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【プロローグ】

お待たせしました。

web版の2章を更新していきます。

活動報告でも書かせていただいたのですが、書籍版との差異が発生していますので、前書きでちょくちょく補足しながら更新していく予定です。

ちなみにこのプロローグでは、マモルは魔物と戦った経験があるなどと言っています。

しかしweb版では魔物と戦っていません。ので! ああ~なるほど。こんな感じの魔物と戦ったのかな? と想像していただければ幸いです。

苦肉の策ですが、なにとぞご容赦を。


更新日としては、水曜日と日曜日の夜に新しい話を更新していく予定です。

どうぞお楽しみに^^

 無事に一ノ瀬さんを日本へと送り届けた後、俺たちはヴァレンハイムの街へと戻ってきていた。

『先輩はこれからどうするんです?』という一ノ瀬さんに、当面は気ままにこの世界を楽しみながら、おばあちゃんを探してみるつもりと答えたわけだが……何の当てもなく人捜しをするには、この世界は広すぎる。


「――さて、と。これからどうしたもんかな」


 そういえば……精霊のセーレが言っていたように、おじいちゃんが本当に紅の竜騎士だとするならば、冒険譚をまとめた本とやらを読めば何らかの手がかりを掴めるかもしれない。


「なあミルカ、前に紅の竜騎士の冒険譚の話をしていたと思うんだが、その物語の中に女性とかは登場するのか? なんというかその、伴侶みたいな人とか」


 隣を歩いている猫人族のミルカは、書かれている内容を全部暗記しているようで、質問に素早く応えてくれた。


「マモル様のお祖父様のことですよね。女性は登場しますけど……伴侶とされるような方は登場しなかったと思います」

「そうか……」

 どうやら、そんなに甘くはないようだ。




 ――そんな会話をしているうちに、目的地であるブライト商会へと到着した。

 一ノ瀬さんが新しい石鹸の開発に成功したことで、ひとまずブライト商会との技術提携は終了したわけだが、『ばんざーい。やったね!』で終わるほど大人の世界も甘くはない。


「お待たせしました。こちらをお持ちください」


 商会主であるブライトさんが持ってきたのは、金属製のカードだった。


「今回の技術提携における報酬は、一定期間ごとに商人ギルドに預けさせていただきます。このカードがあれば、ヴァレンハイムの街以外でもお金を引き出すことができますので」


 つまりこれは、銀行のキャッシュカードみたいなものか。

 報酬を受け取る方法までは考えていなかったが、こんな便利なものがあるのなら、別の街に行っても楽にお金を受け取ることができそうだ。

 スキル売買は非常に有用なスキルだが、なにかとお金が必要になってくるので、お金はどれだけあっても足りない。


「ありがとうございます」

「ところで……マモルさんはこれからどうされるのですか? もしよろしければ、今後も良いお付き合いができればと思っているのですが」


 ブライトさんは紳士的な笑顔で、そんなことを言ってきた。

 今回の一番の功労者は石鹸を開発した一ノ瀬さんであるが、技術提携の話を持ってきたのは俺である。

 こちらとしても、せっかく商会主に伝手ができたのだから、また新しい儲け話を持ってくるのも吝かではない。

 資金を潤沢にするという意味でも、さらなる新商品の開発に勤しむのも悪い選択ではないだろう。


 俺がそんなことを考えていると、客間の扉をノックする音が聞こえた。


「どうしましたか?」

「――失礼します。マモル様の知人だという方が商会を訪ねて来られたのですが、いかが致しましょう」


 知人……? 誰だろう?


「お名前は伺ったのですか?」

「はい。セーレといえばわかる……と言っておられました」

「なるほど……マモルさんのお知り合いですかな?」


 せーれ、セーレ……。

 うん。たぶんというか、ほぼ間違いなく精霊のセーレのことだろう。


 この前もそうだったけど、なんでこういきなり訪ねてくるんだよ。

 また無視して放置プレイなんかしたら、半泣きになって加護を取り消すとか言い出すんじゃなかろうか。

 いや、まあ、さすがにこの状況で放置はできないけども。


「ええ、おそらく俺の知り合いです。話の途中で申し訳ないのですが、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか」

「もちろん構いませんよ。どうぞ、この部屋をお使いください」


 紳士のブライトさんは、ほがらかな笑みを浮かべながら退室していった。

 しばらくしてから部屋に通されたのは、やはり碧眼の少女――精霊のセーレだった。


「――やあ、元気にしてたかい? また無視されたら加護を取り消そうかと思っていたところだよ」


 あ、やっぱりこの前のこと、ちょっと根に持ってるんだな。


「いやいや、訪ねてくるタイミングがいつも突然なんだよ。それと、いただいた加護はとても便利なので、取り消すとか本当に勘弁してください」


 セーレからもらった加護は、精霊の道を自由に行き来することができる優れもので、行ったことがある場所なら瞬時に移動できるのだ。

 正直、もうこれがない生活なんて考えられない。


「まあそれは冗談だけど、今日は君にちょっとした頼み事があってね」


 そういえば加護をもらった精霊の使徒というのは、困ったときに呼び出しがかかるのだったか。


「そんなに身構えないでよ。頼み事といっても、今回はボクからのじゃない。知り合いの精霊から頼まれたんだ」


 知り合いの精霊……?


「精霊同士で交流みたいなものがあるのか?」

「まあ、それなりにね。全部の精霊と交流があるわけじゃないけど」

「……それで、俺は何をお願いされるんだ?」

「うん。ここから海を渡った先にある大陸のことは知ってるかい?」


「いや、俺はまだこの世界の地理については詳しくないからな。ミルカは知ってるか?」

「海の向こう……ということは、リーザス大陸のことでしょうか」

「そうそう。その大陸にある迷宮都市でちょっと困ったことになってるらしくてね。迷宮から魔物が溢れ出る危険性については前に話したと思うんだけど、マモルはもう魔物と戦ったりはしたのかな?」


 魔物――この世界における負の感情が、浄化しきれずに実体をもってしまった異形の化け物。

 他の生物を殺すという本能のみで行動している化け物は、とてもではないが意思疎通が可能な相手ではなかった。

 赤黒い血管のようなものが全身に浮き出ている外見はひどく不気味で、息の根を完全に止めない限りは襲いかかってくる正真正銘の化け物といえる。


 つい先日のことなので、今でもあの魔物と向き合ったときのことは鮮明に思い出すことができた。


「その様子だと、かなり手強いやつに遭遇したみたいだね」

「まあな。ナイフを持った強盗なんかが可愛く思えるぐらい、とんでもない化け物だったよ」


「魔物の怖さがわかっているのなら話は早い。迷宮都市アイリスでは、迷宮内で魔物が異常発生してるらしいんだよ。このままだと、魔物が迷宮から溢れ出る可能性もある」

「まさか……その溢れ出た魔物の大群をなんとかしろって言うんじゃないだろうな?」


 狂暴な個体だったとはいえ、魔物一匹にあれだけ苦戦したのだ。

 迷宮から這い出てくる大量の魔物なんかを相手にすれば、命がいくつあっても足りない。


「さすがにそんな無茶は言わないよ。アイリスにある迷宮を管理している精霊は、そうなる前になんとか事態を収めたいと考えているんじゃないかな。君の話をしたとき、ぜひ顔を出してほしいと言っていたから」


 いやいや、俺が行ったところでそんな危機的状況を解決できるとは思えないんだが?


「もちろん、強制するようなことはしないよ。だけど、あいつが来てほしいと言ったということは、君が行くことで何らかの変化が起こる可能性を『視た』んだろうね。まあ、今のところは魔物が迷宮内で大量発生している段階だから、まだ猶予はあると思うよ」


 可能性を『視た』――というのは、ちょっと気になる言い方だな。


「それは、その精霊の能力みたいなものなのか?」

「まあね。もし行くのなら、詳細は本人に聞くといい。それに……彼女であれば君が知りたがっていることを教えてくれるかもしれないよ」


 おばあちゃんのこと、か。

 もともと、手がかりを得るために迷宮を訪れてみようと思っていたのだ。

 それが迷宮都市アイリスで悪いわけはない。

 もし本当に魔物が溢れ出るような危険な状況になれば、精霊の道を通って逃げてくればいいわけで、上手く事態を収拾できれば、知りたいことを教えてくれるという特典付きだ。


 とはいえ、さすがに俺一人で決めてしまうわけにもいかないので、同席して話を聞いていたミルカやジルの顔色を窺ってみる。


「わたしはマモル様の決定に従います。ちなみに迷宮都市アイリスは、迷宮探索を組織的に補助する探索ギルドがあることで有名な大都市ですね。海の向こうなので、まだ行ったことはありませんけど」


 俺と出会う以前、ミルカがどこの迷宮へ潜っていたのかは知らないが、一緒に迷宮を探索していたパーティが壊滅した責任を取らされて、彼女は奴隷に落とされることになったのだ。

 苦い想い出が残っている迷宮へ行くのは抵抗があるだろうし、訪れたことのない迷宮都市というのは都合が良かったかもしれないな。


『ぼくも行きたい! はやく強くなって、今度はマモルを守ってあげる』


 そんな嬉しいことを言ってくれたのは、床で丸くなっていたダイアウルフ――ジルだ。

 白くふさふさした毛並みは、思わず顔をうずめてしまいたくなるほどに愛らしい。


「どうやら、お願いは聞き入れてもらえそうだね。まあ、本当に危ない状況になったら逃げたって誰も文句は言わないよ。魔物の大群に突っ込むような無茶な真似をするのは、君の祖父ぐらいのものだから」


 おじいちゃん……そういえば、冒険譚にはそんなシーンが描かれているんだっけか。

 一匹を倒すのにもあれだけ苦労したというのに、魔物の大群を蹴散らすとか、いったい俺のおじいちゃんは何者だよ。


 ……俺の前では、ごく普通のおじいちゃんだったのだが。


「わかった。それじゃあ次の目的地は迷宮都市アイリスにしようと思う」

「うんうん、そう言ってくれると嬉しいよ。アイリスに到着したら、まずは迷宮探索ギルドに顔を出してみるといい。そうすれば、向こうから君にコンタクトしてくるはずだから」


 迷宮探索ギルド、か。


「詳しいことは、あっちの精霊に直接聞いてね。それじゃ!」

「あ、ちょっ……」


 呼び止める前に、セーレはささっと姿を消してしまった。

 せめて、向こうで会うことになる精霊の名前ぐらい教えてくれればいいのに……せっかちな精霊だなぁ。

 ……今度訪ねてきたら、知らない人のフリでもしてやろう。




 ――そうして精霊セーレとの話を終えた後、俺はブライトさんにしばしの別れを告げることにした。


 このヴァレンハイムの街で商売に精を出すのも悪くはないが、ひとまず次の目的地は迷宮都市アイリスである。

 ブライトさんは少しばかり残念そうにしていたが、すぐさま品の良い笑顔を浮かべて、俺たちを送り出してくれた。


「ヴァレンハイムから西の街道を進んでいくと、海から様々な物資が運ばれてくるトリム港があります。リーザス大陸に渡るのであれば、そこから船にお乗りになるといいでしょう」


 親切に道程を教えてくれたブライトさんに礼を言ってから、俺たちは一路西へ。

 トリム港は、ヴァレンハイムとはまた一風変わった活気に溢れる港町だった。

 海の向こうから運ばれてきた様々な舶来品が、港町の露天商に並べられている光景は、ちょっとしたお祭りのようである。


 幸いなことに、リーザス大陸への船便もすぐに確保することができた。

 路銀については、現金化していた残りわずかな所持金をほとんど使い切った感じだ。

 スキル売買の残高については、この前の魔物との戦いで全部使ってしまったから、これでもほぼ無一文という状態である。


 まあ、スキル売買や異世界交易を駆使すれば、お金はまた貯めることができるので、そこまで悲観することもない。

 ……それに、こうして船の甲板で気持ちの良い潮風に吹かれていると、細かいことはどうでもよくなってくるな。


 ミルカやジルも、船に乗るのは初めてだったようで、じっと海を眺めたり、陽だまりで暖かい甲板の上をごろごろと転げ回っている。



 そう――ここから、俺たちの新しい冒険の旅が始まるんだ。

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[気になる点] 最後の一文が打ち切り最終回にしか思えないのですが
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