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プロローグ
プロローグ
紅い、赤い、あかい、アカイ。
あの人が炎に蹂躙されてゆく。
コホ、コホ。
炎のパチパチと爆ぜる音の間から時折聞こえるあの人の咳。
「少しだけ待ってくれ。直ぐ、助けにゆく」
あの人にだけ届く様、思念波を送る。
「いいえ」
あの人が首を横に振るのが見えた。
「ありがとう、アスタロト。・・・・・・けれど、私を人間として死なせて下さい」
「だが・・・!」
「お願いです」
苦しいだろうに、あの人は――戦乙女と呼ばれた少女は微笑みながら言う。
「……分かった」
自分は、よく知っている。
あの人がああいう目をした時は、何を言っても無駄なときだ。
もう、あの人は自分で全て決めている。
自分に口出しする権利はない。
「本当に、どうも有り難う。アスタロト……そして、さようなら。
ああどうか、この人達に神のご加護がありますように」
そして、そのまま少女が物言わぬ骸となるまでアスタロトが見守った。
「来世では、必ず君を護る。……何からも、誰からも」
そしてその場から掻き消えた。
そう、まるで初めから存在などしていなかったかのように。