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空から美少女が降ってくるなら、まだ有り得ることだ。
「明日の天気は晴れのち美少女」そんな予報なら……多分みんな歓迎すると思う。
少なくとも災害ではないし、青少年なら淡い期待をするんじゃないだろうか。
でも逆だった場合、どうだろう?
「明日の天気は晴れのちダサメン」
それもとびきり美少女の上に、冴えない男が落ちてきたとしたら?
美少女は怒るだろうなぁ……。
当然、淡い期待なんて無いだろうなぁ……。
いっそ土砂降りの雨が降ってきた方がマシだと思われるだろうか……?
それは凹むなぁ……。
てか一周回って腹が立つぞ……。
――などと、どうしてそんなことを俺が考えているのかと言えば……今がまさに、そんな状況だからなのである。
俺はいま空中にいて、鋭意落下中。
その落下予測地点では腰まで届くほど長い銀髪の美少女が、アワアワと口元を波立たせて俺を見上げていた。
彼女は空色の瞳を驚きで見開いている。
対して俺も目を見開いている。
家でラーメンを食っていたら、急に空中だ。驚きを通り越して、これは夢じゃないかとの疑いも生じている。
確認しよう。
ここには、どんぶりが無い。手に持っていた箸もだ。
ということは、もしかしたら食べながら寝てしまったのかもしれない。
……ならば夢だ。
だが、夢にしては臨場感がある。落下しつつ感じる風は、まさに本物だ。
だとするならば、これが転生である可能性もある。
例えばラーメンを前に寝てしまった俺が、どんぶりに顔をつっこみ窒息死した。
そのようなことで死んだ俺を哀れんだ女神が、もう一度チャンスを――とか。
まあ、女神になんて会っていないが……。
ともあれ、落ちながらでも場所くらいは確認できる。俺は左右を見渡した。
どうやら、ここは大きなホールのようだ。
壁際には円柱が並び、その先に破れたワインレッドのカーテンが掛けられている。
カーテンの先から入る日の光からして、時刻は夕方だろうか。赤い陽光を隠す円柱が、長い影を伸ばしていた。
だが、平和な場所では無いらしい。いたる所に破壊の跡があり、濛々と白煙を上げ続けているところから、剣呑な戦場であることが予想できた。
……ううん。
戦場と美少女は、まさに夢の定番。男のロマンと言っても過言ではない。
それに今は、一秒がやけに長く感じる。落下中だというのに方々を見る余裕があるし、考えることも出来るのだから。
やはりこれは夢なのだろう――そう結論付けて、俺は美少女を観察してみることにした。
彼女は少し変わった服を着ている。
濃紺色の生地で、前面に金色の八つボタン。ズボンも濃紺色で……なんというか軍服みたいな感じだ。左腕には銀の手甲を嵌めて、右手には短い杖を持っている。杖は、オーケストラの指揮者が持つ杖が近いだろうか。
可愛いなぁ――なんて思ったら、思わずニチャアっとした笑みが零れた。
「ちょっと、何やってんのよ! アンタ、わたしが呼んだ暗黒騎士でしょ!? 呑気に落ちてこないで! よ、避けなさいよッ! 避けてッ! ああっ! ぶつかるじゃな――……」
……と、その美少女が叫んだ。どうやら俺に向かって言っているらしい。
しかしそんなことを言われても俺は重力に従い自由落下している最中であり、体勢はともかく軌道なんて変えられる訳も無く、当然避けることも不可能なわけで……。
――――ドン。
俺は美少女の上に落ちた。
落ちた俺は柔らかくて甘い香りのする彼女と、くんずほぐれつ縺れ合い盛大に転がった……。
まあ夢だし、この位は勘弁しろよ――と思いながら。
はじめまして!
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