第九話【初めての異世界貿易】
か、書けたので予約投稿しました……グフっ
「あの、昨夜はありがとうございました。おかげさまでぐっすり眠ることができました」
十分な睡眠を取ることができたせいか、ミルカの顔色は昨日と比べてとても良い。
「それは良かった。護衛のミルカの体調が悪いと、俺も困るからな」
「は、はい! マモル様は絶対にわたしがお守りします!」
「うん、よろしく頼む。それで、今日の予定についてだけど、今日は午後からヴァレンハイムに行くことにしようか。俺は扉の向こうで仕入れ……じゃなくてやることがあるから、ミルカも準備しておいてくれ」
そう言って、俺は日本に戻ってきた。
昨日注文しておいたククリナイフが、今日の午前中には届くという恐るべき運送業界の闇に感謝しつつ、無事に送られてきた荷物を受け取る。
……マチェットよりかは刀身が短いが、肉厚な炭素鋼の刃は切れ味が良さそうである。
ミルカは喜んでくれるかな?
荷物を受け取った後は、異世界で人気が出そうな品物を仕入れに行くことにした。
欲しいスキルはたくさんあるが、異世界の通貨はもう残金が百万ゴールドほどだ。
鑑定スキルなどを購入するには全然足りない。
かといって……異世界に何を持ち込むかは悩むところだな。
最先端技術が詰まった電化製品を持ち込んでも、そもそも電気が普及していないから役に立ちそうにない。
まずは生活用品あたりから攻めていくべきか。
俺は街中にあるドラッグストアへと向かい、香りの良い石鹸を大量に箱買いし、シャンプーも詰替え用の特大のものをいくつか購入した。
パパルカさんの店に置いてある商品を見させてもらったが、石鹸などは香りもなく(ちょっと臭いぐらい)、灰色をした粗悪な代物だった(パパルカさん、ごめんなさい)。
ネットで調べてみたが、たぶん獣脂や草木灰なんかを混ぜて作った石鹸なのだろう。
シャンプーはそもそも置いていなかったので、これも人気が出ると思う。
大きなリュックに大量の商品を詰め込んだ俺は、それをクルマに積み込んだ。
「……ふぅ」
さすがにこれだけ買うと、かなりの重量がある。
「次に購入するスキルは、空間収納にしようかな。(小)なら五百万ゴールドなので、頑張れば買えないこともないだろう」
異世界へと戻ると、俺はさっそくミルカと一緒にヴァレンハイムへと発った。
大量の荷物が詰まったリュックについては、基本的に俺が持っておくことにする。
護衛役のミルカが、重たい荷物で自由に動けないというのは困るからだ。
「マモル様、やはり荷物はわたしが……」
「いや、いい。それよりも、これを使ってしっかりと俺を守ってくれ」
申し訳なさそうにしていた彼女だが、購入したククリナイフを渡すと、ぱぁっと表情を明るくしてナイフの感触を確かめ始めた。
「……うわぁ! この短剣、とても扱いやすいです。持ち手が滑りませんし、ちょうどいい重さで振り抜けます」
剣術スキルを習得する前から、短剣の扱いには習熟していたのだろう。
ふぉんっ! と双剣を振り回す姿は見事なもので、まるで美しい剣舞のようだ。
「――っ!?」
そんな姿に見惚れていると、ミルカが尻尾を逆立てるようにして、勢いよく後ろを振り返った。
何事かと思ったが、そちらの方向に視線を向けても怪しい物は見当たらない。
いきなり魔物が茂みから飛び出してきて――みたいな展開にもならず、そのまま数秒じっとしていたが、何も起こる気配はなかった。
「……どうかしたのか?」
茂みの辺りを射るような目つきで睨んでいた彼女に問いかけると、彼女の膨らんだ尻尾がゆっくりと萎んでいった。
「いえ……わたしの勘違いのようです。ご心配をおかけして、すみません」
もしかすると、茂みの奥に野生動物でも隠れていたのかな?
――ともあれ、俺たちは無事に森を抜け、ヴァレンハイムへとたどり着いた。
運んできた品物をどうやって売るかは悩むところだが、とりあえずはパパルカさんの店に持って行こうと思う。
珍しい品物なら大歓迎と言っていたし、品質の高い石鹸やシャンプーには興味を持ってくれるはずだ。
肌はツヤツヤ、髪はサラサラに……――あ、パパルカさんは蜥蜴人だから、髪は生えていないんだっけか。
「おいおい……これは本当に石鹸なのか? まるで搾りたての牛乳のような真っ白な色をしてるじゃないか」
そうだろうとも。だからこそ牛乳せっ……げふんげふん。
「こっちは液状の石鹸か? すごく良い香りだが……これも体に塗りつけて使うのかい?」
「あ、それは髪を洗うときの石鹸みたいなものです。シャンプーと言うんですが、俺やミルカのような種族には必要なものかと思って」
「はは! たしかに蜥蜴人は髪の毛が生えないからな」
パパルカさんは爬虫類独特の瞳を細めて、朗らかに笑った。
「それで、これをどうする気だい? おれに売るよりも、自分たちで販売したほうが利益が出ると思うんだが」
「えっと、ヴァレンハイムの街で商品を売るとしたら、申請とかは必要になりますか?」
「きちんとした店を構えるのなら、商人ギルドに登録する必要があるな。露天商なんかはそこまで厳しく制限はされないだろうが」
「であれば……パパルカさんのお店でこの石鹸やシャンプーを販売してもらえないでしょうか? 売上金の分配はこちらが七割、パパルカさんが三割ということで」
「三割!? 店に置くだけでそこまでもらっていいのかい? 在庫リスクをこちらが背負うならわからなくもないが、この商品が売れ残るとは思えないし……」
そう……かな?
化粧品の原価率は高くても三割程度だと言うし、本来なら七割はもらいすぎなぐらいだ。
まあ、今回は既存製品よりも品質の良い物を持ってきてるわけだが。
「もちろん、在庫を買い取れなんて言いませんよ」
価格設定は少し高めにしておきたいので、露天商で販売するよりも、きちんとした店で販売しておきたい。商人ギルドへの登録なんて、異世界から来た俺がすぐさまできるものではないだろうし、奴隷だったミルカも然りだ。
なので、やはりパパルカさんの店に商品を卸すというのが理想的な販売方法だと思う。
「それなら、ぜひともお願いしたいところだ。いや、あのときマモルに声をかけた自分を褒めてあげたいよ」
いやいや、こちらこそ。
初めての異世界で心細かったとき、街道で馬車に乗るかと誘ってくれたときは、本当に嬉しかったんですよ?
「それじゃあ、この商品の価格を決めておくことにしようか。試しに石鹸を一つ使わせてもらっていいかい?」
石鹸を泡立て、汚れを落とす効果や香りを堪能したパパルカさんは、異種族の俺でもわかるほどの満面の笑みを浮かべた。
「こりゃあすごい。この石鹸なら、一つ千ゴールドでも飛ぶように売れると思うぞ」
石鹸一つが千ゴールド、ですと!?
たしか……購入価格は一つ百円程度だったはずなので、十倍の価格設定ということになる。
こちらの取り分が七割だとしても、実に七倍。
これが異世界貿易ってやつか……末恐ろしいな。
「あとはどうやって宣伝するかだが……」
「あ、それについてはちょっと考えてることがあるんです」
新しい商品を購入してもらうには、やはり実際に試してもらうのが一番だと思う。
「ミルカ、さっそく宣伝しに行くぞ」
「あ、はい!」
俺はこの前、神殿まで行く途中である施設を発見したのだ。
目指すは――ヴァレンハイムにある一番大きな公衆浴場である。
◆◇◆
――彼が顔を見せなくなってから、どれぐらい経っただろう。
最後に顔を合わしたときには、ずいぶんと衰えたものだと馬鹿にしてやったのに、「その通りじゃ」などと笑い飛ばしていた。
昔なら喧嘩になっていたところなのに……やっぱり人間は寿命が短くっていけない。
とはいえ昔の義理もあるから、屋敷に変なやつが近づかないよう時々見張っていたけど……なんだか妙なやつが屋敷から顔を出したじゃないか。
知らない人間だけど、どうにも懐かしい匂いがする。
……声をかけてみようかな。
いや、このままの姿だと驚かせてしまうかもしれない。
それなら人型になってから……などと考えているうちに、さっさと森を抜けて行ってしまったじゃないか。
仕方ない。ちょっと追いかけてみよう。
――……危ないところだった。
まさか、アレの所持者がヴァレンハイムにいるとは思わなかった。
でも……やっぱり彼の血縁者といったところか。
すぐさま対処してくれた。
どうしよう……お礼も兼ねて声をかけたいけど、従者になった少女と仲良さそうに喋っているから、話しかけるタイミングが難しい。
それに、従者になった少女はなかなか敏感みたいだ。
あと少しでこっちに気づくところだった。
……もうちょっと様子を見ようかな。
次回はお風呂回になるのだろうか。
男湯だけでなく、女湯の様子も書いてほしい場合は言ってくださいな^^
エロくはならないと思いますが、そういうのが苦手な人はすみませぬ~
明日の朝に投稿する予定でございます。