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第七話【早くなんとかしないと】

投稿します!

お楽しみください。

「――いいか! 俺の名前はフィリップ・ハイランド。ハイランド王国王位継承権を持つ王子である!」


 どやぁ……とでも顔に書いてやりたくなる表情で、少年――もとい王子様は名乗りを上げた。


「はっはっは! どうした? 驚きのあまり声も出ないのか」


 あ……うん。ですよね。

 そうじゃないかと思ってました。はい。


 ギリアムさんによれば、ハイランド王の後継ぎとされている息子は、すこぶる評判が悪いという話だった。

 なるほどなぁ……。

 迷宮で魔物が大量発生している原因である本人が、迷宮内で魔物にやられそうになっていたとは、なんとも因果を感じる話である。


「しかし、なんでまたフィリップ王子は独りで迷宮なんかにいたんだ?」


 噂の王子様だというのなら、迷宮探索なんかに来ている場合ではなく、体調を崩している父親を助けるために政務に励むとか、他にもっとやるべきことがあるだろうに。


「ど、動じないやつだな……。普通はもっとこう、接していた相手が王子とわかったら驚くものではないのか?」


 うーむ。

 俺だって、驚きと敬意をもって接したいとは思うんだが……いかんせん出会いがアレだったからな。


「……いや、かなり驚いてるよ。なんなら言葉遣いもあらためようか?」


 俺たちは別にハイランド王国の民というわけではないが、相手が王族だと言うのなら、それなりの対応をするのもやぶさかではない。


「そうかそうか。だが、俺はお忍びでここに来ているんでな。言葉遣いをあらためる必要はないぞ」


 ……お忍びで来ているのに、自分から名乗っちゃったよ、この王子様。

 まあ、危機に瀕している状況から救ったことで、ある程度はこちらを信頼してくれているのかもしれない。


「わかった。それじゃあ、話し方は今まで通りで大丈夫だな。名前はフィリップと呼んでもいいのか?」


 お忍びだというのなら、王子とは呼ばないほうがいいだろう。


「ああ、好きに呼べばいい。どうしてもと言うのなら、フィルという愛称で呼ぶことも許そう」


「……それで、フィリップは魔物と戦うこともできないのに、なんでまた独りで迷宮なんかに潜ったりしたんだ?」

「いや、最初から独りだったわけじゃないぞ。きちんと迷宮探索を生業にしているパーティを金で雇い、案内するよう申し付けたんだが……」


 まさか、金を払ったのに迷宮内に置いてけぼりにされたのか?

 もしそれが本当なら、ひどい話である。

 ヴァサゴさんに報告したほうがいいかもしれない。


「俺があれやこれやと注文をつける度に、無茶な我儘を言うなと説教するものだから、つい頭にきてしまってな。契約解消を突きつけたら、本当に置いてけぼりにされたのだ」


 あ~……なるほど。

 無償で助けてあげた俺たちにすら、この態度なのだ。

 雇われた人たちが、どれだけ我儘を言われたのかは想像に難くない。


「……それで、あんな危機的状況に陥ってたってわけか」

「まったく! もうちょっとで本当に命を落とすところだった。無事に外へ出られたら、あいつらには文句を言ってやる」


「……多少の金額を受け取ったからといって、守るほうは命懸けなんですから、基本的に言われたことに大人しく従うのが鉄則です。無茶なことを言った挙げ句、契約解消と口にしたのなら、その後にどうなろうとあちらに非はありません。悪いのはあなたです」

「う、ぐ……」


 ミルカの言葉に言い返すことのできないフィリップは、怒られた子供のようにふくれっ面を見せている。

 年齢は同じくらいかもしれないが、積んできた人生経験が段違いなのだろう。

 まるで大人に叱られている子供のようだ。


「うん、まあ、フィリップも大変な目に遭ったわけだし、今回のことは忘れてしまったほうがいいんじゃないかな。ほら、これでも食べてさ」


 俺は、空間収納から果物の缶詰を取り出した。

 これは取っておきの桃の缶詰であり、厳選された高品質の桃をシロップ漬けにしてある逸品である。

 甘いものを食べれば、殺伐とした迷宮内でも少しは心が安らぐことだろう。


「今度は桃が出てきたか。その金属の容器は食品を保存しておく入れ物なのだな。乾燥させた果物は日持ちするというが……これはずいぶんと瑞々しい」


 異世界でも、果物を乾燥させたドライフルーツは普通に売られている。

 かなり日持ちはするし、迷宮探索に持参するのも悪くないデザートだが、やはり缶詰に入っている瑞々しい果物には到底かなわない。

 女性がいる迷宮探索のパーティなんかは、こういった果物の缶詰を特に気に入っているようで、大量購入していってくれるのだ。


 シロップ漬けの白桃にむしゃりとかぶりつくと、フィリップは驚いたように目を丸くさせた。


「驚いたな……迷宮探索をする者たちは、いつもこのような美味い食料を携帯しているのか?」

「いや、この缶詰という携帯食料が販売され始めたのは最近だ。それまでの食糧事情はけっして恵まれたものじゃなかったと思う。気に入ったのなら、ギルドで販売されているから購入してみるといいよ」


 ……俺がギルドに缶詰を卸していることは、ここでわざわざ言う必要はないだろう。


「ところで、もう一つフィリップに聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

「ああ、かまわないぞ」


 桃の缶詰のシロップまで全部飲み干したフィリップは、上機嫌でそう言った。


「お忍びで来たって言ってたけど、いったい何の目的があって迷宮都市アイリスに?」


 自分の父親――ハイランド国王が病に伏せっているのなら、息子であるフィリップは迷宮なんかで油を売っている場合ではないだろう。

 他にやるべきことがたくさんあるだろうに。

 俺がそんな質問をすると、フィリップは少し間をおいてから話し始めた。


「そうだな……お前たちは、ハイランド王国の現状をどこまで知っている?」


 現状――といわれても、俺が知っているのはギリアムさんに教えてもらった知識程度である。

 王様が病に伏せっていて、皆が不安に思っているだとか。

 後継ぎである王子が遊び呆けている馬鹿息子であり、さらに国民の不安を煽っているとかだ。


 ……いや、さすがに本人を目の前にして、フィリップのことを馬鹿王子と言うつもりはないけどね。


「ふん、そこまで知っているのなら話は早いな。父上が病に倒れ、国民や家臣たちは不安に思っているようだが、そんなのは俺の知ったことじゃない」


 それは……後継ぎである王子が口にしたら駄目なんじゃないか?


「父上が有能な王だったということは、皆が知っていることだ。魔石工学の技術向上に大きく貢献し、国をより豊かに繁栄させた名君だとな」


 魔石を有効利用したいという考えは昔から存在していたが、実際にその技術が確立され始めたのは、わりと近年のことなのだとか。

 フィリップの父親であるハイランド国王は、政務の手腕もさることながら、魔石工学の技術向上に大きく貢献した技術者でもあったらしい。


「だが、そんな人物と比較されるこっちの身にもなってみろ。たまったものじゃない」


 親が優秀だと、子供はそれ以上を求められる、というやつか。


「周囲の人間が勝手に期待して、勝手に失望していくのにはもう慣れたが……このままだと癪なのでな。俺なりに、周囲を見返す方法というやつを考えたんだ」


「と言うと?」


「ハイランドの初代国王は、ここ迷宮都市アイリスにある迷宮の扱いに手を焼き、放棄したと本で読んだことがある」


 ああ……そういえばヴァサゴさんもそんなことを言っていた。

 初代のハイランド国王が扱いに困っていたから、迷宮探索ギルドを立ち上げて、今の仕組みを作ったのだと。


「もし俺が迷宮の謎を解き明かし、迷宮をもっと上手く運用することができたなら、皆も俺のことを認めざるを得ないと思わないか?」


 そりゃあ……今まで誰もやってこなかったことを成し遂げたら、皆の見る目も変わるかもしれないけどさ。


 どうしよう?

 迷宮っていうのは浄化システムであり、現在魔物が大量発生している原因は、おそらくフィリップが国民の不安を煽っているからだ……なんて、とても俺の口からは言えない。


 ……それにしたって、やはり王子様がお忍びで迷宮探索をしようというのは、ちょっと無茶なのではなかろうか?

 実際、俺たちが一歩遅れていたら危険極まりない状況だったわけだし。


「自分を馬鹿にした人たちを見返すために、こんな無茶なことをしたんですか?」

「なんだと……?」


 俺が言おうか迷っている間に、ミルカが口を開いた。


「あと少し助けに入るのが遅れていたら、あなたは命を落としていたかもしれないんですよ」


「……助けてくれたことには感謝しているが、わかったような口を利いてほしくはないな。周囲からの期待に押し潰されそうになった経験が、お前にあるのか? 何をどう頑張っても比較されて失望される屈辱を味わったことは?」


 だんだんと、自分の言葉で怒りを蓄積していくフィリップ。


「わからんだろうな。迷宮探索で日々の糧を得ているような自由人には」

「……わたしだって、頑張ってもどうにもならない苦しみを味わったことは、あります」


 カチンときたのか、ミルカもやや語気を荒くして言い返した。


 ……いけない。

 ミルカも『災厄の種』というスキルのせいで人一倍苦しんできた過去を持っているせいか、フィリップの言葉を無視できなかったようだ。


 彼女は年齢よりもしっかりしている印象を受けるが、やはり十代半ばの少女なのである。

 売り言葉に買い言葉で、二人のボルテージはどんどん高まっていく。


「どうにもならない苦しみだと……? ふん、どうせ大したことではないのだろう?」

「そっちこそ、迷宮の謎を解き明かすなんて言ってますけど、それって本来自分がやらないといけない事から目を背けて逃げているだけなんじゃないですか?」


「こ、のっ――」


 ……ここまで、だな。


 頭に血が昇ったフィリップが手を振り上げたところで、俺は二人の間に割って入った。

書いているうちに、いつの間にか喧嘩になってしまいました汗

ミルカは意外と気が強いのかもしれない…




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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] フィリップは好感が持てないキャラですな。 最近タイトルの「スキル売買」が登場していないので、たとえばフィリップが持っている珍しいスキルを売買するとか、少しは主人公の役に立ってほしいですな。
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