第六話 悲劇は繰り返す≪前編≫
最初の事件からあっという間に3ヶ月が経って・・。
あの日は蝉がとてもうるさい日だった・・。
仲の良い友人が遊びに来て、一緒にかき氷を食べようとした時だったと思う。
友人が豹変したのだ。
「動きを止めて」
それだけ言って、友人は母を急に刺した。
それはあっという間の出来事で、何故友人が刃物を持っているのかも分からなくて・・。
第一、母の背中から出ているモノは爪の様に見えて・。
そして、その爪は友人から生えていて・・・。
何もかも、分からない事だらけだった。
ただ、流れ落ちる紅がひどく綺麗に思えて、ボゥーと立っていた。
事態を把握したのは、数瞬経ってからで・・。
「何で、こんな事するの?」
次の標的となった父の前にでて、友人に訊いた。
その時には、もはや友人の姿は人のそれとは異なっていた。
爪は長くのび、口からは牙、耳も尖っていた。
「全ては神の娘を手に入れる為だよ。だからわざわざ人間の振りまでしたのだから」
友人だったモノは丁寧にもそう答えた。
「神の娘・・?」
何の事かはよく分からなかった。
ただ、それを聞いた途端に変わった父の雰囲気で、狙われているのは自分だと分かった。
「逃げなさい、李亜。お父さんもすぐに追いかけるから」
突然、父が言った。
「でも・・」
李亜は首を横に振る。
そんな事をしたら、これを最後に父ともう会えなくなるような気がした。