第二章 新たなる目覚め
「来るな!」
迂京が李亜に向かって叫んだ。
「何?」
その焦った様な声に、思わず李亜は足を止める。
「……来ない方が良い」
「何で?」
静かな、けれども自分を気遣っているのであろう迂京の声に、李亜は部屋を覗き込もうとした。
「見るな。……見ないほうが良いんだ」
迂京は李亜を胸に抱きこむ。
が、その前に李亜は部屋の内部を見てしまっていた。
「な……に……あ、れ」
壁に磔にされている樹里の姿がまず目に入る。
続けて、壁や樹里の体を伝わり床に溜まった、紅い液体――血が。
ポツン……ポツン。
血は、床にまだ落ち続けている。
「あれ、は……お姉、ちゃん?」
「……」
無言の迂京。だが、彼の身に纏う雰囲気がそれを肯定していた。
「ーーー…離して!」
李亜は暴れる。
そして、迂京の腕が緩んだ瞬間、李亜は樹里の下に駆け出した。
「きゃっ」
途中、床に溜まった血で滑って転ぶ。
血に塗れたまま、李亜は樹里を見上げた。
”デジャビュ”
昔、同じように磔にされた人を見上げた事がある気がする。
近寄りたいのに、近寄れない。
近寄ってはいけない、呼びかけてもいけない。
そんな状況になった事がある気がする。
そんな事、ありえないのに…。
ポッチャン。
髪から血が滴り落ちる。
紅く歪む視界。
紅、赤、あか、アカ。
アカイ、赤い、炎ーーー…。
炎、熱い、苦しい、煙……。
コホ、コホ。
何処かから聞こえる女の人の咳。
ーーー誰?
私は……誰?
理性は、和久井 李亜だと叫んでる。
だがそれを、誰かが私の中で否定する。
不思議な感覚ーーー…。
違う、私は、私はーーー…!
ガチャ。
頭の中で、何かの鍵が外れる音がした。
自然と視線が横に逸れる。
『 A DOUGHTER OF GOD 』
磔にされた樹里の横に、樹里の血で書いてある文字。
(神の娘ーーー…?)
ガッチャン。
また、鍵の外れる音がする。
(何、これ?)
頭の中に、沢山の情景が浮かび上がってくる。
沢山の死体、炎、自分を護ってくれている誰かの背中。
そして、磔にされた、男の人。
「い、嫌。いやぁぁぁ!」
その場は、青白き光に包まれた。