4話
おはようございます、芥です。
そういえば、何で挨拶がおはようなん?と聞かれそうな気がするのでお答え致しましょう。ずばり、はじめの挨拶はおはように尽きる!
…えー、ということで、ただの私の拘りです。
それでは、しばしお付き合い下さいませ。
何をオロオロしているのだろうと気にはなったが、いざ声をかけようとなるとさすがに勇気がいる。隣の席ではあるもののコミュニケーションをとったのは、7番くんの眩い笑顔対微妙にヘラっとした私の挨拶という、あれのみ。声をかける勇気だとかいう前に、まず印象が最悪なのではないか。いや、印象云々ではなくてそもそも私自身が恥ずかしい。などとぐるぐる考えている間にも、7番くんはずっとオロオロとしている。
「あの、どうかしました…か」
考えるよりも先に、いつの間にか声に出ていた。すると7番くんは驚いた表情を見せたが、すぐに嬉しそうな顔をした。ああこれだ、眩しい。
「お、あえ、あ…」
「あー…えっと、もう1回ゆっくり言ってもらっても?」
唇の動きで理解しようと、私は7番くんの口元を凝視して構えた。すると7番くんは、
「あ…え、えお…」
と言うと、私の手首を持って手のひらに人差し指を滑らせた。そうか、筆談するとか言っていたな、そういえば。
《おかねがつりぐちのところにのこっていて それをつたえようとしたんだけど とどけられなかった》
届けられなかった。それは、お釣りをなのか、思いをなのか、言葉をなのか。多分、きっと全部だ。7番くんの右手の人差し指以外で握られている手の中には、10円玉が4枚あった。7番くんが買う前にパック飲料を買った人は、今すれ違ったいちごみるくの先輩なのかもしれない。
「いちごみるく買ってた女の先輩?」
そう聞くと、7番くんは嬉しそうに頷いた。確か二人の女の先輩のスリッパの色は緑色だった。ということは3年生。しかし、このやり取りだけで結構な時間が経ってしまったはずだ。3年生の教室は…
「分かった、40円届けてくる」
そう言うと、7番くんの手から40円をさっと奪うと走り出した。7番くんが何か言った気がしたが、私はそのまま走った。何故、こんなにも私は必死になって走っているのだろう。たかが40円だ。しかし歩を緩めることはなかった。
3階と4階の踊り場のところで、いちごみるく先輩に追い付いた。
「あのっ、すみませんお釣り忘れてます…!」
「え…?ああ、取り忘れてたのかー。1年生?わざわざ4階まで来てくれたの?ありがとね」
「あ、いえ、これは私じゃなくて、その、私の隣の席の人が見つけてっ」
息を荒らげながら、上手く整理されていない言葉を先輩に言う。
「……?うん、ありがと」
もう一人の方の先輩が、どういうこと?とお釣りを忘れた方の先輩に聞いている。聞かれた先輩は、よく分からんと答えてストローに口を付けていた。まだ肩を上下させながら、私はしばらく踊り場に立っていた。
自動販売機のところに戻ると、7番くんがいた。
「あ、帰ってていいよって言っとけば良かったね。ずっと待たせてごめん」
すると7番くんはぶんぶんと首を横に振った。
「あとごめん、君が釣り忘れに気付いたんだって、上手く先輩達に伝えられなかった」
7番くんはきょとんとしている。
「いや、上手く言うのって難しいなって思って。じゃあ」
「あ…」
「ん?」
「あ…い…あ…お…うっ」
「……あ、り、が、と、う?」
私がそう言うと、7番くんは大きく頷いた。
「いや別に、大したことは…」
7番くんはまた大きくかぶりを振った。
「あ…い…あ…お…う!」
そう言う7番くんの笑顔は本当に眩しくて、私は少し照れた。
「まあ…うん、どういたしまして」
7番くんはまた笑顔を見せてくれた。くしゃっと音がしそうなほどの。例えるなら桜が満開になった時のような、晴れやかで、それでいてどことなく儚げな笑顔だった。
お読み頂きありがとうございます。
さて、4話でございました。やっと二人の絡みが描写できてうほほいな気分です。早く濃い展開までいきたいなあ、うずうず。
そして、誤字報告ありがとうございました。お手を煩わせてしまいまして…感謝です。「となり」って、動詞の時は隣り、名詞は隣となるんですねー、知らなんだ。賢くなりました。
それでは、また次回お会い致しましょう。