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第十六話【異世界へご案内】

祝! ブックマーク2000件突破!

皆様ありがとうございます。

投稿しました。

石鹸は調べれば調べるほど奥が深いような気がしてなりませぬ。

「――それにしても、石鹸って趣味で作れたりするものなんだな」


 一ノ瀬さんをクルマに乗せて異世界へと連れていく道中で、俺は素朴な疑問を口にした。

 俺の知識なんて、油と灰汁を混ぜたら偶然にも石鹸ができちゃった、とかいう歴史の授業で聞きかじった程度のものである。


「材料が揃っていれば、そんなに難しくはないですよ。最初はうまく鹸化しなかったりして失敗しましたけど」

「材料は何を使うんだ?」


 化学分野についてはさっぱりなので、俺が聞いてもわからないかもしれないが。


「植物油に苛性ソーダ、それと香りをつけるための精油とかです」


 植物油や、香水なんかに使われている精油はイメージできるが、苛性ソーダというのは聞き慣れない単語だな。


「苛性ソーダっていうのは、水酸化ナトリウムのことですよ。石鹸作りで注意しないといけないのは、こいつの取り扱いです。強アルカリの劇物なので、皮膚にかかったりすると溶けますし、目に入ったりすると失明の恐れがあります」


「……石鹸作りは難しくないと言ってなかったか?」

「難しくはないですけど、きちんと準備しないと安全ではないです。もし廃液が出た場合は処理が大変なので、家庭で気楽に作るのはお勧めしません。わたしは大学の研究室とかで休憩時間を利用して作ってました」


「その水酸化ナトリウムっていうのは、簡単に手に入るのか?」

「薬局とかで販売していますよ。購入するときは身分証明を提示して書類にサインしないといけませんけど、数百円程度の価格で売ってます。

ただ……先輩の話だと、できるだけ現地の材料を使って石鹸を作るのが望ましいとのことだったんで、ちょっと考えないといけないかもしれませんね。

水酸化ナトリウム……簡単に手に入りそうな場所ですか?」


「手に入らないと思う。それがないと難しいかな?」


「うーん……難しくはなりますけど、まずは現状の生産工程を確認したいですかね。改良できる部分もあるかもしれませんし」


 おおう、一ノ瀬さんがとても頼もしい。

 自分の得意分野で活躍するっていうのは、やっぱり大切なことだよな。


 ブライトさんとの交渉はこれからする予定だが、既存商品の改良につながるのなら、前向きに検討してくれると思う。


「しかし……皮膚が溶けるような劇物を混ぜ込んであると聞くと、なんだか石鹸が怖く思えてくるな」

「あ~、それはちょっとわかります。正確な化学式を書けとか言われると不安しかないですけど、石鹸を作るときの鹸化反応では、油脂はグリセリンと脂肪酸になるんです。

ざっくり言ってしまうと、脂肪酸は弱酸性なので、強アルカリの水酸化ナトリウムと反応して、最終的に弱アルカリの脂肪酸塩――石鹸ができるって感じだったかと。

なので、肌が溶けるようなことはありませんよ」


 ……なるほどなぁ。


「たぶんですけど、さっき先輩に見せてもらった石鹸は、獣脂と灰汁を使ったカリウム石鹸だと思うんです。かなり柔らかかったですし」


 どうやら、石鹸には大きくわけてナトリウム石鹸とカリウム石鹸があるらしい。

 一ノ瀬さんがさっき言った水酸化ナトリウムを使用して作るのがナトリウム石鹸で、水酸化カリウムを使用して作るのがカリウム石鹸なのだとか。


 草木灰には炭酸カリウムが含まれており、それを水に溶かしたものが水酸化カリウム――灰汁ということらしい。


「その、ナトリウム石鹸のほうが性能はいいのか?」

「うーん。固形石鹸に適しているのはナトリウム石鹸ですね。カリウム石鹸は液体状で使用されることが多いので、ボディーソープやシャンプーなんかのほうが向いてると思います。液体石鹸に保湿成分を配合したものが、実際に売られていたりしますから」


 一ノ瀬さんはそう言って、頭の中で試作品の作成方法を思い描いているようだった。


「灰汁を使ったカリウム石鹸……かぁ。塩析とかすれば不純物を除いて固形化できるかな? でも、カリウム石鹸は水分子との結合が強いから塩析しづらいか。飽和食塩水ならいけそうな気もするけど……。

塩木とか海藻灰が使えるなら、そっちで作ってみるのもいいよね。

天然ソーダを使った石鹸とか本で読んだことあるもの。

あれって炭酸ナトリウムを含んでるのかな」


 ――などと言っているうちに、俺が運転するクルマは目的地に到着した。


 山中にポツンとある、和風の一軒家。


「……えーっと、先輩? ここは? あ、海外に出発する準備をする感じですか?」


 考えるのに夢中になっていた一ノ瀬さんは、クルマが停まってから辺りをきょろきょろと見回した。


「とりあえず、見てもらったほうが早いと思うんだ」


 そう言って手招きすると、一ノ瀬さんはこくりと頷いて後ろからついてきた。

 やや無警戒な気もするが、そこは元先輩である俺のことをある程度は信用してくれているのだろう。


「――なんだか、妙に迫力のある扉ですね」

「うん。先に言っておくが、ちょっと驚くと思うぞ」


 鍵を回すと、重厚な扉がギィィ、という音とともに開いた。



◆◇◆



「お帰りなさいませ。マモル様。えっと、そちらの方は――」


 さっそく出迎えてくれたミルカが、後ろからついてきた一ノ瀬さんに視線を向けた。


「あー、こちらは一ノ瀬さんだ。俺が以前働いていた場所で、一緒に仕事をしていた同僚になるかな」

「あ、そうなのですね。初めまして。わたしはミルカと言います」


 ミルカが丁寧に挨拶すると、一ノ瀬さんは目をまん丸にして驚きの表情を浮かべていた。


「……せ、せせせ先輩! なんだか猫耳と尻尾を着けた美少女が、よくわからない言語でお辞儀をしてくれたんですけど、これってあの、先輩の趣味なんです? いえ、わたしはそういうの気にしないですからね! 海外の美少女にそういった格好をさせて楽しむ趣向も法律に触れない限りはオッケーだと思います。かくいうわたしも友達から、いい感じに腐ってきてやがるとか言われますし、個人の趣味に口を出すのはマナー違反ってやつですよね。あ、でもわたしはどちらかと言えば犬派です!」


「……一ノ瀬さん、ちょっと落ち着いて。それ以上はいけない」


 気が動転しているのか、言わなくてもいいことを暴露し始めた一ノ瀬さんにストップをかける。


 すっかり忘れていたが……まずは言葉の問題を解決するのが先か。


 俺はスキル売買で【翻訳】のスキルを選択し、躊躇うことなく購入した。

 値段は100万ゴールド。

 昨日の売上のおかげで残金は600万ほどあったので、問題なく支払うことができた。


 一ノ瀬さんと話した感じだと、彼女は十分に求める仕事をこなしてくれるだろう。

 だがそのためには、言葉の壁は邪魔なだけだ。

 100万は安くないが、これは初期投資と思えばいい。


「あの、大丈夫ですか?」

「あ……れ? なんだか頭の中に声が。それに、美少女が喋ってる言葉が急に理解できるようになったんですけど」


 翻訳スキルを取得して戸惑っている一ノ瀬さんに、俺はここが異世界であることを告げた。

 さっき通ってきた扉が、異世界への扉だったのだと。


「え、いやでも……いくらなんでもそれは」


 外に出ると、明らかにさっきまでと周囲の地形も変わっている。


 それでも半信半疑の一ノ瀬さんに、俺はダメ押しで空間収納を披露してみせた。

 手品などではなく、大きな岩の塊が瞬時に消えてなくなり、離れた場所で取り出される様子を見た彼女は、ようやくここが別世界であることを信じてくれたようだ。


「その……騙すつもりはなかったんだ。貿易の話もまるっきり嘘というわけじゃなくて、相手が異世界人であるってだけでさ」

「…………」


 一ノ瀬さんは驚きを隠せないようで、体をふるふると震わせている。


「技術供与の話も、異世界の技術向上に役立てばと思ったわけで。もちろん無理強いはしないよ。無理そうなら――」



「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 異世界キタァァァァァァァァァァ!!」



 ……おや?

化学的なツッコミはできるだけ優しくお願いします( ´ ▽ ` )

一ノ瀬さんが良いキャラになりますように。

次話の投稿は明日の朝8:00の予定です。

頑張れ毎日更新。

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