第七話【ミルカ魔改造・初級編】
水曜日の朝と言っていましたが、10000PV記念で頑張ってみました^^
どうぞお楽しみください。
「――それでは、マモル様は自分のお祖母様を探しておられるのですね」
ミルカと行動をともにすることになったので、とりあえず今後の方針を決めるためにも、俺の事情を簡単に説明しておいた。
別世界から来たことは伏せたが、おじいちゃんが昔に迷宮探索をしていたこと、おばあちゃんが生きているのなら会ってみたいこと、などなどだ。
「お祖父様のお名前は、なんというのですか?」
「タツオだけど」
「タツオ様……ですか。その、有名な迷宮探索者なら調べやすいかと思ったのですが……すみません」
どうやら、ミルカが持っている情報の中には該当者がいなかったらしい。
「いやいや、そんな顔をすることないって。おじいちゃんが現役だったのは数十年前の話だろうし、そこまで有名じゃなかったかもしれないから」
やはり、そう簡単には事は運ばないか。
まあ、焦らずのんびり行こう。
しばらくはヴァレンハイムを拠点にして動くとしても、そのうち迷宮がある街に行ってみるのもいいかもしれない。
「さて……それはともかく、ミルカには俺の護衛役を務めてもらうわけだから、できることは全部やっておきたい。後になってやっておけばよかったと後悔しても遅いからな」
「は、はい!」
「よし、まずはミルカが得意としている武器を教えてもらおうか。それから魔物との戦闘における立ち回りについて――」
ふむふむ……ミルカが得意としているのは短剣を使った近接戦闘、といった感じだな。
小柄な体躯で大型剣を振り回すような戦い方ができるわけもないし、スピードで相手を翻弄する戦闘スタイルなわけだ。
ミルカが所持していたスキルは災厄の種のみで、他には何もスキルを所持していなかった。
ということは、迷宮で魔物と戦えるまでの腕を身につけたのは、ひとえに彼女の努力の賜物ということになる。
「言っておくが、俺の修行は厳しいぞ」
「わたし、何でもやります! 何でも言ってください!」
……ごめんなさい。今のは一度言ってみたかっただけです。
俺はスキル売買を発動させて、ミルカに適しているであろうスキルをいくつか選ぶ。
これとこれ……うーん、これもいいけど、ちょっと高くて手が出ないなぁ。
お、これはお手頃価格で役立ちそうだぞ。
傍から見ればブツブツと独り言を言っている変な人だが、ミルカは熱い眼差しを俺に向けたまま待ってくれている。
選択したスキルを購入すると、売買画面に表示されていた残高が減り、俺の手には実体化したスキルの書が握られていた。
「はい、これ読んでみて」
「わかりました! って……えええええ!? これスキルの書じゃないですか!?」
ポンと手渡したスキルの書を見ると、彼女のつぶらな瞳がさらに大きくなった。
「いや、今さらそんな驚かなくても。俺が特殊なスキルを持っているのは説明したろう。スキルを売るだけじゃなくて、買うこともできるんだよ」
「だ、だからって、こんな貴重なもの……」
「何でもやるって言ったよね?」
「はぅ」
ちなみに、手渡したスキルの書の内訳については、
剣術――十万ゴールド。
反射神経強化(小)――五十万ゴールド。
自然治癒力強化(小)――百万ゴールド。
である。
役立ちそうなスキルをチョイスしてみたのだが、気に入っていただけただろうか。
「よ、読んじゃいました……」
これでスキルを三つ習得したミルカだが、これからも色々とスキルを習得していってもらうつもりだ。
俺だって魔物と戦うかもしれないが、まずは戦闘経験がある仲間から鍛えていくのは方針として間違っていないと思う。
「次は武器だな。ミルカが使いやすそうな短剣が売っていればいいんだけど」
「武器まで買い揃えてくれるのですか!? い、いざとなれば、わたしは素手でもそれなりに戦えますよ!」
しゅしゅしゅっ、とするどい猫パンチを何発か繰り出すミルカ。
なにこの可愛い生き物。
「いや、それだとせっかく剣術スキルを覚えたのが無駄になっちゃうからね」
ヴァレンハイムの街は、街をまるっと外壁で囲んだ城塞都市のような構造になっており、中央部分は住宅エリアになっているようだ。
壁の近く――街の外縁部分にはたくさんの店があり、さっきお世話になったパパルカさんの店もこの辺りに位置する。
武器や防具を扱っている店もあったので、とりあえず目に入った武具屋さんを覗いてみることにした。
「うーん……」
武器の目利きに自信があるわけではないのだが……素人目に見ても、安価な短剣の出来栄えはよろしくない。ところどころ刃こぼれしているし、グリップの部分も作りがお粗末なのである。
俺が持っているサバイバルナイフやマチェットは、ラバーハンドルのため雨の日でも滑らずに握り込むことができるし、枝を打ち払っても刃こぼれ一つしていない。
値札に百万ゴールドとか記載されている剣はさすがに立派そうに見えるが、大量生産の安価な武器のクオリティは、地球製品のほうが圧倒的に高品質のように思えた。
「悪いけど、ミルカの武器はもうちょっと待ってくれるか? 俺が使っているような材質のものでよければ、すぐに用意できるはずだから」
武器については、俺と同じようにネットで購入したものをミルカにも使ってもらうことにしよう。
念のため、俺が身につけていたナイフを手渡して感触を確かめてもらう。
「これは……持ち手の部分が特殊な材質ですね。普通は革紐なんかを巻きつけて滑らないようにしておきますが、すごく手に馴染む感じがします。刃の部分もしっかりした厚みがありますから、少々刃こぼれしても研げば新品同様になるかと」
ミルカからは、そんな頼もしいコメントをいただいた。
「よし、それじゃあ俺はちょっと出かけてくるよ。二日ぐらいで戻ってくるだろうから、この街でのんびりしておいてくれ」
ミルカには滞在費を渡し、俺は一人で日本へ戻るつもりだったのだが……。
「街の外へと行かれるんですか? でしたら、護衛であるわたしも一緒に行ったほうが良いと思うのですが」
そう言われると、たしかにその通りだ。
別世界まで一緒についてきてもらうわけにはいかないが、あの森の中に魔物が生息していないとも限らない。
日が暮れる前にはたどり着けると思うが、実を言うとちょっと心細かったのだ。
「……わかった。それじゃあ、さっそく出発することにしよう」
――行きは途中からパパルカさんの馬車に乗せてもらったが、徒歩でも二時間ほどで森の中の洋館にたどり着くことができた。
とはいえ、不整地な道を二時間も歩くと足がクタクタになったので、今日はもう歩きたくない。
「ここはマモル様の家なのですか?」
「いや、おじいちゃんが所有していた家……になるのかな?」
少なくとも一年以上は空き家になっていたわけなので、家の中はちょっと埃っぽい。
「じゃあ、行ってくる……じゃなくて、俺はあの扉の向こうでやることがあるから、ミルカはこの家でのんびりしといてくれ。一応鍵はかかってるけど、俺が戻ってくるまでは絶対に扉を開けないこと。これは約束な」
「はい、わかりました。待っている間、家の中を掃除させてもらってもよろしいですか?」
「ああ、そうしてくれると嬉しい。晩飯は調達してくるから、ここで一緒に食べよう」
「調達って……もしかして森の中で獣を狩ってくるということですか? 夜の森は暗くなりますから、危ないですよ」
「いや、まあ、危ない真似をするつもりはないよ。とにかく持ってくるから、深く考えないでいい」
俺はミルカに別れを告げてから、異世界から日本へと戻った。
「――ふぅ。やっぱり日本に帰ってくるとホッとするなぁ」
日本にあるおじいちゃんの家。
畳がある和室にごろりと転がり、スマホを操作してミルカが使用するナイフをさっそく選ぶことにした。
異世界では当然圏外なので、置いてけぼりになっていたスマホは軽快に商品を検索してくれる。
……これが良さそうだな。
刃渡りは三十センチほど。弧を描くような独特の形状をしているナイフは、ククリナイフと呼ばれているものだ。
刃の厚さも五ミリと分厚く、武器屋に置いてあった粗悪な短剣よりもずっと長持ちするだろう。ミルカは短剣を両手に持って戦うらしいので、ククリナイフを二本まとめてカートに放り込み、注文を確定しておいた。
……よし、これで明日には荷物が届くはずだ。
日本の運送会社は、空間収納みたいな便利なスキルがあるわけでもないというのに、本当にすごいよね。
「――さて、お次はあれを試してみますか」
ネットショッピングを終えた俺は、クルマで最寄りのコンビニへと向かった。
大型コピー機の前で鞄の中から取り出したのは、言わずもがな――スキルの書。
ミルカに渡したものとは別に、もう一つ購入しておいた剣術のスキル書である。
比較的安価なため、今から行う実験が失敗しても大した痛手にはならない。
まぶしいハロゲンライトの光とともに、スキルの書の内容は寸分違わず複写され、紙排出口からウィンウィンと一枚の紙が出てきた。
さて……結果はいかに?
俺は少しだけ期待を込めてコピーされたスキルの書を読んでみた――が、特に何の変化も起こらない。
うーん……さすがに無理かぁ。
もしスキルの書を複製することができたなら、大儲け間違いなしだったのに……世の中そう甘くはないらしい。
オリジナルの剣術スキルの書は、俺が読んでおくことにしよう。
剣を振り回して喜ぶような時期は卒業したと思うが、必要ならば致し方あるまい。
次回投稿は明日の朝を予定しています。
ドキドキ。