空中のような。
「…何処だ、ここ…」
ふと、大きな、太陽のような輝きを発しているものを見つける。
何故か、そっちにすごく行きたくなる。
ここにいても、何も起こらないだろう。
俺はそっちに向かって必死に泳いでいく。
全く近づいているように見えない。
それでも泳ぐ。
泳いで、泳いで、泳いだ。
どのくらいの時間が経っただろうか。
ようやく太陽にたどり着いた。
周りには何もない。
俺はその太陽に向かって手を伸ばした。
その瞬間、身体が引きずりこまれていく。
だが、不快感はない。
むしろ幸せな感じだ。
少しずつ、意識が遠のいていく。
「あなたの名前は、ダイナよ。」
どこからか、そんな声が聞こえた。
安心する声だ。
その声を聞きながら、俺はゆっくりと意識を手放したのだった。
★
「よくやったぞ、ナターシャ!」
大きな声で、男性が騒いでいる。
「よく生まれてきてくれたわ、ダイナ。」
笑い泣きのような震えた声で、女性が囁く。
あの水の中で聞いた声だ。
どこからか赤ん坊の声もする。
思い切り泣いているようだ。
正直、あの男性の声と相まって、うるさい。
俺は子供が嫌いではないが、限度があるだろう。
何故、親はそのままにしているんだ。
さっさと泣き止ませてほしい。
そこまで考えたところで、ふと自分が知らない場所にいることに気づく。どこ、ここ。
体を動かそうとする。
ほとんど動かない。
目はうっすら開いているが、天井しか見えない。
天井からは洋風な感じが漂う。
「よーし、ダイナ。お父さんが抱っこしてあげよう。」
男性の声が聞こえた。
ようやく泣き止ませようとし始めたか、と思う俺だったが、男性はこっちに近づいてきた。
そして急に俺のことを抱き上げてきた。
(うわっ、なんだこのおっさん!やめろよ!)
俺はそう叫んだつもりだったが、泣き声しか聞こえてこない。
「あら、お父さんが怖いのかしら。よしよし、ダイナ、怖かったね。」
女性が、そんなことを言いながら俺のことを抱っこした。男性はショボーンとしている。
(…もしかして、泣いているのは、俺?ダイナってのは、俺のことなのか?)
ありえないことだが、鉄骨のことを思い出し、ある考えに至る。
(もしかしてこれ、転生ってやつ?俺は死ぬ前に、何処か遠くへ行きたい、って思っていた。それを神様が叶えてくれたのか?)
どんだけ遠くだよ!
確かに遠くへ行きたいって思ったけど、まさか転生するとは思わないじゃん!
無意味なツッコミが頭の中に響く。
…はあ、考えても仕方ないか。転生しちまったものはしちまったんだもんな。
そう考えているうちに、あることを思い出した。
転生ってことは、俺、勇者になれんじゃね?
俺は昔からラノベを読んでいて、それによく出てくるのが、転生だった。
主人公が転生して、最強になって、結婚して、幸せになって、周りから慕われる。
(…もしかして、俺も?)
前の人生はパッとしないまま事故で死んでしまった。
この世界で俺は最高の人生を歩むんだ!
そう心に決めたのだった。