7話
おはようございます、芥です。
採血の実技練習が始まりました。まずは駆血帯からということで練習している中で、私の血管が看護師に全然優しくないことが判明しました。普通よりも表在されていないし細い。最悪かよ。そんな腕で手でこのストーリーを綴っております、どうも。
それでは、しばしお付き合い下さいませー。
それから私達は話した。私は声で、7番くんは文字で。7番くんから、話しかけてくれた。
《いつもこの早い時間にいるの?》
「いや、今日はたまたまで」
《そうなんだ》
「うん…」
やばい、早々に会話を終わらせてしまった。何か…
《はるか?》
「うぇっ?」
変な声が出た。
《海って書いて、はるかって読むんだね》
「う、うん…」
《素敵な名前だね》
「あっ、えっ…えっと、ありが、とう?」
珍しい名前だねとは言われるが、素敵だねと言われたのは初めてだった。慣れないことへの動揺から、感謝の言葉が疑問形になる。7番くんはにっこりと微笑んでいた。
私も何か名前の話で…と、7番くんの名前を思い出そうとした。
「あっ」
7番くんが目をぱちくりとさせた。
「内海、海が一緒だ」
高校生とは思えないような反応をしてしまった。一緒なことくらい、わざわざ言わなくても分かるっつーの。
「……ふっ」
7番くんが笑った。
《うん、そうだね》
その文字から、7番くんの優しさが伝わってきた。自分の子供な反応と7番くんの大人な対応を考えると、今ものすごく恥ずかしい。
《あと、悠馬の悠もはるかって読むことができるんだ》
「へえ…!」
先程から、まるで初めて博物館で恐竜を見て感動している、純粋無垢な少年のようなリアクションをしている気がする。
内海悠馬。うつみしゅうま。
「うつみ、しゅうま」
私は声に出していた。何故なのかは分からなかった。ただ何となく、声に出してみたかっただけだった。
内海くんは、私を見つめていた。
「あ…え…お…り……、あ、う…あ…」
「うん」と私は答えた。
「影森海です」
内海くんは嬉しそうに言った。
「あ、う、あ…!」
一生懸命声に出そうとしていることに意識がいって、内海くんの頑張っている姿ばかりに気を取られていたが、よく考えると男子に下の名前で呼ばれるのは恥ずかしい。
内海くんは、シャーペンを持っている手を動かした。
《海》
海って、私の名前?と思っていると、続きが書かれていた。
《海、って呼んでもいいかな…》
今度は私が目をぱちくりとさせる番だった。すると、内海くんは慌てていた。
《ごめん、急に馴れ馴れしかったよね。海って響きが好きだったから、つい…》
響きが、好き。その内海くんの文字に、私は何故かどきっとした。
内海くんは、照れながらシャーペンを走らせていた。書くスピードが今までよりも少し早い。よく見ると、耳まで赤くなっている。
《調子に乗ってごめん。影森さんって呼》
「いいよ」と書くのを遮って私は言った。
「海でいいよ」
そして私は言った。
「私は何て呼べばいい?」
すると、内海くんは驚いた顔をして、また照れた。
《俺は恥ずかしいから…、内海でいい》
自分は名前じゃないんだ。それ、私が恥ずかしいやつじゃないか?でもまあ海の字が同じだし、なんて考えて、この日から私は内海くんと呼ぶことにした。
内海くんのノートには、「内海」という文字の上に「海」の文字があった。
お読み頂きありがとうございます。
度々、誤字報告でお世話になっております(笑)いつになったら一発でパーフェクトになるのやら…
それでは、また次回お会い致しましょう。