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奈落の底の声

「手足をがれては、身動きの取りようもないな。〈紅桜〉」


 小馬鹿にしたような魄皇鬼の言葉も私の耳には入ってこない。


 今見たものを、理解することを頭が拒んでいる。


 なぜ、こんな事に。


「残念だ。〈紅桜〉」

 座り込む私の頭上で、魄皇鬼が手をかざす。

さやが死ねば、貴様はまた新しい鞘を求めて姿を消してしまう。

 巫女と共に、阿僧祇あそうぎの闇に沈め」


 手のひらに青白い闇がわだかまる。


『──────』


 風の音に乗って小さな声が聞こえた気がした。


「ぐっうぅぅ」

 そして力を抑え込もうとする苦しげな魄皇鬼のうなり声。


朱雀すざく玄武げんぶ白虎びゃっこ勾陣こうちん帝久ていたい文王ぶんおう三台さんたい玉女ぎょくにょ青龍せいりゅう

 これは破邪護身、四神・神人・星神の九星九宮きゅうせいきゅうきゅうの九字。

 そしてこの声。


 多少声がくぐもって聞こえるものの、面をあげた私の目は、はっきりとした瞳でこちらを見つつ、九字を唱える兄様と目が合う。


 生きろ!


 その目が強く訴えているように感じて、瞳から大粒の涙が溢れ出た。


「ぅわあああぁっ!」

 叫ぶ声とともに、下からすくい上げた私の太刀たちが魄皇鬼の右腕を斬りとばすっ。


 吹き飛んだ腕は、青白い闇をとどめたまま宙を舞い、風の中にチリと消えた。


「小賢しい虫ケラがぁっ!」

 間合いを取る私に、鬼の形相を見せる魄皇鬼が兄様の頭部の乗った左手を握りつぶすようにせばめていく。


「兄様っ」


 最後まで九字を唱え続けていた口元が、何かを吐き出して泡が破れるように弾けて霧散した。


 焼け焦げるような音と、魄皇鬼の叫ぶ声。


 貼り付いた破邪の札が魄皇鬼の左手を焼く。


 血の五芒星。

 最後の時に飲み込んだのか。


 消し炭と化した左手がポロポロと崩れていく。


 白く美しかった顔は見る影もない、怒り狂う鬼が先のない腕を振るった。


 不可視の刃を散り落ちた桜の花びらが包み込み軌跡を映していく。


 行ける。


 踏み込む草履ぞうりが、悪意に満ちた桜の凶刃きょうじんを飛び越えた。


 〈紅桜〉私に力を貸してくれ。

 強く握る刀が手に溶け込むように軽く、一体と化して舞う。


 振るう刀が魄皇鬼の首を跳ね飛ばした。

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