第三話 真実の衝撃
「嫌ーーー!」
その場は青白い光に包まれた。
「くっ」
その光を全身に浴び、迂京はその秀麗な顔を微かに歪ませる。
「まずい、な」
そして、その場に、結界を張った。
途端、
ピシッ、ピシッ。
音を立てて、結界がひびわれる。
「もう、少し……」
幸い、結界が割れる事は無かった。
やがて、気を失って倒れてしまった李亜をみて、迂京は少し、溜息をつく。
「目覚めてしまった……か」
奇しくも、覚醒の条件が揃っていた。
磔にされた人、そして炎(または血)、最後に「神の娘」という文字。
「さて、どうするか…」
結界を張ったので室外には影響なかったのだが、室内は……。
考えてる間にも、先程の爆音を聞きつけた人達が部屋のほうへ近づいてくる。
「失礼」
少しの躊躇いの後、迂京は李亜を抱き上げて窓から屋上へと飛び上がった。
間一髪。
迂京の姿が消えた瞬間、音を聞きつけた人達が部屋を覗き込む。
「……!」
ある者は部屋の荒れ様を見て驚いた様に目を見開き、またある者は視線を巡らせ紅の色彩を捕らえると、糸が切れたように崩れ落ちる。
結局その日は授業どころじゃなく、皆自分のことに手一杯になったので、屋上に消えた二人のことを気にかける者はあまりいなかった。
一方、屋上では…。
「伊達、君…?」
正気に戻った李亜は迂京の方を心配そうに見る。
迂京は片手を押さえ込んでいた。
「大丈夫?」
李亜の声み顔を上げた迂京の顔は青白い。
だが、それとは対照的に押さえた手の隙間から溢れる血は紅い。
「大丈夫だ。………心配しなくても良い」
かなり痛そうだが、その面からは何の感情も読み取れない。
「貸して」
李亜は迂京の手を取り、傷口の掌を翳す。
ポゥ
掌から淡い光が漏れ、ゆっくりと傷を癒してゆく。
「もう、良い」
しばらくして、大人しくされるがままになっていた迂京は李亜の手をそっと外した。
「ありがとう…」
そして、言い辛そうに小さな声で呟くように言う。
「どういたしまして」
それを聞いて、李亜はにっこりと笑った。
―――…しばしの静寂。
「お姉ちゃんは…実の姉じゃなかったのね」
最初に口を開いたのは、李亜だった。
「ああ、教会側が付けた護衛……というよりは、監視役だ」
迂京は頷く。
「監視……?」
李亜は首を傾げた。
「神の娘が自分達で利用できないようなら、即刻、処分するためだ」
迂京は淡々と続ける。
「処分……か」
李亜は呟いた。
ふと、先代の時の事が、頭の中に浮かぶ。
都合よく自分を使った後、魔女として切り捨てた教会。
同様に、自分を見捨てた人々。
恨んではいない、けれど、哀しい記憶。
そして、私のせいで、辛い思いを沢山させてしまったヒト。
あの時、私が一人先に死んだ事で、あのヒトは独りぼっちになってしまった。
そして、長い、長い年月を経て再会し、約束したのに……!また!
今度は、あのヒトに約束を破らせてしまった。
私は、また、裏切った。
『アス、タロト…?』
『ああ』
『じゃあ、あなたの事を、アスタロトって、呼んで良い?』
幼い頃、そう言った私に少し困惑した表情で『是』と言ってくれたアスタロト。
それからの数日はとても幸せだった。
そう、あんな事が起こるまでは―…。