第一章 季節外れの転校生
第一章 季節外れの転校生
「李亜、起きた方が良いわよ」
「ん〜」
「李亜?……聞こえているの?」
「ん〜。……っ!?」
ぼんやりと、まどろんでいた少女は、思わぬ程近くで聞こえた声に驚き、飛び起きる。
そして……少女、和久井 李亜は
「おはよう」
枕元に居る姉を見、さらにその背後に在る時計を見て
「キャァァァァ」
……絶叫した。
――さて、時は経ち場所はキッチン。
「どうして、こんな時間なの?」
李亜は目の前に居る姉、樹里に訊く。
「何度も起こしたわよ」
樹里は苦笑しながら言った。
「遅刻だぁ〜!」
時計は十時半を示している。
「行くわよ」「うん」
樹里の声で二人は家を飛び出した。
樹里と李亜は年の離れた姉妹だ。
両親は李亜の幼い頃、亡くなったらしい。
というのも、李亜には六歳以前の記憶が無いのだ。
どうやら両親と同乗していた李亜は、事故の衝撃でそれまでの記憶を失ったそうだ。
「間、に……合った?」
李亜は、ぜえぜえ言いながら友人に聞く。
三時限目は樹里の授業だ。
お互い、遅れると不味い事になる。
「セーフだよ」
隣の席の友人はくすくす笑いながら答えた。
「ありがと〜」
お礼を言って、席に着く。
その時、カラカラと扉が開いた。
「授業を始めます。と、まぁ、その前に紹介したい子が……」
樹里が教室に入ってくる。
「……失礼」
続けて入って来たのは男の子。
長い睫毛と艶やかな黒髪。そして、灰色がかった吸い込まれそうな瞳。
唯一の欠点は、無表情な所くらいだろうか?
いや、それさえも欠点にはならないかもしれない。
まさしく、魔性の美という言葉に相応しい少年だった。
(綺麗な子だなぁ)
ぼうっと見ていると、伊達 迂京と名乗った少年と目が合った。
(え……?)
すぐに視線は逸らされる。
(気のせい、かな……?)
李亜は迂京と目が合った時、迂京が微かに目を見開いた様に見えたのだ。
結局、迂京のことは委員である李亜が案内する事になった。
そのまま時間はすぐ経ち、昼休み。
「学校……案内するね」
李亜は迂京の元に行く。
「……感謝する」
迂京は無表情に呟いた。
「どういたしまして」
そのまま、二人揃って学校内を進む。
「で、此処は図書室。そしてね、この道をまっすぐ進むと……」
図書室の前まで来た時だった。
突然、迂京が足を止める。と、思ったら急に走り出した。
そのまま、図書準備室の中を覗く。
迂京が突然固まった。
「どうしたの?」
不審に思った李亜が迂京に近づこうとする。
「来るな!」
迂京が李亜に向かって叫んだ。