魄皇鬼 2
茅葺の屋根の上で睨み合う。
人などは取るに足らない。言わば虫ケラと変わりないモノ。
だが、この人間は……。
いや。刀だ。
この刀は、確実に
我を滅ぼすだけの力を秘めている。
ゆっくりと、腰の刀を引き抜く。
大きな刃の三日月刀が、炎を照り返した。
パチッ。
小さく茅の爆ぜる音に、ほぼ同時に足元の茅を蹴る。
鋼の音に、交わる刃が火花を散らす。
朱色袴の巫女は、その細い腕からは想像も出来ないほどやすやすと三日月刀の一撃をうけた。
ひるむ事なく打ち据えてくる、その一撃一撃が確実にこの魄皇鬼の急所を狙っている。
ザアァァァ……。
羽ばたきに似た音と共に、魄皇鬼の足元から数十もの和紙の鳥が意思を持ち襲いかかっていった。
その影で、音も衝撃も無く、煌めく〈紅桜〉に切断された三日月刀の刀身が弾き飛び、茅葺の屋根に突き刺さった。
折られた。
いや、斬られたのか。
「〈紅桜〉忘れはせぬ」
毒々しく紅い唇が笑み、白い牙を覗かせる。
巫女の薙いだ刀、〈紅桜〉は三日月刀と共に魄皇鬼の腹を裂いていた。
口から溢れ出る、熱い塊が魄皇鬼の口元を紅く濡らす。
振り返るその瞳が、膝をつく巫女を捉えた。
すれ違いざまに薙いだ鬼の鋭い爪が、深く巫女の腹を抉っていた。
ハラワタまで届いたであろう、爪を濡らす巫女の血を、その舌がなめ取る。
巫女の生き肝とあらば、こんな傷は直ぐに塞がる。
霊力の満ちたその血に力がみなぎる。はずだった。
腹の底から、吹き上がる様な波が打ち上がる。
今一度魄皇鬼の口からは、血塊が溢れ出た。
っ!
なんだ。この血は。
よろめく魄皇鬼を追うように、無数の矢がその背中を貫いた。




