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第二話【困った王子様】

投稿します。

楽しんでいただければ幸いです。

ちなみにマモルの所持金がゼロになっているのは、書籍版との差異です。

何かに使ったんだろう、と水に流してやってください。

次回更新は日曜日の予定です。

 ――リーザス大陸に存在する迷宮都市アイリス。

 今でこそ迷宮産業を中心に発展を遂げているが、街の歴史はそれほど古いものではなく、ここ百年ほどの間に急激に成長したといえる。


 もともと、この辺りの土地はハイランド王国のものだったらしい。

 現在のように、迷宮都市として自治権を獲得するに至るまで、いったいどのような経緯があったのか?


 為政者にとって、実のところ迷宮というのは扱いが難しい。

 迷宮で入手できる様々な物資を恩恵と考える者もいれば、迷宮から這い出てくる魔物を害悪と考える者もいるからだ。

 地上に這い出た魔物に対抗できるような武力を保持しているか、定期的に迷宮内の魔物を討伐するような仕組みを構築できていれば問題ないが、いつの世も、優れた指導者だけが民を導くとは限らない。

 百年前のハイランド国王も、自国の領土にある迷宮の扱いに手を焼いていたらしい。


 そんな国王に提案を持ちかけたのが、当時のヴァサゴさん。

 迷宮探索を支援する組織を立ち上げ、迷宮都市アイリスと呼ばれるまでに発展させたのは、彼女の頑張りがあったからに他ならない。


「あの、ヴァサゴさんは百年前からこの街の創設に関わっていたってことですよね。それだと、周囲の人には精霊ってバレているのでは?」


 それだけ長い年月にわたって活躍しているのに、まだ若々しい姿を保っているとなれば、普通の人間ではないと疑われそうなものである。


「大丈夫やと思うで。年齢と容姿の相関性は、種族によってかなりバラつきがあるし、エルフなんかはヒュムの十倍も長生きするからな。うちのことも、ちょっと変わり種のエルフか? くらいにしか周りは思ってへんよ」


 そういうものなのか。

 たしかに、俺のような普通の人間がヒュムに分類されるとして、この世界にはそれ以外の種族も数多く暮らしている。

 エルフは十倍も長生きするのか……。ミルカのような獣人はどうなんだろう?


「――こほん。話の続きをしても?」


 おっと。それぞれの種族寿命には興味があるが、今はギリアムさんの話の続きを聞くとしよう。


「そうして、扱いに困っていた迷宮から解放されたハイランド王国は、迷宮都市とともに発展を遂げたわけだ。今では、国の規模も当時と比べて遥かに成長している」


 ここまでの話を聞く限りでは、特に問題があるようには思えない。

 となると、今から話すことが魔物大量発生の原因なのだろう。


「また、現在ハイランドを治めている国王は非常に優秀で、国民からの信頼も厚い」


 ヴァサゴさんの右腕と自負しているギリアムさんは、情報収集も業務の一環らしい。


「えっと、それは良いことですよね?」

「ところが、ここ最近、そのハイランド国王の体調が芳しくないらしい。頼れる指導者の一大事となれば、国民も不安になるのだろう」


 そういうこと、か。


「ちなみに、ハイランド国王には後継ぎとなる息子が一人いるのだが……こちらの評判はすこぶる悪い。政務にもほとんど顔を出さず、遊び呆けているという噂だ」


 つまり、この国の将来これからどうなるの? という不安が蔓延し、そういった負の感情によって迷宮に魔物が大量発生している、ということか。

 なるほど……とは思うものの、それって俺が何か手助けできるようなレベルの話じゃないでしょうよ。


「話はわかりました。が、俺は具体的にどうすればいいんです?」


 望むべく明るい未来を掴み取るために、俺ができることとは。


「さっきも言うたけど、未来視はそんなに万能なわけやない。色々と制約があってな、うちに視える未来はあくまで自分自身が観測者に徹した場合の光景やねん」

「と、言いますと?」


「つまりやな、未来を観測した本人が、こうしろああしろとやかましく口を出してしもたら、視えたはずの未来も変わってしまうってことや。せっかくマモルが来たことで望ましい時間軸に移ることができたのに、余計な口出しをすると最悪の結果になることだってある」


 なんともややこしい話だが、ヴァサゴさんの言ってることはなんとなくわかった。


「ええっと、俺の行動はあくまで俺の意思で決めるべきものであって、誰かに誘導されてしまった時点で未来は変わってしまう……っていう理解であってますか?」

「その通りや。理解が早くて助かるで」


「あれ? でも、俺をここに呼んだのはヴァサゴさんなわけで、それって干渉したことになるのでは……?」

「そのあたりは小難しいんやけど、うちが何もせんでも、マモルが迷宮都市アイリスに来るっていう時間軸は最初から存在しててん。ちょっと干渉してもうたことは否定せんけど、影響はほとんどない……はずや」


 語尾がちょっと怖いです。

 たしかに、おばあちゃんの手がかりを探すため、迷宮を探索して何かしらの情報が得られればと思っていたのは事実だ。

 本来は存在しなかった未来へと作り変えたわけではないから、セーフ……なのか?


「とにかく、これから何をするかはマモルが自分で決めてくれたらええよ。それが、きっと良い結果につながるはずやから」


 見事な投げっぱなし……ではなく、これは自由意思の尊重だと言うべきだろうか。

 好きにやってくれと言われたからって、ずっと宿に引きこもって寝ていたら、きっと怒られるんだろうなぁ……。

 まあそれは冗談として、俺にできそうなことを考えなければ。


①迷宮内に大量発生している魔物を討伐する。

②ハイランド王を治療する。

③後継ぎである王子が立派な人物に成長する、ことを祈る。


 ――現状を聞いた上で、魔物が迷宮から溢れるのを防ぐ方法はこんなところか。

 うーん……無難なのは①かな?

 根本的な解決方法ではないが、当面の安全を確保しつつ、民衆の不安が治まるのを待つ……みたいな?

 もちろん、大量発生した魔物を駆逐するなんて俺だけでは無理だろうから、ギルドに所属している人たちを支援するようなアイテムを日本から仕入れてくるとか、色々と頑張らねばならない。


 ②の案は、たしかに王様の体調が回復すれば全て解決なのだが、すでに様々な治療が試みられているはずだろうし、望みは薄そうだ。

 もし何らかのスキルが原因で病んでいるのなら、俺のスキル売買の出番かもしれないが、面識もない一般人をすんなり信頼するとも思えないし。


 ……③については、もはや俺ができることではなく、ただのお祈りだな。

 すこぶる評判が悪い王子様が、立派に後継ぎとして成長すれば民衆も安心するのだろうが、そのような希望的観測に期待するわけにはいかない。




「――どうするか決めたって顔やな」

「はい。とりあえず、アイリスの迷宮に潜ってみようと思います」


 魔物が大量発生している現場を、一度自分の目で確認しておきたい。

 もし危なそうだったら速攻で逃げるけど、おじいちゃんの足跡をたどる意味でも、迷宮に挑むのはいつか通る道だ。


「迷宮に潜るのなら、わたしがお役に立てると思います。任せてください!」


 ふんすっと鼻息を荒くして胸を張ったのは、隣で話を聞いていたミルカだ。

 彼女は『災厄の種』という呪われたスキルを所持していたせいで、これまでずっと孤独に生きてきた過去がある。

 穏やかな日常を送ることは許されず、生活の糧を得るために危険な迷宮探索を続けていたわけだが、その経験を活かせる機会が来たことで嬉しそうだ。

 俺としても、ぜひ迷宮探索の心得を教えてもらいたいものである。


『ぼくも一緒にいくよ!』


 俺の足元をくるくると回って意気込んでいるのは、ダイアウルフのジルだ。

 まだ子供ながら、その身体能力には目を見張るものがある。


「わかった。そういうことなら、うちのギルドを存分に活用したってや。迷宮の地図なんかは無料で配布してるし、探索に役立つアイテムも色々と販売してるからな」


 ギルドでは迷宮探索の支援をしているだけあって、様々な物資を提供しているらしい。

 せっかくなので、この機会に有効活用させていただこう。


「ああ、それと、この街にいる間の滞在費用はこっちで出させてもらうからな。任しとき」


 ……ありがたい。

 なにせ、今の俺たちは一文無しだからな。

 早く稼がないと、スキルの一つすら買えやしない。


 ヴァサゴさんとの話を終え、ギルドで登録を済ませた俺たちは、必要な物資を色々と見繕うことにした。

 携帯食料なども格安で販売しているとはいえ、まとまると結構な金額だと思うが、これもヴァサゴさんの厚意で初回無料である。

 まだ何の役にも立てていないというのに、これは出世払いに該当するのだろうか。


 ――さて。

 それじゃあ、初めての迷宮探索に行ってみるとしますか。

読んでいただきありがとうございます。




~~~~~~~以下、宣伝です~~~~~~~~~

今月、7月20日に

『スキル売買で異世界交易(行脚から一部変更) ~ブラック企業で病んだ心を救ってくれたのは異世界でした』の書籍版1巻が発売されます。

良い作品となるよう大幅に改稿し、緋原ヨウ様の素晴らしいイラストも加わり、ボリューム満点の一冊となっておりますので、興味のある方はぜひお手に取ってくださいませ。

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