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第六話【鳴り響く悲鳴】

投稿しまっす!

お楽しみください。

 突然の悲鳴に、俺たちは急いで声のしたほうへと走った。


「うわぁぁぁ! く、来るな来るな来るな!」


 何匹もの魔物に追いかけられているのは、まだ少年ともいえるような男の子だった。

 年の頃は、ミルカと同じくらいで十五、六歳といった感じか。


「おい! そこのやつら! ボケッと見てないで早く俺を助けろ!」


 お、おう。助けを求めている側だというのに、随分と横柄な態度だな。


「どうしますか? 迷宮では何事も自己責任ですから、見捨てても問題はないと思います」

『放っとく?』


 あれ? 二人ともちょっと目が怖いんですけど。


「いやいや、さすがにあのまま放っておくわけにもいかないだろ」

「……わかりました」


 ミルカは武器を引き抜くと、風のように駆けて魔物の群れへと突撃していった。


「ギャギャ!?」


 あっという間に魔物との距離を詰め、次々と魔物を屠っていく。


「そこのあなた、ちょっとは役に立ってください」

 そう言って、ミルカは逃げ惑っていた少年の頭をぎゅむっと踏んづけた。


「ぐぇっ」


 空高く跳躍した彼女は、上空から獲物を狙っていた鳥型の魔物を真っ二つにする。

 なんとも見事というしかなく、踏み台にされた少年も地面にへばりつきながらその様子を黙って眺めていた。



「――ずいぶんと危ない状況だったけど、怪我はないか?」


 全ての魔物が片付き、ようやく落ち着いて話せる状態になってから、少年にそんな質問をする。


「ふ、ふん! さっき俺の頭を踏みつけた無礼な行為は、魔物から助けてくれた礼として、特別に無かったことにしてやる」


 ……なるほど。素直にお礼を言うこともできない子供、と。

 身なりは悪くないし、横柄な態度を取ることに慣れている様子からも、迷宮探索で生活の糧を得ている探索者というわけではなさそうだ。

 なぜ迷宮に足を踏み入れたのかは謎だが、そっちがそういう態度なら、これ以上関わるつもりはない。


「そりゃあどうも。帰り道には気をつけてください」

「……お、おい! まさか俺をこのまま放っておくつもりか!?」


 いくら一ノ瀬さんにお人好しだと言われた俺でも、どんな人物にだって笑顔で手を差し伸べるわけではない。


「もし助けが必要だと言うなら、相応の態度というものがあるだろう。命の危機を助けてもらったのに、まともに礼も言えないのはどうかと思うぞ」


 俺が率直な意見を口にすると、少年はしばらく黙り込んでいたが、ぼそぼそと小さな声で感謝の言葉を述べた。


「――……ありがとう、ございました」


 まあ、こういうのって無理やり言わせるようなものじゃないんだけどな。複雑。


「ちなみに、さっき君を助けたのはミルカだから、彼女にもちゃんとお礼を言ったほうがいい」


 そう言うと、少年はミルカのほうを振り返り、さらに小さな声で、

「……あ、ありがとう。さっきはその、助かった」

 と口にした。


「いえ、わたしはマモル様の決定に従ったまでです。あなたを助けようと思って行動したわけではないので、お礼を言われる筋合いはありません」


 心なしか、普段よりも厳しい口調だ。

 もしかしなくても、ミルカも少年の態度に苛立ちを感じているのだろう。


「うぐぅ……と、とにかく助けてもらったことについては礼を言ったんだ。きちんと責任を持って俺を迷宮の外まで送り届けてもらうからな!」


 なぜ、そうなるのか?

 お礼を言うのは最低限の行為であり、この少年の面倒を見るかどうかは、また別問題である。


 そろそろ説教するのも疲れてきた頃――グ~~~ッという大きな音が迷宮内に鳴り響いた。

 もちろん俺ではなく、ミルカやジルでもない。


「……お腹が減ってるのか?」

「わ、悪いか!? 安心したら急に腹が減ってきたんだよ」

「いや、別にそうは言ってない。わかった……このままここで話しこんでいても危ないし、とりあえず場所を移そう」


 そうして、俺たちは迷宮内にある休憩所まで移動した。

 ここであれば、多少は落ち着いて話せるというものだ。

 色々と聞きたいことはあるものの、まずは少年に食事をごちそうしてあげることにする。

 礼儀知らずだろうと何だろうと、腹を空かした少年を放置するのは寝覚めが悪いからな。


「どんなものを食べたい?」

「……まさか、食事を用意してくれるとでも言うのか?」

「言動から察するに、君は裕福な家で育ったようだから、十分満足できるような食事ではないと思うけど、一風変わったものなら用意できるぞ。魚か肉、どっちが食べたい?」


 そう言うと、またもや少年の腹がグギュルルルッと盛大に音を立てる。 


「に、肉が食べたい……」

「わかった。少し待ってろよ」


 俺は、空間収納からコンビーフの缶詰を取り出した。

 ちょっと高級なやつで、自分が食べるように取っておいたものだ。


「先にご飯を炊いておくか」


 他のパーティがやっていたように、泉の水でご飯を炊くことにする。

 蓋の蒸気穴からシュンシュンと白い湯気が立ってきたら、お次はコンビーフの缶詰だ。


 ……どうせなら、ひと手間かけようか。

 コンビーフはこのまま食べても十分おいしいのだが、ちょっと温めてやれば脂の部分が溶けて柔らかくなるので、めちゃおいしいのである。


 ちなみに俺の好きな食べ方は、コンビーフを玉ねぎのみじん切りと炒め和えたものに、ちょろっと醤油を垂らしてご飯と食べる、というものだ。

 肉と玉ねぎは抜群の相性だし、そこに醤油を垂らせば美味いに決まってる。


「えーと、たしか市場で買っておいたと思うんだけど――……あったあった」


 地球と気候条件が大きく異なるわけではないこの世界には、俺が知っている野菜に似たものが市場で売られていたりする。

 玉ねぎっぽいものがあって、俺がそれを玉ねぎだと認識すると、翻訳スキルがその野菜を『玉ねぎ』と訳してくれるので、そのあたりはとても便利だ。


 空間収納から異世界産の玉ねぎを取り出し、みじん切りにしてフライパンで炒めると、香ばしい匂いがあたりに充満していく。


「ここにコンビーフを投入して一緒に炒めて……と」


 炊きたてご飯に、炒め和えた熱々の具をたっぷりのせてあげたら、そこへ醤油をちょろり。


「はい、どうぞ」

「な、なんだ? さっき金属の箱から出した肉のような物体は、本当に食べ物なのか?」


 コンビーフ缶を初めて見た少年は、出来上がった料理をしげしげと眺めていたが、やがて食欲に負けたのか、むしゃむしゃと食べ始めた。


「な、なんだこれは!? めちゃくちゃ美味いじゃないか!」


 白いご飯と熱々の具を、口の中に詰め込めるだけ詰め込んだ状態は、さながらリスのようである。

 ご飯、コンビーフ、ご飯、コンビーフ――と何度も繰り返し、少年はあっという間に用意した食事を全部平らげてしまった。


「ぷはぁ! こんな美味い食事は、城でもそうそう出てこないぞ」


 そうかそうか。これだけの食いっぷりを見せてくれたら、こちらとしても作った甲斐があったというものだ。


 ん……? 城、だと……?


「迷宮探索なんか止めて、いっそのことコックとして雇ってやろうか?」


 あ~……ちょっと待った。

 ひょっとすると、これはもしかするとアレなんじゃないか?


 ……偶然にしては出来すぎていると思うが、この出会いが予定調和なのだとしたら、ヴァサゴさんが俺を呼んだのも納得である。

 俺たちが助けてあげなかったら、この少年は魔物にやられてしまっていただろうからな。


 ……いや待て。まだ確定したわけじゃない。

 ひとまず少年に話を聞いてみることにしよう。


「今さっきお城がどうとか言っていたが、君は城に勤めている兵士……とかではないんだよな?」


 戦いもせずに魔物から逃げ回り、態度だけは一人前以上のこの少年が、城勤めの兵士ということはないだろう。


「俺が兵士だと? 黙っていても溢れ出るこの気品がわからないとは、可哀想としか言いようがないな」


 おや? 腹が満たされたことで、またずいぶんと調子に乗ってきたじゃないか。

 このままこの場所に置いていってやろうかしら。


「気品があるかはわからないが、君に一般市民のような謙虚さがないことは十分わかったよ。それじゃあ君はいったい誰なのか、できれば教えてほしいんだが?」

「さて、どうしようかな~。教えてやってもいいんだが、驚いて腰を抜かしてしまうかもしれないぞ? まあ、どうしてもって言うなら名乗ってもいいんだが……」


 少年は思わせぶりな態度を取りながら、なぜかミルカのほうにチラチラと視線を送っている。

 あれか。同年代の女の子に『すご~い! そうだったんですね!』とか言われたいのか。


「……わたしは特に興味ありません。時間の無駄ですからそろそろ出発しましょう。マモル様もこの少年の相手をしていたら疲れるだけですよ。置いていきましょう」


 お、おう。ミルカさんや。

 斬り捨てるにしても、もうちょっと優しい言い方をしてやってもいいんだぞ?

 少年が今にも泣きそうな顔をしているじゃないか。


「は、ははは……そこまで言うのなら教えてやろう」


 あ、この状況でも名乗るのか。意外としぶといのね。


「いいか! 俺の名前は――――」

コンビーフ缶詰って、たまに食べたくなるんですよね。

バターと炒めてもめちゃおいしいですけど、カロリーががががが




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