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第二十三話【賢狼との邂逅】

投稿しました^^

※そういえば一ノ瀬さんの外見について描写がなかったので、第一話【おじいちゃんの遺産】を一部改稿しました。

 アッシュベルの元締め――ドルフさんが武器を片手に、何人かを引き連れて足早に駆けていく様子を見ると、何かあったのだろうと容易に想像できた。


 ドルフさんは種族的にはドワーフらしく、身長はさほど高くはないがとても筋肉質で、がっしりとした体型である。

 自らの身長ほどもある無骨な大金槌を背中に担いでおり、一振りすれば巨大な岩も簡単に砕けるのではないかと思えるほど頼もしい。


 だが、引き連れている若者の中には戦闘経験がなさそうな不安な顔つきをした者もいる。


「……一ノ瀬さんとブライトさんは、ここにいてください。俺とミルカでちょっと様子を見てきます」

「あ、ちょっと先輩――……もうっ! 調子に乗って危険なことはしないでくださいよ」


 一ノ瀬さんの言うことは、もっともだ。

 肉体強化のスキルを取得したとはいえ、ミルカから簡単な剣術の手ほどきを受けただけで、どのような危険からも身を守れるわけではない。


 むしろ、ちょっと自分が強くなったと調子に乗っている頃が一番危ない時期だ。

 だけど、普段は工房でガラスを作っている若い職人よりは、役に立つのではないかと思う。


「……マモル様が困っている人を放っておけない性格なのは、よく知っています。ですが、危険だと思ったらすぐ逃げてくださいね」


 並走しているミルカが、そんなことを言った。

 すでに二本のククリナイフを両手に構えている彼女は、いつもと違った鋭い眼光で周囲を警戒している。


 ドルフさんたちの集団に追いつくと、先頭にいたドルフさんがこちらを見てニカッと笑った。


「お前さんは……さっきブライトさんと一緒にいた兄ちゃんだな。その様子だと、手を貸してくれると考えていいのか?」


 立派な髭をたくわえているドルフさんは、外見こそちょっと強面だが、他者を威圧するような雰囲気ではない。


「どこまで役に立てるかはわかりませんが」

「そりゃあ助かる。落ち着いたら、きっちり礼はさせてもらうぜ」


「それで、いったい何があったんです?」

「……知ってるかもしれんが、アッシュベルではガラス作りが盛んでな。炉を高温にしなけりゃならんので、燃料となる木材が大量に必要になりやがる。だが、この辺りは森に囲まれた土地だからな、木材には事欠かない。街の近くにある伐採場から毎日のように木材が運ばれてくるってわけだ」


 ドルフさんは、そこで一呼吸置いてから言葉を紡いだ。


「その伐採場に――ダイアウルフが出現したらしい」


 ダイアウルフ……? 狼みたいなもの、かな。

 この世界には魔物が存在しているとのことだったので、魔物の一種かもしれない。


「ダイアウルフは……魔物ではないとされています。魔物は見境なく人間を襲う凶悪で残忍な生物ですが、彼らは知性ある獣――賢狼とも言われていて、無闇に人を襲ったりはしません。

ただ……その力はとても強く、怒らせた場合には死を以て償うことになると聞いたことがあります」


 しかし、魔物ではなく、人に危害を加えないのなら、ここまで騒動になっていないだろう。


「その通りだ。だが伐採場に姿を現したダイアウルフは手負いだったらしくてな。ひどく興奮した状態で、近づくことすらできないらしい。そのせいで伐採場は大混乱だ。木材の供給がストップしちまったら、仕事にも差し支える。最悪の場合も想定して、こうして急ぎ現場に向かっている最中ってわけだ」


 最悪の場合……ダイアウルフを仕留めるということだろう。

 手負いとはいえ、かなり手強い相手なのは間違いない。

 隣にいるミルカの表情が、緊張感を増していた。


「手伝ってくれるのはありがたいが、危険だと感じたらすぐ逃げてくれていい。これは俺たちの街の問題だからな」




「――ああ、ドルフさん! こちらです。急いでください!」


 伐採場に到着すると、慌ただしい雰囲気の中、すぐさまダイアウルフが現れた場所へと案内された。

 伐採場にはこれから製材する予定の大きな丸太が何本も置かれていたが、作業していた人たちは手を止め、丸太の陰に隠れるなどして様子を窺っている。


「――グルルルゥゥゥ、ガァッ!」


 ……でかい。

 人間よりも大きな狼が、興奮しながら威嚇している姿というのは、正直とんでもなく怖かった。

 無闇に人間を襲わないとか言われても、この姿を見れば警戒せざるを得ないのもわかる。


 手負いということだったが、たしかに体は傷だらけで、灰褐色の美しい毛並みが血まみれになってしまっていた。


 そんな状態を見たドルフさんが、ダイアウルフへと距離を一歩縮めようとしたが――


「ガァァァッ!」

「ちっ、こんなに興奮してちゃあ近づけやしねえ。このままだとお前さん死んじまうぞ。大人しくしてれば手当てぐらいしてやるってのによ」


「ガゥ、グルゥ――『……近づくな! 人間は信用できない。わたしたちが暮らしていた森を荒らし、住処を奪ったお前らなど、食い殺して道連れにしてやってもよいのだぞ』」


 ……あれ?

 ちょっと待って。


 今、ダイアウルフの言っていたことが理解できたような気がするんだが、気のせいか?

 賢狼とか言われているぐらいだから、ひょっとして人語を喋れるとか?


「なあ。あのダイアウルフ、今人間の言葉を喋らなかったか?」

「……え? わたしには、ただの唸り声にしか聞こえませんでしたけど……?」


 ミルカは不思議そうに首を傾げた。

 ドルフさんたちも、ダイアウルフの言葉が聞こえているようには見えない。


 え……俺だけ?

 なんでだ……?


 考えることしばし、俺はようやく一つの仮説にたどりついた。

 この場にいる皆になくて、俺だけが持っているもの。


 たぶん、これは翻訳スキルの効果だろう。

 言語体系が異なる世界の言葉を翻訳できてしまうスキルなのだから、異種族の言葉を翻訳できたとしても不思議ではない。

 おそらく、意思疎通ができるほどの知性を持った生物であれば、言葉を交わすことができるのではないだろうか。


 もしかすると平和的解決が可能かもしれないと判断した俺は、さっそくドルフさんにダイアウルフが言っていることを伝えた。


「――――……森を荒らした、か。たしかに、俺らは燃料として大量の木材を切り出してるからな。それで住処を失うことになったのなら、申し訳なく思う」


 ドルフさんは、興奮するダイアウルフに向かって深々と頭を下げた。


「だが、俺たちにだって生活があるんだ。そう言われたからといって、はいそうですかと木を切るのをやめるわけにはいかねえ。

ガラスが作れなくなったら、それこそアッシュベルの街は終わりだからな。

俺は元締めとして、皆の生活を守る義務がある。

それが納得できねえって言うのなら……悪いが話し合う余地はないってことになるな」


 たしかにドルフさんの言わんとすることもわかるけど……これ、そのままダイアウルフに伝えても大丈夫かな?

 一触即発の状況で交渉の余地なしとなれば、もはやたどる道は一つだと思うんだけど。


 ――そんなときだ。


 ダイアウルフの大きな体の陰に隠れていたのか、小さなワンコがひょっこりと顔を出した。

 いや、ワンコではなく、子犬ほどの大きさしかない小さなダイアウルフの子供だ。


『……おかあさんを、いじめないで』


 ダイアウルフの子供が、母親を守るようにして前に出てきたのだ。


『こ、こら。隠れていなさいと言ったでしょう。お前だけでも……ぐっ』


 その光景を見た人間は、翻訳スキルなどなくとも状況を理解できたことだろう。

 ドルフさんも、構えていた大金槌をゴスンッと地面に置いた。


「……きちんと傷の手当てをすれば、助かるかもしれませんよ。ですがここで争えば、手負いのあなたは間違いなく命を落とします。母親なら、子供の前で死に急ぐような真似はしないでください」


 そんな言葉が届いたのか、母親のダイアウルフは力が抜けたようになり、地面へ伏せるようにしてグッタリと横になってしまった。


 もはや気力で立っているようなものだったのだろう。

 ドルフさんたちが手当てをしてくれたものの、傷はかなり深く、血を流しすぎているため、かなり危険な状態とのことだ。




 ――そうして事態が一段落し、止まっていた作業が再開されていく中、ダイアウルフの子供はじっと母親を傍で見守っていた。


『おかあさん……』


 さて……と。


 俺はスキル売買を操作して、残金を確認してみた。

 次は鑑定スキルを購入しようと思って貯金していたので、700万ゴールドほど手持ちがある。


「……さすがにこっちは購入できないから、これかな」


 俺が購入したのは――【自然治癒力強化(中)】だ。

 お値段は500万ゴールド。


 【自然治癒力強化(大)】も在庫はあったのだが、価格が1000万ゴールドもしたので手が出なかった。


『それ、なに……?』


 ダイアウルフの子供が心配そうな顔をしながら、俺のほうを見た。


「――俺にも、お母さんが元気になれるようお手伝いをさせてくれな」

読んでいただきありがとうございました。

ダイアウルフの子供はとても可愛いのです。

犬飼いたいなぁ……。

次回更新は明日の朝を予定しています^^

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