第八話【異世界資源の換金方法】
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多くの人に読んでいただき、幸せいっぱいです。
コンビニに寄った帰り、俺はもう一つ調べておきたいことがあったので、数少ない友人に電話をした。
「――おう、マモルか。どうした?」
電話をかけたのは友人のタカシで、中学のときからの腐れ縁だ。
今でも、たまに飲みに行く程度には仲が良い。
「今からそっちの店のほうに顔を出してもいいか? もし忙しいなら別の日にするけど」
「店に来るのか? まあ、別に忙しいわけでもないから、今からでも大丈夫だぞ」
そんな言葉が返ってきたため、俺はさっそくタカシの店へとクルマを走らせた。
店というのは、いわゆる昔ながらの質屋というやつである。
最近は新興のリサイクル屋が激増し、さらには便利なフリマアプリが爆発的に広まったことで、業界としては苦しい時代になったと嘆いていたが、代々引き継がれてきた店を潰したくなかったらしく、必死で頑張っているそうな。
「――悪いな。いきなり」
「いいよ。どうせ暇だからな。それより、わざわざ店に来たってことは、何か見てほしいものがあるってことだろ?」
単刀直入でやりやすい。
俺はさっそく異世界の金貨を一枚取り出して、鑑定をお願いすることにした。
「これは……見たことのない意匠のコインだな。材質は……金か?」
タカシもその金貨に興味を持ったようで、本棚から分厚いコイン名鑑を引っ張り出した。
「載ってない、か。彫りが甘い部分があるから、年代物のコインだとは思うんだが……ちょっと調べてみてもいいか?」
そう言って、タカシは店の奥のほうでなにやらゴソゴソと作業をし始めた。
今やっているのは比重検査というらしく、これで比較的簡単に材質の検査ができるらしい。
「まあ、金と比重がほぼ同じのタングステンなんかもあるから、信用しすぎるのは危険だけどな。なるほど……これはたぶん金と銀の合金だ。金の含有量は……八割ってところか。けっこう純度が高い。もし売るつもりなら、八万円で買い取るぞ」
八万、か。
この金貨は一枚十万ゴールドなので、日本円に換金すると目減りしてしまうことになる。
「もうちょっと高価買取できないか?」
「馬鹿言うな。これで精一杯だ」
金貨の重さを測定したタカシは、商売人の顔でそんなことを言った。
とにかく、これで異世界で金として認識されている物質が、地球においても金であることが概ね証明されたことになる。
換金率はちょっと残念な結果になってしまったが、そもそも別の物質だったとかいう結果でなくて一安心である。
「それで、売ってくれるのか?」
「ん……いや、今日はやめとくよ。せっかく鑑定してくれたのに、悪いな」
異世界の金貨を換金できるのは朗報だが、日本円の貯金はいくらかあるし、焦って換金する必要はないだろう。
「いいよ。どうにも退屈な毎日だからな。こういった珍しいものを持ち込んでくれると、いい刺激になる」
「店……そんなに客が来ないのか?」
「まあ、最近はわざわざ質屋に品物を持ち込む人が少なくなってるし、便利なフリマアプリなんかも増えてるからな。それより、マモルは大丈夫なのか? この前飲みに行ったときなんかは、ずいぶん仕事がしんどそうな印象だったが」
「ああ……実は――」
タカシは、俺が気を許せる数少ない友人だ。
俺が会社をクビになったことを、そこまでの経緯も含めて話すと、まるで自分のことのように怒り出した。
「はぁ!? なんだそのクソ上司は。そんな会社さっさと辞めて正解だぞ。なんなら訴えてもいいぐらいだ!」
「いや、まあ、もう会社のことはどうでもいいんだ」
「……そうか。その、体は大丈夫なのか?」
ううっ、久しぶりに純粋な優しさに触れたせいか、ちょっと泣きそうになってきた。
「ああ、もう大丈夫だ。心配してくれてありがとな」
「無理はするなよ。ところで、さっきのコインはどこで手に入れたんだ?」
異世界で流通している金貨だ……とは言えないか。
好奇心の強いタカシのことだ。異世界なんてものが本当にあるのなら、一緒に連れていけと言いだしかねない。
別に、秘密を守るというのなら教えてもかまわない気もするが。
……そういえば、あの扉は俺以外も普通に出入りできるのだろうか?
「遠くにある国の通貨……かな。また珍しいものを手に入れたら持ってくるよ。そのときは良い値で買い取ってくれ」
まあ教えるにしても、俺自身がもうちょっと異世界に慣れてからでいいだろう。
ひとまずタカシに別れを告げて、俺はおじいちゃんの家へと戻ることにした。
コンビニで購入しておいたチキン南蛮弁当二つと、お茶。
タルタルソースがたっぷりの南蛮に、ご飯の部分はチャーハンというカロリー爆発しそうなボリュームの弁当だが、俺はこれが好きなのだ。
ミルカも気に入ってくれるといいのだが。
「――あ、お帰りなさいませ。マモル様」
扉をくぐり、無事に異世界へと到着した俺を、ミルカは丁寧に出迎えてくれた。
おおう……ちょっと見ない間に、家の中がずいぶんと綺麗になっているではないか。
床にはホコリ一つなく、窓もピカピカに磨かれている。
壁に取り付けられている石が照明のように明るく室内を照らしているため、外はもう真っ暗のようだが、家の中は温かい光に包まれていた。
ミルカが褒めて欲しそうに耳をピコピコさせていたので、頭をわしわしと撫でてあげると、
「えへへ……」
と照れるようにして笑う。
なにこれ可愛い。
「マモル様、もしやそれが調達してくださった食料ですか?」
「ああ、そうだ。ミルカの口に合うといいんだが」
「ですが、マモル様は一度も扉から出てこなかったはずでは……いえ、それは無用な詮索というものですね。ありがたくいただきます」
そう言ってミルカは、ほんのりと温かいチキン南蛮弁当を受け取った。
見慣れない容器に戸惑いつつも、弁当の蓋を開けると甘酸っぱいタレの匂いがふわりと漂ってくる。
この匂いは、空腹の人間にとっては暴力だ。
甘酢ダレとタルタルソースが合わさっている部分を、パリッと揚げられているチキンと一緒に頬張るまさに至福の瞬間。
「ん~~~!! こんなの今まで食べたことありません。すごくおいしいです!」
尻尾を膨らますことで驚きを表現したミルカは、チキン南蛮をむしゃむしゃと勢いよく食べ進めていく。
はっはっは。そうだろうそうだろう。
チャーハンもしっかりした味付けだから、チキン南蛮と一緒に食べても負けない存在感を醸し出しているぞ。
昼間に食べた屋台の焼きそばも美味かったが、これもまた美味し。
ここまで喜んでくれると、買った甲斐があったというものだ。
がふがふとチキン南蛮弁当を堪能した後は、ぐっすりと寝るだけだ。
「あ、お休みになるのなら、あちらの部屋にベッドが一つありましたのでお使いください」
……なるほど。寝室と思われる部屋も綺麗に掃除されている。
しかし、ベッドは一つだけか。
「ミルカはどこで寝るつもりなんだ?」
「わたしは、床で寝させていただければ十分です」
いや、さすがにそれはよくないだろう。
「いえ、迷宮内で野宿したときと比べると天国ですよ」
「駄目だ。それだと俺が気になって安眠できない。ちょっと待ってろ」
俺は急いで日本へと戻り、おじいちゃんの家から客用布団一式を運んできた。
「うわぁ! これ、すごく柔らかくてふかふかですね。本当に、こんな高級そうな寝具を使ってよろしいのですか?」
「ああ、気にしなくていい」
羽毛布団に感激しているミルカを見て心を和ませつつ、俺もベッドの中に入った。
今日は色々とあって疲れていたようで、目を瞑ると一気に眠気が襲ってくる。
そのまま朝まで眠ってしまうかと思いきや――ふと夜中に目が覚めた。
……ん?
気のせいか、ミルカが布団の中で動いた気がする。
「……まだ、起きてるのか?」
「す、すみません。起こしてしまいましたか? 今日は色々とありすぎて、なんだか目が冴えてしまって……」
無理もない。
奴隷から解放され、今まで自分を苦しめてきた呪われたスキルもなくなったのだから。
「あの……マモル様。一つだけお願いがあるのですが」
「なんだ?」
「手を……握っていてもらえないでしょうか? あ、いえ、やっぱり大丈夫です! あ、はは……わたし、何を言ってるんでしょうね」
「いや、無理に強がる必要はないと思うぞ。色々あって大変だったろう。俺も……少しはミルカの気持ちがわかる気がするよ。もう大丈夫だから――安心して眠るといい」
俺はミルカの手を握り、そんな言葉をかけた。
実を言うとかなり眠たいのだが、もうちょっとだけ眠らずに起きていようと思う。
少女の手から力が抜ける――その瞬間までは。
次回投稿は明日の朝を予定しております。