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「それが頼みの暗黒騎士か? ……とんだ期待外れではないか。ハハハハ!」
ガトリングガンを構えたまま、重戦士のレスタトが笑っていた。
「う、うっさいわね! 呼び出したばっかりだから、混乱してんでしょ! 暗黒騎士の本領は、敵を倒せば倒すほどに強くなる奥深さなのよッ! さあ、ほら! 敵を倒したいんでしょう? 血に飢えているんでしょう? 行きなさいよ、もうッ! 暗黒騎士ッ!」
確かに混乱してはいるが、俺にはそんな奥深さも奥ゆかしさも無ぇよ。だって、暗黒騎士じゃねぇからな……。
それにいくら相手が美少女だからって、何で無条件で味方にならなきゃいけないのか。いきなり戦場に放り込まれて、どっちが敵でどっちが味方とかあるもんか。
しかも明らかに不利な方の味方をするなんて、そんな馬鹿な話は無ェ……いくらこれが夢だとしても、だ。
俺は恐る恐る頭を持ち上げ、勇者パーティーとやらを確認してみた。
あっちはガトリングガンの男を含め、合計で五人。内訳は男が三人、女が二人だ。
他にも崩れた扉の先には大勢の兵士と思しき男達がいて、こちらの戦況を見守っている。あれも敵だとしたら、サーシャの方は圧倒的に不利だった。
となると銀髪の美少女――サーシャに味方をしても、勝ち目なんて全くない。そもそも俺は民間人、ちょっと剣道が出来るだけの高校生だぞ。ばか、ばーか!
……
……
……
……
――よし、逃げよう。
夢なら、もっといいものを見せてくれ。例えば俺が勇者役で、サーシャが魔物に襲われているとか……そういう状況ならちょっとは考えようってもんだ。
それがこんな、いきなり戦争とか巻き込まれるのは嫌に決まってるだろ。と、結論が出たところで妙な音が聞こえてきた。
プシュー……――。
なんだ、この音は……? 耳を澄ませて聞いてみると……。
どうやら相手方の男が持つ妙な剣の根元から、白い煙が出る時の音のようだ。蒸気だろうか?
剣の柄に収まるような蒸気機関なら、それはおもちゃにも等しいものだと思うけれど……、ますます意味が分からない。
男はレスタトとか言うガトリング男の横に立ち、ニヤリと口を歪めて言った。
「……魔王軍四天王の一人、召喚師のサーシャ。フッハハハハ! 最弱の名は伊達じゃないなぁ! この期に及んで竜でも精霊王でもなく、ただのニンゲンを呼び出すとは! しかも混乱しているだと? 哀れに過ぎるな!」
「う、うっさいわねッ! あんたこそ、たかが軍国の勇者如きが調子に乗ってんじゃないわよッ! 暗黒騎士は竜を倒すほど強いんだからッ!」
「それは、十分に敵を喰らった暗黒騎士だろう? 俺には――コイツが敵を喰らっているとは思え無ェが?」
「だ、だだ、黙りなさい、このクサレ勇者ッ! 暗黒騎士を見た目で判断しないでよねッ!」
銀髪美少女と蒸気剣男の舌戦が始まった。
どうやら美少女サーシャは魔王軍の四天王の一人で、蒸気剣男が勇者らしい。
二人の舌戦を、他の人たちも見守っている。
この隙に俺は勇者パーティーのメンバーを一人ずつ確認してみた。
一人目はサーシャへ向けて弓を構える、金髪のお姉さんだ。ツンと尖った長い耳が髪の間から覗いている。エルフだろう。エルフに違いない。俺はエルフが好きだ、大好きだ。
次は白い神官服を着た女の子。童顔でナカナカに可愛いく、頭の右側で纏めた茶色の髪が特徴的。サーシャ程ではないが、こちらも美少女だった。
三人目は、重戦士レスタト。鈍色に光る金属鎧を身に纏った、いかにもな戦士だ。男なのであんまり見たくない。筋肉担当といったところだろう。サーシャが巨人族とか言ってたな。
四人目は糸目の槍使い。黒髪の長髪で飄々とした雰囲気は、独特の必殺技がありそう。「ござる」とか言いそうなキャラだが、刀は持っていなかった。
最後は蒸気剣を構える勇者だが――……。
「黙れだと? この迅雷の勇者ザーリッシュにそんな口をきいて、ただで死ねると思うなよ! 四天王サーシャ=メロウ!」
大口を開けて吠える勇者ザーリッシュの風貌は、決して勇者らしくない。
逆立つ赤毛に蒸気を吹く大剣。それだけでも怖いのに、灰緑色の軍服が筋肉でパンパンになっていた。彼はどちらかと言えば、勇者というより鬼教官とか鬼軍曹といった雰囲気をもっている。
とはいえ見た限りでも分かることは、勇者のパーティーメンバーは誰もが一騎当千であるということ。これを相手に戦えなんて、無茶ぶりもいいところだった。
まあ、夢なら美少女にカッコいいところを見せるというのも悪く無いが……、しかしだからといって、その後、オイシイ展開になるとも考え難く……。
ということで。俺は無関係な民間人、この場から避難するのが正解です。
そうと決まれば、そろりそろりと匍匐前進を開始して……。
しかし銀髪の美少女に首根っこを掴まれ引きずられ、俺は再び戦場へと戻された。そして彼女は短い杖を振り回し、声高らかに喚き立てる。
「ちょっとアンタ、どこ行こうとしてんのよ! せっかく呼んだんだから役に立ちなさいよねッ! さあ、命令よ、従属者の暗黒騎士! アンタだって、敵を喰らって強くなりたいんでしょッ!?」
えッ! いや――敵とか喰いたくないし。というわけで、俺は頭をブルンブルンと左右に振った。
「我が敵を滅せッ!」
「え、ちょっ!」
「返事は『了解』以外、認めないわッ!」
銀髪美少女の四天王は、俺の意思を完璧に無視。なんて我が儘なんだろう……コイツ。




