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決意と奈落

 〈紅桜〉に支配され、人ではなくなる。


 構える〈紅桜〉が、小さく震える。

 私は……何を信じればいいのだ。


 確かに歴代の刀隠れの巫女は戦に倒れる者が多いが、宿命と信じていた。


 優しく幼子に言い聞かせるように口を開く魄皇鬼に、桜の花びらが舞う。


 それは私に見せた儚くも美しい桜の姿ではなかった。

 怒り、叫ぶように花は魄皇鬼に立ち向かう。


 桜が鬼と戦っている。


 そんな風に感じて、視線を桜に走らせる。

 一人の巫女が、確かにそこに立っていた。


わずらわしい」


 短く呟き、開いた手のひらから蒼白い炎が踊る。

 チリチリと焼け焦げる桜の下には、もう巫女の姿は消えていた。


 朱色袴に高く結った髪。

 年の頃は私と同じ十五、六だろうか。

 あの顔は、見覚えがある。

 〈紅桜〉の刀身に写り込んだ、記憶の中の巫女。


 おそらく、おおじじ様の話してくれた、この村を救う為に戦った刀隠れの巫女。


 そうだ。


 カチャリと刀身を鳴らし、しっかりと〈紅桜〉を構える。


「今〈紅桜〉を手放せば、お前を滅ぼすことが出来る物がなくなってしまう」

 おサナばぁちゃん。おヨウ、おフウ。

 おミヨの大好きだったこの村。


「考えるのは、お前を葬ってからだ」

 今は信じるしかないんだ。神刀〈紅桜〉の力を。


「愚かな」

 私の愚行をたしなめるわけではない、むしろその口調は抵抗を待っていたかのような喜びを含んでいる。


「聞き分けの悪い妹を持つとは、貴様の苦労がしのばれるな。

 緑陰りょくいん


「兄に、何かしたのかっ!」

 そろそろ帰る頃かとは思っていたが、確かに遅い。


 魄皇鬼の掲げる左手のひらに、ボォっと霞がかかり、徐々に丸く形を成していく。


 暗く落ちる影は、人の顔を創り出す。


 その光景に私は立っていられなくなり、回廊に崩れ落ちた。

 肉塊がゆっくりと瞳を開く。


薄紅うすべに……」


 暗く淀んだ兄の首、その唇が私の名を呼んだ。


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