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第五話【スキル売買】

投稿しました^^

「……え、どういうこと、ですか?」


 こいつ何言ってんだ? という感情を隠せていないミルカは、心配そうな顔でこちらを見てくる。

 こういった反応をするということは、スキル売買というスキルについては知らないようだ。


「ミルカは、この世界に存在しているスキルについては詳しいほうかな?」

「詳しい……とは言えませんが、自分がこんなスキルを持っていますから、スキルについては色々と調べたことはあります」


 なるほど。重い病気にかかったときなんかは、今まで触ることすらなかった医学書を読んだりするものだもんな。俺も療養中に読んだよ。


 そんなミルカが知らないというのならば、おじいちゃんが手紙に書いていたように、スキル売買はかなりのレアスキルなのだろう。


「少し言い方を変えようか。もし俺がミルカの所持している災厄の種をなんとかできるとすれば、手放してしまっても構わないか?」


 他者が所持しているスキルを売る場合はどうすればよいのか? そんなことを考えていると、すべきことが頭に浮かんできた。


 ①まずは、相手の持っているスキルを知ること。


 ②相手が、該当スキルを俺に譲り渡すという明確な意思を示すこと。


 この二つが、必要な条件のようだ。


「そ、そんなことができるんですか!? それが本当なら、ぜひ! ぜひお願いします! このスキルのせいで、わたしは……っ」


 死人のようだったミルカの瞳に、光が灯る。

 咳き込みそうな勢いで、懇願するように、ミルカは何度も頭を下げた。


「わかった……手を出してくれ」

「は、はい」


 差し出された小さな手は……お世辞にも綺麗とは言えず、ぼろぼろだった。

 怪我をしては治癒しての繰り返しで皮膚は固くなり、傷だらけで、泥まみれで、爪は何枚か剥げ落ちている。

 その手を見ていると、俺はなんだか泣きそうになってしまった。


「す、すみません。汚い手で……」


 ミルカは申し訳なさそうに手を引っ込めようしたが、俺はその手を優しく握りしめた。


「いや、なんというか……頑張ったんだなぁって、そう思っただけだよ」

「ぅ……ひぐっ」


 ミルカが堰を切ったかのように泣き出してしまったため、泣き止むまでしばし待ってから、スキルを発動させた。


 ――【災厄の種】を売却します。

 売却額は五百万ゴールドですが、本当によろしいですか?

 脳内に、意思確認のアナウンスが流れてくる。


 ……え、高っ!?


 検索したときは品切れになっていたから、値段の記載がなかったのだが、こんなに高く売れるとは思っていなかった。

 どういった基準で値段が決まっているのかはわからないが、悪巧みには利用できそうなスキルだったので、どこかに需要はあるのかもしれない。


 アナウンスへの返答は、もちろんイエス。


 握っていたミルカの手から、何やら暖かいものが流れ込んできた感覚があったが、それは数秒ほどでゆっくりと消えていった。


 ――成功、したのかな?


 スキル売買画面を見ると、残高にはたしかに五百万ゴールドと記載されている。

 おおお……いきなり大金をゲットしてしまったぜ。


 いや、焦るな。初めてスキル売買を実行したわけだが、ここでいくつか確認しておきたいことがある。


 まずは、再度【災厄の種】を検索にかけてみた。

 すると、さっきまで品切れだったものが、一千万ゴールドという価格で販売されているではないか。


 はは~ん。そういうことか。

 ある程度レアリティが高いスキルについては、おそらくこの世界に存在できる絶対数のようなものがあるのだろう。

 災厄の種が全部でいくつ存在するのかは知らないが、今この瞬間、ミルカが所持していたものはスキル売買によって売却されたため、自由に購入できる在庫が一つできたことになるわけだ。


 ちなみに、スキルの売却額は購入額の半額っぽい。

 災厄の種が売値の倍額で販売されているので、これもほぼ確定。


「あの……どうなりましたか?」


 不安そうな顔でこちらを窺うミルカに、俺はしたり顔で頷いた。


「うん。ミルカの中にあった災厄の種は消えたと思う。えーと、そういうのって、きちんと確認するにはどうすればいいのかな?」

「ほ、本当ですか!?」


 飛び上がりそうなほど喜びを露わにしたミルカは、さっきまでとは打って変わったような元気な声で答えてくれた。


「多少の寄付金は必要ですけど、神殿に行けば自分が所持しているスキルを調べてくれるんです。あ、でも……わたしは奴隷なので……」


 いやいやいや、さすがにスキルだけ売却して、はいさよなら~……みたいな非道な真似をするつもりはない。


 えーと、この残高表示にある金額を現金化することはできるんだろうか?

 試しに百万ゴールドほど現金化しようと念じたら、どこからともなく俺の両手にじゃらじゃらと金貨が溢れてきたではないか。

 なにこれ、ちょっと快感。

 枚数は全部で十枚。金貨一枚が十万ゴールドということだろう。


「え、え!? こんな大金、どこから……」


 目を丸くして驚いているミルカだが、これが自分を苦しめていたスキルを売り払って得られたお金だと知れば、どんな反応をするだろうか。

 とりあえず現金化した金貨をリュックに詰め込み、俺は扉の外で待っていたバルボスへと声をかけた。


「おや、もうお話は終わったのですか。それで、どうなさります? あの奴隷を購入致しますか?」

「ええ、買わせていただきます」


 俺がそう言うと、バルボスはとびきりの笑顔を浮かべた。

 う~ん……守りたくない、この笑顔。


「左様でございますか。それは良き判断をなさいましたな。あなた様の人徳の高さは世界でも類を見ないほどに貴重かと存じます」


 これはアレかな。

 お前みたいな馬鹿な偽善野郎は世界中探しても見つからんぜ、っていう言葉をオブラートで包んでくれたんだろうね。


「それで、いくらお支払いすればいいんです?」

「そうですな……二百万ゴールドではいかがしょう」

「そんなっ……」


 横にいたミルカが明らかに動揺したので、バルボスは相当ふっかけてきているようだ。

 さきほど何人か奴隷を紹介してくれたとき、身の回りの世話をする奴隷で五十万程度、戦闘にも役立つ丈夫な奴隷ならば数百万ゴールドはすると言っていた。


 ミルカは食い扶持を稼ぐために迷宮に潜っていた経験もあるので、やや割高になるのは理解できるが、所持していたスキルがスキルだけに、仕入れ値はかなり買い叩いたに違いない。

 特別に安くお譲りしましょうとか言っていたくせに、俺が購入すると言った途端に足元を見る根性の太さはさすがだな。


「お手持ちの金額が心許ないのなら、購入を見送るのも一つの手だと思います。たしかに少しばかり厄介なスキルを持った奴隷ですが、なぁに、こういった奴隷を購入する物好きなお客様もいらっしゃいますのでね。まあ、乱暴な方が多いので……すぐに壊れてしまうでしょうが」


 にやっと悪そうな笑みを浮かべるバルボス。

 くっそ~、誰かを殴りたい気持ちになったのは久しぶりだ。


 まあいい……ここは下手に交渉しないほうが得策だ。

 ミルカが所持していたスキルが消失していることが判明すれば、さらに値段を釣り上げてくるかもしれないし、原因を調査されたら面倒なことになる。


「わかりました。二百万ゴールドですね」


 俺はリュックの中へ手をつっこみ、さらに百万ゴールドを現金化して、あたかもリュックから金貨を取り出したように見せかける。


「はい、これで文句はないでしょう」


 じゃらじゃらと金貨を積み上げると、さすがのバルボスも驚きの表情を浮かべた。


「なっ……ほ、本当に購入す……いえ、お買い上げ誠にありがとうございます。ぜ、ぜひまた機会がありましたら、当店で奴隷をお買い求めくださいませ」


 いや、買わねーよ!

 と言いたい気分になったが、俺は大人しくミルカの購入手続きを済ませた。

 奴隷証文という文書を作成してもらい、それがある限り、ミルカは俺の奴隷として働かねばいけないらしい。


 手続きを終えてバルボスの店を出ると、ミルカは俺に向かって深々と頭を下げた。


「あの、ありがとうございました。これからはマモル様をご主人様として、誠心誠意お仕えさせていただきます」


 うん……往来の真ん中で、奴隷商館のすぐ傍で、買ったばかりの奴隷にそんなことを言わせている俺は、周りからどんな目で見られているんだろうか。

 助けを求めて視線を彷徨わせていると、遠くに癒やし系の蜥蜴人であるパパルカさんの姿が見えた。


 パパルカさんの店へと逃げ込んだ俺は、さっそく事情を聞かれることになりましたとさ。




「――そうかぁ。いやはや、マモルが奴隷をポンッと買えてしまうほどのお金持ちだったとは思わなかったな」

「はあ、まあ……つい勢いで」


 本当は他にも理由はある。迷宮探索をしていた経験があるのなら、おばあちゃんを探すにあたって、何かしら役立つ情報を持っていそうだったとかね。


「そうだ。パパルカさん、その子に似合うような服を見繕ってくれませんか? この店って服も色々と扱っているみたいですし」


 ミルカが着ている服は、ボロ布のような粗末なものだ。

 さすがにこれで通りを歩くのは可哀想である。


「もちろん、任せといてくれ」


 パパルカさんは自信ありげに服を選んでいき、それらの服に着替えたミルカは、さっきまでと見違えるほどに可愛い少女へと変貌していた。


 下半身は動きやすそうな革のブーツに、黒のスパッツとミニスカート、上半身は一部に刺繍が施された革のチュニックといった装いだ。

 シンプルだが、とても似合っていると思う。


「ど、どうですか?」


 ちょっと恥ずかしそうにしている姿は、そういった趣味を持つ男性が犯罪への一歩を踏み出すには十分だろう。


「でも、いいんですか? あんな大金でわたしを買ってくださったのに、服まで用意してもらうなんて……」


 ミルカが申し訳なさそうにしていたため、俺はあらためて事情を説明するため、パパルカさんに話が聞こえないよう店の隅へと移動した。


 俺が少し特殊なスキルを所持していること。

 ミルカから取り除いた災厄の種は売り払ってしまったこと。

 奴隷商人に渡したお金は、スキルを売却して得た利益で十分に賄えたこと。


 などなどを話す。


「つまりミルカは、今まで自分を苦しめていたスキルを売り払って、自分を買い直すことができたわけで、俺の奴隷になる必要はないんだよ」

「い、いえ、でも……」


 そう言って、俺は懐から奴隷証文を取り出し、ミルカの目の前でびりびりと破いてみせた。

 なんなら、残りのお金を全部彼女に渡したっていい。

 もともと、彼女が所持していたスキルを売り払っただけなのだから。

 スキルの呪縛から解放された今、気持ちよく再出発するにはまとまった金が必要だろう。


 俺は、そんなふうに考えていた。

 てっきり、ミルカも喜ぶだろうと思っていたのだが……。


 彼女は喜びの表情ではなく、またもや死んだ魚のような目をしているではないか。



 ――あれ?

次回の投稿は明日の朝を予定しています。

投稿頻度を毎日は維持できないと思いますので、

週二回程度になるかとm(^^)m

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