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第六話【神殿へ行ってみよう】

投稿しました~

5000PV達成^^

多くの人に読んでいただけて幸せです。皆様に感謝を。

「――お、おいミルカ。大丈夫か?」


 奴隷から解放された喜びで昇天してしまったのか、口から魂が抜け出たかのような顔をしているミルカの肩を揺すってやると、数秒後にようやく再起動してくれたようだ。


「……はっ。す、すみません。マモル様の突然の行動に少し驚いてしまって」


 びりびりに破いた奴隷証文をじっと見つめているミルカ。

 うんうん、やっぱりこんなもので人間を奴隷として縛るなんて駄目だよな。


「その……よかったら、その破った証文をわたしにいただけませんか?」


 もちろん構わない。

 記念にとっておくにしては物騒な代物だが、ミルカが欲しいというのなら断る理由もないからな。


「というか、もう俺の奴隷じゃないんだから、マモル『様』とか言わなくていいよ。呼び捨てにしてくれてもいいんだけど」

「いえ! わたしにとってマモル様はマモル様ですから」


 そこだけは譲れないというミルカに、無理やり呼び方を変えさせるわけにもいかず、そのまま呼びやすいように呼んでくれと言っておいた。




「――毎度あり! ぜひまた店のほうに寄ってくれ。マモルならいつでも歓迎だよ」


 パパルカさんは元気な声で俺たちを送り出してくれた。

 ミルカの服をまとめて購入したことで上機嫌になり、おまけとして彼女の頭に飾る小さなリボンまでつけてくれるというサービスぶりだ。


「とりあえず、ミルカが所持していた災厄の種が本当に消えているかを確かめることにしようか。神殿に行けばわかると言ってたけど、ミルカはこの街の地理は詳しい?」

「ヴァレンハイムは比較的大きな街ですし、わたしも一人で旅をしていた頃に何度か訪れたことがあります。神殿の場所ならわかりますから、ご案内しますね」


 そう言って、ミルカが張り切って歩き出そうとしたところで、


 グゥゥゥゥッ――。


 と、周りに聞こえるほど大きな腹の虫の音が響いた。

 いや、俺ではないよ?


「は、はわわわ……」


 ミルカが顔を真っ赤にしながら俯いているので、俺は何も聞こえなかったふうを装いながら、大通りに屋台を出している飲食店へと視線を向ける。


「そういえば腹が減ったな。神殿へ行く前に腹ごしらえでもしておかないか?」

「は、はい! マモル様のお言葉に甘えさせていただきます」


 うんうん、食欲が出てきたのは良いことだと思う。きっと奴隷のときには腹が減っても食べる気力が湧いてこなかったことだろう。

 疲れているときはそういうもんだ。


 ミルカの頭をぽんぽんと優しく叩きながら、俺はいくつかの屋台を観察する。

 気になったのは、鉄板の上で調理をしている屋台だ。

 何かの肉と野菜、そしておそらくは小麦の麺を炒めている様子は、日本で言うところの焼きそばのようだった。


「へいらっしぇ! 焼きそば一人前三百ゴールドだよ。うまいよ!」


 翻訳スキル頑張りすぎだろ。

 俺が焼きそばのようなものと認識したから、きちんと翻訳してくれたということか?

 興味があったので、異世界焼きそばを二人前頼んでミルカと一緒にずるずると勢いよく吸い込んだ。


 あ……おいしい。

 さすがにソース味ではないけど、肉と野菜の出汁が麺とからまっていて、ちょうどいい塩味が食欲をそそる仕上がりとなっている。


 異世界メシ、うまいじゃないか。

 予想外においしかったので、二人ともお代わりをしてしまったのは内緒だ。


「ふ~、食った食った。満腹だ」

「マモル様ありがとうございます。とてもおいしかったです。ヴァレンハイムの焼きそばは名物にもなっていて、けっこう有名なんですよ」

「へぇ、そうなんだ。いつ頃からあるんだろうね」

「たしか……数十年前ぐらいに流行りだしてから、急速に広がったと聞きました。誰が開発したのかまではわかりませんが」


 数十年前――焼きそば――異世界へとつながる扉に近い街――。


 ……もしかして、焼きそばを流行らせたのはおじいちゃんかな?

 可能性としてはわりと高そうな気もするが、もしそうだったら、こうしておじいちゃんの足跡に触れるのはちょっと面白いかも。


「……マモル様、どうしました?」

「いや、なんでもないよ。そろそろ神殿へ行こうか」


 腹ごしらえを終えた俺たちは、ヴァレンハイムにある神殿を目指してふたたび歩き出した。


 この世界では、スキルは天からの授かりものという認識らしく、多くの人が子供の頃に自分が所持しているスキルを調べに来ることになる。

 そうして神殿に寄付される額は相当なもののようで、到着した神殿は、とても巨大で荘厳な建造物だった。


 地球だと間違いなく世界遺産に登録されているであろう様相の神殿は、多くの人に開放されているため、人の往来はけっこうある。

 だが、ミルカは神殿に入るのを少し躊躇っている様子だった。


「どうしたの?」

「いえ……昔、わたしも神殿でスキルを調べたときに災厄の種を所持していることが判明したので、ちょっと体が震えると言いますか……」


 ……なるほど。

 どんなスキルを所持しているか期待を込めて来てみれば、判明したのがアレだ。

 トラウマになっても仕方ない。


「……大丈夫。さっき食べた焼きそばも、ミルカが今着ている服も、スキルを売却したお金で買ったんだからな。ミルカを苦しめていたスキルは……もう存在しない」

「……はい。本当に、ありがとうございます」


 俺がそう言うと、ミルカは決心したように神殿に続く階段へと一歩を踏み出した。

 神殿には多くの僧侶服に身を包んだ神官の姿があり、俺が辺りをきょろきょろと見回していると、すぐさま声をかけてくれた。


「本日はどのようなご用件でしょう?」


 スキルの確認をしたいと伝えると、さっそく別室へと案内されることに。

 寄付金を手渡し、案内された小部屋の中央には、半透明の水晶板のような物体が置かれていた。


「……ここに手を置くと、その人が所持しているスキルが表示されるんです」

「なるほど……じゃあ、決心がついたら調べてみようか」

「いえ、大丈夫です」


 トラウマが邪魔をするかと思ったのだが、意外にもミルカはすぐさま水晶板の上に手を置いた。

 ――しばし時間が経過しても、水晶板に何かが浮かんでくるということはない。


「ほ、本当に消えてる……マモル様、本当に災厄の種が失くなっています!」


 心の底では、やはりまだ不安だったのだろう。

 スキルの消失が確定したことで、ミルカは本当の意味で解放されたわけだ。

 自暴自棄になっていた少女の姿は、もはやどこにもない。


 喜びを噛み締めているミルカの横で、俺も試しに水晶板に手をかざしてみた。

 すると、【スキル売買】【翻訳】という文字が浮かび上がってきて、水晶板に表示されたではないか。

 ふむ……この世界の人はこうやって自分のスキルを確認することになるのか。


「なあミルカ、この世界ではこれ以外にスキルを確認する方法はないのか?」

「えっと、鑑定スキルを所持している人なら、自分や他人のスキルを確認できるみたいです。貴重なスキルなので、所持している人はほとんどいませんが」


 なるほど。スキル売買で検索するにしても、調べる手がかり的な情報があるというだけでもすごくやりやすいな。


 【鑑定】――アイテムの鑑定や、所持スキルを確認することができる。


 【鑑定妨害】――他者からの鑑定を妨害する。


 お値段のほうは、どちらも一千万ゴールド。

 貴重なスキルということだが、どちらも在庫はある。

 ……ぜひとも欲しいところだが、圧倒的にお金が足りないな。


 神殿を後にした俺たちは、とりあえず今後の方針を決めることにした。


「――それで、ミルカはどうするんだ?」

「え、何がですか?」

「災厄の種が消えていることも確認できたし、もう俺の奴隷というわけでもないんだ。一緒に行動する理由はないだろう。ここで別れるというのなら、スキルを売却した残金を渡すつもりだけど」


「……マモル様は、わたしが一緒にいると迷惑、ということでしょうか?」

「いや? 正直俺はこの世界……じゃなくて、この辺りの土地に詳しくないから、ミルカがいると色々と助かる。魔物との戦闘経験もないし、迷宮で魔物を相手にしていたミルカが護衛をしてくれたりすると、本当はすごくありがたい」


「そ、それなら、わたしもマモル様と一緒に行かせてください! 魔物が襲いかかってこようとも、わたしが命を懸けてお守りします!」

「えっと……本当にいいの?」

「はい! マモル様はわたしを絶望から救い出してくれた、命の恩人ですから」


 パァッと表情を明るくしたミルカは、ごそごそと胸ポケットから何かを取り出した。

 それは、さっき俺が破いてみせた奴隷証文の紙切れだった。


「それに、わたしはまだ気持ち的にマモル様の奴隷なんです!」


 ふんす! と鼻息を荒くしたミルカは、歪に修復された証文を掲げてそんな宣言をしたのだった。


 ええええええええっ!?

 それ、いつの間につなぎ合わせたのぉぉ!?

次の投稿は水曜日の朝になる予定です^^

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